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第六章
34.おっちょこちょいな両親
しおりを挟む蓮の自宅から花火大会の会場まで、徒歩10分。
そこには、数々の屋台が横一列に並び、会場に訪れているお客さんでごった返している。
蓮の両親と蓮、そして私。
四人揃って会場に到着してからおよそ5分経った頃、事は起きた。
それまでにこやかに会話していたおばさんが突然何かを思い出したかのようにサーッと顔を青ざめさせた。
「あらやだ! どうしましょ……」
「お母さん、どうした?」
「お茶を飲もうとしてヤカンに火をつけたまま家を出てきちゃったわ」
「お母さんはおっちょこちょいなんだから。……あっあれ、ない!」
と、次はおじさんがグレーのパンツのポケットを漁りながらオロオロしている。
「お父さん、どうしたの?」
「どうやらスマホを家に忘れてきたようだ。会社から連絡があるかもしれないのに」
「もう、お父さんったら……」
まるで茶番劇のようだが、焦ってる様子からしてわざとではないと判る。
蓮の両親は普段からどこか抜けてるから、特に驚きはしなかった。
すると、おじさんは蓮の肩に手を置きこう伝えた。
「そろそろ打上花火の開始時刻だから、先に二人で見ていなさい。お父さん達は一度家に戻るから」
「うん、わかった。後で連絡して」
蓮が頭を頷かせてそう伝えると、両親は人混みの間を通り抜けて自宅へと戻って行った。
結局、今年も例年通り。
蓮と二人きりで花火を見る事に。
軽く相談しながら花火がよく見える場所に移動していると、ある出来事が蓮の彼女だった頃の感覚に引き戻した。
暗くても聞こえる……。
少なくとも私の耳には届いている。
私達が通り過ぎた後、うしろでキャーキャーと興奮気味に騒ぐ女子達の声が。
「いま通り過ぎた人、超イケメンじゃない?」
「芸能人じゃない? オーラが漂ってきた」
「ホントにカッコイイね。めちゃくちゃタイプなんだけど」
背後から届いてくる反応は、昔も今も変わらない。
花火大会が始まる直前で、若干テンションが上がっているせいか彼女達の声が耳にまとわりつく。
しかし、蓮は普段からきゃーきゃー言われ慣れてるせいか気にも留めない。
昔は嫌だった。
蓮の隣を歩いてるだけで見下される目つき。
蓮があまりにも美しいから不釣り合いなのはわかってる。
噂の隙間に挟まれた私への悪口。
蓮の隣から引っペがされて、手のひらと膝を擦りむいた事もあった。
当時彼女だった私を妬ましく思うくらい蓮はモテていた。
でも、今はもう彼女じゃない。
そうなんだけど。
わかっているんだけど……。
なんだろ、劣等感と優越感。
そして、背中合わせなこの気持ち。
最近感じてなかったな……。
蓮は見晴らしのいい場所で足を止めると、私の肩に手を添えた。
「屋台で何か買ってくるから待ってて」
「私も一緒に行くよ」
「屋台は混んでるし人とぶつかって危ないからここで待ってて。但し、絶対に動くなよ」
「あっ、うん……」
軽く頭を頷かせると、蓮は川のように流れている人混みの中に消えていった。
それから10秒もしない間に、一発目の花火が打ち上げられた。
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