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第十二章
111.不審者
しおりを挟むーー場所は日向のマンション手前にある植栽付近。
私は堤下さんと別れてからこの場に直行した。
先程話に聞いていた通り、マンション周辺にはマスコミが機材を片手に集っている。
腕時計の時間は16時50分で外はまだ明るい。
私がこのままマンションに突撃したら、マスコミの餌食になるだろう。
花丸スポーツ新聞以外のマスコミに私の顔が知れてるかわからないけど、油断大敵には変わりない。
でも、今日中に彼に会いに行きたい。
何かいい方法はないかな。
結菜は遠目からエントランス付近に滞在しているマスコミの姿を目に映したままボーッと考えていると、突然ある名案が閃いた。
しかし、その名案を叶えるには少し時間がかかる。
何故なら少しばかしご無沙汰だから。
「そうだ! あの方法だったら顔がバレずに済む。よし、じゃあ実行に移そう」
結菜は作戦を決行させる為にマンションを離れてある場所へ向かった。
ーー3時間後。
日向は自宅に到着すると、洗濯物を畳んでいる家政婦に仕事を上がるように伝えた。
何故なら物音一つすら立てて欲しくないほど精神的に参っているから。
リビングで家政婦が扉を出ていく音を聞き取ると、ソファにドサッと身体を落とした。
両手を後頭部に組んで天井を見上げる。
「はぁ~……。俺、何やってんだろ」
抱き合ってる現場を撮影したカメラマンにはあいつの顔がバレてるのに、会見なんてしたら余計会えなくなる。
学校は既に退学してるし、新しい家政婦を雇ってるし、連絡してもまたあいつに迷惑がかかるだけ。
でも、俺のインスタに『会いたい』って……。
LINEだと堤下さんにバレるとでも思ったのかな。
俺はこんな小さな事で喜んじゃうくらい嬉しかったけど、この想いはいつになったら届くのかな。
でも俺、どうしてこんなに余裕ないの?
日向がボーッとしながら今後について考えていると、突然インターフォンが鳴った。
ピーンポーン…… ピーンポーン……
「あ! 誰か来た。……まさか、また叔母さんかな。ミカの件はもう勘弁して欲しいのに……」
ソファから立ち上がって壁面に設置されているインターフォンに向かうが、その最中でインターフォンの鳴り方が変わった。
ピポピポピポピポピポピーンポーン……
「……っ、誰だよ! インターフォンを連打する奴。こっちは精神的に参ってるのに勘弁してよ……」
日向は不機嫌のままインターフォンの通話ボタンを押すと、画面にいっぱいに映し出されていたのは巨大なカエルの被り物。
しかも、接近させたり遠退いたり。
右に左にと顔をキョロキョロさせて挙動不審だ。
日向は怖くなって震えた手のまま通話ボタンを押した。
「……誰?!」
「私よ、私っっ!! 早くエントランスの扉を開けてっっ! いまマスコミに追われてるの!! 変装をしたのにどうして私ってバレちゃったのかな……。変装すれば私だってバレずに行けると思ったのに」
「は? 私と言われてもカエルに心当たりが……」
しかし、カエルの被り物をした人物が一歩下がって身体を引くと、画面には装着しているエプロンも映し出された。
その特徴的なエプロンに見覚えがあった。
何故なら中央にはデカデカとカエルの模様が入っているから。
「もしかして、結菜……だよな(そのださいエプロンは)」
「もぉぉぉ!! ようやく私だと気づいてくれたの? ! 私も被り物だけじゃ気づかれないと思って自宅までエプロンを取りに戻ったの。あああ、どうしよう! マンションの住人に不審者だと思われかもしれない。お願い、早く扉を開けてっ!!」
日向はエントランスの扉を開けると、結菜はカエルの被り物を手で押さえたまま扉の向こうへ走っていった。
すると、モニターには追手と思われる複数人の記者が映る。
それまで感動的な再会方法を考えていた日向は、あまりにも唐突で無鉄砲な方法でマンションを訪れた結菜を思い返した途端、可笑しくなってプッと吹いた。
「あはははっ! ……やっぱりあいつ最高!」
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