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第十九章
134.ほんの少し遠退いた距離
しおりを挟む受験モードの私達の傍で、既に進路先や就職先が決まって卒業までの残り僅かの学校生活を楽しもうとしている生徒達の姿を横目で見て羨ましく感じていた。
休み時間の度に席で黙々と勉強している蓮だけど、放課後を過ぎると教室からパッタリといなくなる。
帰宅したのかと思いきや机を確認すると、カバンは机の横のフックにかかったまま。
まだ校内に居るはずだけど、どこを見渡しても見当たらない。
そんな日々が暫く続いた、ある日。
街がバレンタイン一色に染まっていくのを見ているうちに、彼には年に二回訪れる告白ラッシュの時期という事を思い出した。
一度目はクリスマスで、二度目はバレンタイン。
三年生になってからのクリスマスは、蓮は私の彼氏(実際は偽彼氏だけど)として学年中に浸透していたけど、私達が別れたという噂が流れている今回は高校生活初のシングル。
独り身という事もあってチャンスをモノにしようと目論んでいる女子達が、狙い撃ちを始めている。
今日も姿を消してるから居場所はきっとあの告白スペースだろう。
この調子でいくと、今年のバレンタインは授業中以外は自分の席にいないのでは、なんて思ったりして。
勉強を教えてもらっているうちに友達レベルも回復してきたけど、放課後に姿を見せなくなってからは、また少し距離が遠退いた。
でも、蓮の本来の姿を知ってるのは2年間交際していた元カノの私だけ。
本人は一度も口にした事はないけど、蓮には苦手な事がある。
それは、他人からの目線。
蓮は生まれつき恵まれた容姿のお陰で人からの目線を集める事がが多い。
イケメン且つ高身長なので、何処にいても目立ってしまうのが欠点だ。
正面から歩いてくる人は勿論の事、振り返ってまで知らない人に顔を見られるのは、さぞかしくいい思いはしないだろう。
そのせいか、二人で外出する時は必ず帽子を被っていた。
帽子を持たない日は、パーカーのフードを目深く被って顔を隠す。
電車の座席に座れば向かいから視線が。
そのせいもあって、蓮は私の肩に寄りかかり目を瞑っている事が多かった。
でも、無意識のうちにそうしている可能性もある。
女性の目線に気付くようになってからは、蓮の1歩先を行動するように心掛けていた。
店に入店すると、店員が最初に目に飛び込むのは先に来店した客の顔。
だから、蓮の為を思って先に入店する。
人が多い所では、会話を増やして人の目から意識を逸らしてあげていた。
だけど、自身も蓮の顔が好きだから、羨ましがっている女子の目線を横目に、優越感に浸ったりはしたけど……。
顔普通、体型普通、知能指数が普通なオンパレードの私には、不釣り合いとか、ブスだとか、豚に真珠とか、悪口を散々言われて続けていた。
しかし、蓮はより多くの視線が集まる後夜祭のステージ上で堂々と私に告白。
男は必ずしも美人や可愛い子が好きな訳ではないという事があの時に証明出来ただろう。
あの日、蓮は私を嫌がらせから守る目的と、ライバルの先生に宣戦布告の意味を含めた目的として、身体を張ってステージに上がった。
全校生徒から突き刺さるような視線と、注目を浴びる発言。
冷やかす声に不満を漏らす女子の悲鳴。
本当はいっぱいいっぱいだったはず。
イケメンコンテストの方では、他の受賞者もいて視線が散らばるから若干マシだけど、あの日は私の為だけに色んな我慢をしたに違いない。
魅力満載な人だから人から羨ましがられたりするれど、中身は周りの人と同じ。
メリットとデメリットを、人より多く抱えてるだけ。
一瞬華やかそうに見える彼らだって、結構色んな悩みを抱えている。
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