16 / 23
16.キレーな髪
しおりを挟むーー同日の夜11時。
お風呂に出た後に机に向かう。
降谷くんに似顔絵コンクールに参加すると宣言した以上、描きたくなくても描かなければならなくなった。
自業自得なのだが、絵が得意じゃない分、このプレッシャーは半端ない。
まずは下絵と思い、スケッチブックを机の上に用意して鉛筆を握る。
「はぁ~あ……。誰の似顔絵を描こうかなぁ」
りんかにモデルを頼んでみる?
ううん、バイトが忙しいから断られるに決まってる。
お母さんに頼んでみる?
ううん、母の日のイラストじゃないんだからそれは嫌。全校生徒に笑われるのがオチでしょ。
じゃあ……降谷くん?
あーっ、無理無理! 見つめられてるだけでもキュン死するのに、意図的に見つめるなんて全校生徒に知れたら抹殺されちゃうよ。
あっ! でもお絵描きくらいならいいかな。
ちょっと練習程度に。
「降谷くんは~、金髪で~、くりっとしたぱっちり二重で~、ぽってりとしたあひる口……っとぉ。うわっ! そうそう、こんな感じ。そっくり~。私ったら天才! 隣には私の絵を描いちゃお! あっ、もしかしてこの紙を縦半分に折りたためばお互いの顔が重なってチューできるかも? よぉ~しっ!! 似顔絵のみつき、待っててねぇ~。いまから降谷くんの彼女にしてあげるからね!」
私は鉛筆を滑らせながら自分の似顔絵をリアルかつ美人に仕上げていく。
降谷くんに見劣りしない女にしてあげようと思いながら、線一本一本に幸せな願いを込めて。
ーーそれから30分後。
「完成~~!! うんうん、二人とも上手に描けてる。美男美女でお似合いカップルじゃん。やだ私ったら絵のセンス抜群じゃないの?」
クスクスと笑いながら肩を揺らし、スケッチブックから切り離した画用紙を縦半分に折りたたんで、角度がズレないように慎重に念願のチューをさせてみた。
「いやん。二人ったらラブラブぅ~っ。イラストだけでもハッピーにしてあげなきゃね! ちゅぅ~うっっ!」
頭の中がすっかりピンク妄想に染まっていると……。
突然、トントンとノック音が耳に届いた。
直後に「みつき、起きてる?」と扉の外から降谷くんの声が!
その瞬間、冷水を浴びたかのようにサーッと顔面蒼白に。
まっ、まずい……。
画用紙のイラストの降谷くんと私がチューしてるところを本人に見られたらドン引きされるよ。
絶対絶対、見られちゃだめ!
私は絵を見られないようにその上にうつ伏せになり、目を閉じて寝たフリをした。
すると、ガチャッとドアノブをひねる音がした後に足音が接近してくる。
「入るよ。さっき買った色鉛筆お前が持ってったっけ? ……あれ、寝てる」
画材屋で購入して後で渡そうと思っていたオレンジと赤と黄緑の色鉛筆が、袋に入った状態でいま私の隣にある。
なぜなら私のエコバックに入れてたから。
さっき描いたばかりのイラストを体の下敷きにしたけど、降谷くんはまさか私を起こしたりしないよね?
私が起き上がった隙に見られてしまったら恥ずかしくて死んじゃうよ!!
ドッドッドッドッ……。
後ろめたい気持ちと恥ずかしさから心臓が狂ったように爆音をたて始めた。
近づく足音。
感じる気配。
恐怖のオンパレードが背筋をゾクゾクと奮い立たせていく。
起こされた挙げ句に下敷きになってる画用紙に興味を示されたらどうしようかと嫌な妄想が頭の中をぐるぐると駆け巡っている。
早くっ……、早く色鉛筆を持っていってぇ~~っ!!
心の中で叫びながら彼が部屋を出ていくことを祈り続ける。
ーーところが、気配が最も接近した時。
彼は私の毛束をすくってサラッと手ぐしを通した。
「キレーな髪…………。触れた時からずっと思ってたけど」
呟くような声が聞こえた直後、真隣でカサッという音がしてから気配が消えていき、扉が閉まった。
彼が部屋から出ていったことを耳で確信し、顔を上げると真隣に置いてあったはずの色鉛筆の袋が消えていた。
次第に彼の言葉が現実味帯びていくと、体が飛び跳ねたくなるくらい軽くなって、飛び込み台からプールに着水するような勢いで布団にダイブ。
「ひゃあああっっ!! 降谷くんが私の髪を触って『キレーな髪』だってぇぇ。しかも、触れた時からずっと思ってたって!! それって、それって、それってぇ~!!」
うつ伏せになって興奮したまま両拳を交互に布団に叩きつけた。
今日は激動の1日だった。
でも、今まで一切手に届かなかった降谷くんをより身近に感じた1日でもあった。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて
アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。
二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる