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第十四章
98.クリスマスイブ
しおりを挟む今日は終業式。
それと同時にクリスマスイブがやって来た。
私達受験生に休みはないけど、通学というストレスからは解放される。
イケメントリオとのクリスマスパーティは、いよいよ明日。
紬は朝からパーティの話題で持ちきりに。
今はホームルームの時間。
後方席から蓮の方へ目線を流すと、机に寝そべっていた。
その様子を見た時は、単に遊び疲れてるかと思った。
去年の今頃、蓮が一度目の浮気をして関係がもつれ始めたっけ。
しかも、浮気の理由を何度問い詰めても『覚えていない』の一点張りだったから余計に腹が立っていた。
夜空を彩るイルミネーションに囲まれ、恋人達が街中を行き交うクリスマスイブの今日。
夕方から高梨先生とデートの約束をしている。
先日、先生にプレゼントしてもらった黒いワンピースを着て、高級イタリアンでディナーデート。
平日という事もあっていつもみたいに遠出は出来なかったので、自宅から7駅先の高級デパートやオフィスビルが並ぶ大人の街にやって来た。
学校関係者に見つかる可能性は低いと思うけど、県内という事もあって久しぶりに人に見つかってしまうかもしれないという緊張感に包まれた。
部屋の中央に置かれている、グランドピアノの自動演奏が迎えてくれるクリスマス仕様のイタリアンレストランの店内。
真っ暗闇の外を映し出している窓際の席で、間接照明と赤いテーブルクロスの上に置かれたクリスタルガラスのキャンドルだけが互いの顔を映し出している。
高梨は手元のワインリストを開いてから聞いた。
「梓は何飲む?」
「コ……コーラで」
慣れない高級店のせいか、普段の調子を取り戻せずむず痒いような気分になった。
それから店員を呼び、飲み物を注文。
先生の前には赤のグラスワイン、私の目の前にはコーラが運ばれてきた。
ピアノ演奏が流れる物静かな店内。
シックでお洒落な内装。
フォーマルな装いの客層が目立つ。
「先生、高そうに見えるお店だけど……」
「ははっ。店でも『先生』って呼ぶの? 僕達、交際してから5ヶ月も経つよ」
「ごめんね、遼くん。あは、まだ呼び慣れないかも」
「今日みたいに特別な日は美味しいものを食べさせてあげたいから、お金ね心配しないで」
男性は蓮しか知らなかった分、大人のデートが不慣れでちょっと恥ずかしい。
真っ赤なリップは少し背伸びをした証拠。
前菜がテーブルに運ばれて食事を進めると先生は言った。
「梓の思春期は終わったの?」
「もう! 子供扱いしないで。そんなのとっくに終わってる」
先生はワイングラスを片手に冗談交じりで私を子供扱いする。
今日の装いは一人前の大人だけど、先生の中ではまだまだ子供なのかな。
「じゃあ、質問」
「なぁに?」
「梓は相談とか悩み事とか……。年頃だから、言い難い事や心に留めている事とかあるんじゃないかな」
高梨は紬からの忠告が身に沁みていて、反省を機に梓から本音を引き出そうとしていた。
しかし、自分の知らない間にそんなやりとりがされていた事すら知らない梓はフッと笑う。
「担任っぽい質問だね。なぁんか個人面談みたい」
「梓は普段から友達の話だったり家族の話だったり、身の上話をしないタイプだから知りたいなと思って」
「そうだっけ? うーん……勉強以外では特に思い浮かばないかな」
「……そっか」
単にパッと思い浮かぶ悩みが見つからなかった。
最近は、蓮の病気騒動が最大の悩みだったけど、それは先日解決したばかり。
しかも、わざわざ伝えるような話じゃないから敢えて言わなかった。
でも、先生はその後から口数が減った。
それが何故だかわからないけど、寂しそうな瞳をしたまま窓の向こうの景色を静かに眺めていた。
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