Re.start ~学校一イケメンの元彼が死に物狂いで復縁を迫ってきます~

伊咲 汐恩

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第十八章

123.馬鹿力

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✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼••┈┈••✼



『次は、品山駅。品山駅でございます。間もなく次の駅に到着致します』



  酔っ払い梓を電車に押し込んでから5駅分進んで車内アナウンスが流れると、隣の梓の肩を揺さぶって起こした。



「こら、寝るな!  そろそろお前んちの最寄り駅に着くよ。早く起きろって」

「やぁだ~、家に帰らない。今日は蓮の家に泊まるってお母さんに言ってきちゃったからぁ」


「………は、誰もウチに泊めるなんて言ってないし」



  駄々をこねる梓は、まるで幼稚園児のように扱いづらい。
  せっかく梓の最寄り駅まで一緒についてきたのに、座席に端に座っている梓はすぐ横に設置されている手すりにしがみついて離れようとしない。

  引きずり降ろそうと思って腕を強く引っ張ったが、今日に限って馬鹿力を発揮。
  指先の色が変色するほど強い力で手すりにしがみついている。



「そろそろ到着するから早く手すりから手を離せ」

「イヤイヤ嫌~!  電車から降りたくなーい。帰りたくな~い!」



  わがまま満載な梓とそんなやりとりをしてると、電車は停止した。


『扉が開きます。ご注意下さい』

  プシューッ……


  駅に到着すると扉が開いた。
  だが、何度腕を引いても梓は一向に手の力を弱めない。
  火事場の馬鹿力の発揮どころが違うだろ。

  俺は全く降りる様子を見せない梓に焦りを感じていた。



「早く立て!  もたもたしてたら扉が閉まっちゃうだろ!」

「やだ~。降りたくないってばぁ。蓮と一緒にいるぅ~」


「早く降りないと家に帰れなくなるだろ」

「それでもいい~のっ。今日は蓮の家にお泊まりするからぁ」


「アホ!  俺らは恋人でも何でもないんだから、自分ちに帰れよ」

「うっ……、ちょっと気持ち悪くなってきた。吐くかも……」


「えっ!  大丈夫?」

「あはは、うっそーん。目くらまし作戦だよぉ」


「てめぇ~~!」



  車内にはポツポツと乗客はいるが、人目を憚らずに梓と言い争っていると……。

  プルルルル……

『ドアが閉まります。ご注意下さい』

  プシューッ   ガタン


  ゆっくりと閉ざされていく電車の扉。
  梓の最寄駅の景色が目の前でシャットアウトされていく……。



「あっ、もう終電なのに……」



  家に帰そうと思って必死に説得を続けていた俺の願いは虚しくも届かず……。

  結局、置き物のように手すりにしがみついて座っている梓を最寄り駅で降ろすことなく、次の駅へと出発して行く。
  窓の外の景色が進み始めると彼女は再び夢の中へ戻っていった。

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