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第十一章
75.三角関係
しおりを挟むーー恋愛戦争が勃発して三角関係が日に日に浮き彫りになってきた、ある日の土曜日。
今日は先生とデートの日。
約束の時間は11時。
先生はいつも通り私の自宅付近に車を停めて待っていた。
密会をやめてから二人きりで会うのは週一回。
校長室の一件から、私達二人の間に小さな溝が生じていた。
先生が嫌いになった訳じゃない。
ただ、ささくれのように出来てしまった胸の中の小さなトゲがチクチクしているだけ。
先日、校長室で教頭先生に詰め寄られて口ごもらせてしまった高梨先生。
教室には二人きりではないと断言したところまでは良かったけど、すぐに第三者の名前を口にしなかった。
あの時は嘘でもいいから名前をすぐに挙げて欲しかった。
不安な時間を設けないで欲しかった。
男性は蓮しか知らなかった分、咄嗟判断がきく蓮とは対照的な先生の反応に少しもどかしさを感じていた。
もしかしたら、交際を始めて4ヶ月経ったから、いよいよ倦怠期を迎えたのかもしれない。
だから、小さな事でも引っかかるのかな。
蓮の時は、交際開始と共に嫌がらせが始まって常に気持ちに余裕がなかったせいか、倦怠期は感じられなかった。
先生が人生で二人目の彼氏。
まだ二通りの恋愛しか経験してないから、先生がどうこうじゃなくて、初めての倦怠期に心がついていけないだけかもしれない。
車に乗り込んでその場を離れると、先生は信号が赤に変わった隙に、助手席のグローブボックスからサーカスのチケット2枚取り出して手渡した。
「実は先月サーカスのチケットを予約しておいたんだ。今日が開催日だから昼食後に観に行こう」
「『バックル』……? ねぇ、これって世界的に有名なあのサーカス団じゃない?」
「そうだよ。バックルを知ってたんだね」
「すごい! こんな貴重なチケットを入手出来ただけでも凄いのに。……でも、高かったでしょ」
「ははっ……。梓に喜んでもらう為に買ったものだから気にしないで。最近ゴタゴタしてて気持ちに余裕がなかったから、今日はご褒美としてゆっくり楽しもうね」
「うん!」
蓮の病気が発覚してから気持ちに波があったけど、先生の気遣いが嬉しくて思わず笑みが溢れた。
人はみな完璧じゃないから、気になる事ばかりに焦点を当てちゃダメ。
倦怠期になんて負けちゃダメ。
蓮の事はあまり気にしないで、先生の良い所もしっかり見ていかないとね。
車を走らせてから10分後の高速道路付近に差し掛かった時、カバンの中からスマホの通知音が鳴った。
すかさずスマホを取り出してバックライトをつける。
通知元は蓮。
しかし、名前の横には……。
『助けて』
私に救助を求める一通のメッセージが書かれている。
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