104 / 184
第十五章
104.入れ替わってしまった心
しおりを挟む✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼
「蓮……、お願い。話だけでも聞いて」
ーーある日の学校の放課後。
梓は教室から廊下に出て行く蓮のブレザーの袖をギュッと引っ張り、今にも泣きそうな表情で引き止めた。
始業式の日から聞く耳すら貸さない蓮と二人きりで話し合う為に……。
だが、振り返った蓮はまるで別人のように非情な目をしている。
蓮は手を引き離すと何週間ぶりに口を開いた。
「あれから自分なりに考えたんだ。お前からこれっぽっちも思われない程度なら、自分が頑張る意味なんてない。俺はお前を忘れるから、お前も俺の事なんて忘れろよ。もう金輪際近付かないから」
梓はそう言われると、まるでシャッターが閉ざされてしまったかのように目の前が真っ暗になった。
クリスマスの日に咄嗟に吐き出した言葉が蓮の心を入れ替えてしまうなんて思ってもいなかった。
今まで優しくしてくれた分、甘えていた。
『ごめん』と頭を下げて謝れば、『今回だけだよ』と言って許してくれると思っていた。
でも、実際は幸せだった日をハサミで切り取ってしまったかのように、違う未来が用意されていた。
蓮は最後まで感情を覗かせぬままその場を後にした。
だが、梓は諦められきれない。
廊下を行き交う通行人に目が入らないほど感情的になっていた。
「蓮! 待ってよ……蓮……」
結局、蓮は一度も振り返らなかった。
名前を呼び続ける私の声だけが廊下に響き渡っている。
遠ざかる背中を見ているうちに虚しくなって次々と涙が溢れてきた。
手で顔を覆っていても、周囲の人達が自分に注目してるのがわかる。
だけど、私は周りの状況なんて気にならないほど蓮との決別に胸を痛めていた。
いきなり『俺の事なんて忘れろ』など言われても、頭の中が整理が出来ない。
でも、本当はこれで良かったのかもしれない。
高梨先生と交際を続けていくのなら、蓮と距離を置くのが正解だよね。
ただ、少し巻き戻しをするだけ。
蓮の浮気が発覚して別れたあの頃に戻るだけ。
友達以下の関係に戻るだけ。
そうやって、頭の中で何度も言い聞かせているのに。
蓮の言葉や気持ちを理解しようと思っているのに……。
どうして心は騙されてくれないんだろう。
「梓、大丈夫? ……別の場所で一度落ち着こうか」
教室から二人を一部始終見守っていた紬は、廊下にぺしゃんと直座りしている梓の肩を抱き寄せて屋上前の踊り場へと連れて行った。
梓は階段に座って前屈みになり、溢れ出る涙をハンカチで拭っていると、紬は隣から髪を撫でた。
紬の優しさに思わず梓の肩が揺れる。
「蓮が、俺はお前を忘れるから、お前も俺の事なんて忘れろよって。もう金輪際近付かないからって……」
「うん……」
「私はただクリスマスの日に傷付けてしまった事を謝りたかっただけなのに」
「うん……」
「だけど、伝えられなかった。話すら聞いてもらえなかったよ」
「うん……」
「私、最近おかしいの。蓮とぶつかり合ったあの日から胸が苦しいの。先生の事が頭の中から消えてしまうくらい、毎日蓮の事ばかり考えてる」
「梓、もしかして……」
「どうやら私、蓮が好きみたい。……18年間生きてきた中で今が一番辛い。別れた時はこんなに辛くなかったのに、今は息ができないほど苦しいの」
蓮と心に距離を感じるようになってから、私は自分の気持ちに気付いてしまった。
本当は、気持ちに気付くのが怖かっただけなのかもしれない。
きっと、蓮がやり直したいと言って距離を縮めるようになってから、二度目の恋が始まっていた。
先生とのデートを簡単にすっぽかしちゃうくらい蓮の存在が大きくなっていた。
だから、突き放された瞬間はまるで処刑台に立たされた囚人のような気分に。
紬は肩を震わせながら泣いている梓の頭を手で引き寄せ、自分の肩にもたらせた。
「大丈夫。蓮くんならきっと梓の気持ちを理解してくれる。梓自身が自分の気持ちに気づいた事が、きっとこの間より大きく前進しているはずだよ」
「そうかな……」
「二人はたっぷり積み重ねてきた思い出があるから、関係は簡単に崩れないと思う。だから、今日はゆっくり休んでまた明日から頑張ろうよ」
さっきまではどうしようもないくらい落ち込んでいたけど、親友という心強い存在に救われた。
紬は蓮との関係が崩壊しないと信じている。
0
あなたにおすすめの小説
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
俺様系和服社長の家庭教師になりました。
蝶野ともえ
恋愛
一葉 翠(いつは すい)は、とある高級ブランドの店員。
ある日、常連である和服のイケメン社長に接客を指名されてしまう。
冷泉 色 (れいぜん しき) 高級和食店や呉服屋を国内に展開する大手企業の社長。普段は人当たりが良いが、オフや自分の会社に戻ると一気に俺様になる。
「君に一目惚れした。バックではなく、おまえ自身と取引をさせろ。」
それから気づくと色の家庭教師になることに!?
期間限定の生徒と先生の関係から、お互いに気持ちが変わっていって、、、
俺様社長に翻弄される日々がスタートした。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
お嬢様は地味活中につき恋愛はご遠慮します
縁 遊
恋愛
幼い頃から可愛いあまりに知らない人に誘拐されるということを何回も経験してきた主人公。
大人になった今ではいかに地味に目立たず生活するかに命をかけているという変わり者。
だけど、そんな彼女を気にかける男性が出てきて…。
そんなマイペースお嬢様とそのお嬢様に振り回される男性達とのラブコメディーです。
☆最初の方は恋愛要素が少なめです。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる