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第十二章
109.奇跡が起きたら……
しおりを挟む身体を離してからお互いの涙が落ち着くと、杏は右手で涙を拭いながら言った。
「阿久津ってさ、本当にかっこいいよね。私達が衝突する度に駆けつけたり、間違いに気づかせてくれたり、悩みに共感してくれたり。人の気持ちに寄り添ってくれる人だったね。阿久津には本当に感謝してる」
「うん。私も彼がいなかったら変われなかった。いつまで経っても自分の気持ちさえ言えない意気地なしだったかもしれない」
「ねぇ、昨日の報道で言ってた片想いの人って結菜の事でしょ」
「へっ?!」
「実は先日阿久津のスマホを拾ったの。持ち主を確認しようと思って写真フォルダを開いたら、結菜の寝顔写真が入ってた。それだけじゃない。あいつはいつも結菜を目で追ってた。笑ってたり、すれ違ったりする時は特にね。見ている方まで本当に好きなんだなぁ~と思わせるくらいに」
「あはっ……、そうかな。日向が私を見てたなんて全然気づかなかった」
私もあいつを目で追ってたのに、知らない間にあいつも目で追ってくれてたんだ。
嬉しいを通り越して愛おしさが止まらないよ。
「渡り廊下で二階堂くんと結菜が抱き合ってた時にあいつがものすごい剣幕で割って入ってきたでしょ。あの時の様子を見てたらマジなんだな~ってね」
「わわっ! その現場を見られてたの?!」
「二階堂くんが好きだったから教室から目で追って行ったらこのザマよ。あの時は現場を見てて悔しいと思ったけど、いま思うと更に羨ましいよ。だって、私は高杉悟の大ファンなんだもん」
「そうだったんね……。でも、日向とは気持ちが繋がれないんだ」
「二階堂くんがいるから?」
「ううん。実は先日、二階堂くんとは付き合えないと伝えたの」
「えっ……」
「報道で聞いたかもしれないけど、日向の家で1ヶ月ほど家政婦をしてたの。それも奇遇でお互い勤務当日まで知らなかった。アルバイトの面接の際に好意を持たないで欲しいと誓約書を書かされたの。その時は何とも思ってなかったのに、気づいたら好きになってた。でも、誓約書があるからもう二度と会えない。会ったらストーカー罪で訴えると言われてて……」
「なにそれ……。酷い」
「今になって思う。軽々しく誓約書にサインするんじゃなかったって……。誰が誰を好きになるかなんて、誰にも予想がつかないのにね」
「でも、阿久津も結菜を想ってるよ。だから、大丈夫。これからはあんたが頑張らないとね! インスタ荒らしの【ユイ】」
「えっ?! どうして私が【ユイ】というニックネームだという事を知ってるの??」
「長年あんたの親友やってたんだからそれくらいわかるよ。……またあいつに会えるといいね」
「うん。会いたい。もし、もう一度会う事が出来たら、今度は私が気持ちを伝えなきゃいけない番だね」
それが、いつになるかわからない。
もしかしたら一生言える日が来ないかもしれない。
でも、私達は宇宙の中の宝石のように青く輝いてる地球という星の中の、1人と1人。
『80億分の1のキセキ』で必然的に出会った。
恋心に気づかれて一度引き離されてしまったけど、ミカちゃんが家からいなくなってしまった時に奇跡的に再会を果たした。
だから、またいつかその奇跡を起こせたら彼に言おう。
胸の中に止まっている120%の気持ちを。
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