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第二十一章
149.スーパーマン
しおりを挟む男達は用具室の扉の方に一斉に目を向けると、目を左右させて動揺した様子を見せる。
「……お、何だよ」
「体育館で火事?」
「くっそ、マジかよ……」
全身を包み込むような非常ベルの音によって、男達の気が逸れた瞬間。
ドンドン ドンドン……
「火事だー! 中にいる人達は早く外へ逃げろー!」
用具室の扉を強く叩く音と同時に、外から注意を促す男性の声が聞こえた。
男達はチッと舌打ちをしながらその場を離れようとして立ち上がった。
ホッ、良かった。
不幸中の幸いで助かったよ。
梓は目眩がしそうなほど安堵すると、男達は三人揃ってブツブツと文句を言いながら、用具室の扉を開けた。
ガチャ……
ところが、男達が油断していたのも束の間。
開いた扉の向こうには、殺気立たせながら腕組みをして立っている一人の男が。
逆光で顔はよく見えない。
だが、煙幕でも焚かれているかのような唯ならぬ雰囲気が用具室の奥にいる私にも伝わってきた。
「ん……、誰だ?」
三人のうちの一人が手を額にかざしながらそう呟く。
次第に目が明かりに慣れてきた。
扉の向こうに居るのは勿論蓮ではない。
目を凝らして見ると……。
髪は短い金髪。
鬼のような眼差し。
組んだ腕の人差し指をトントンとさせて殺気立たせながら仁王立ちしている大和の姿が。
「よぉ~~やく鍵が開いたわぁ。この俺様を長々と待たせやがって。……オメェらぁぁ、こ~んな薄暗いところで女一人囲んで何やってんの?」
大和は巻き舌を加えてそう言うと、頭を左右に振って首をポキポキと鳴らす。
挑発的な目付きで睨みつけると、男達はギョッとして一歩後ずさった。
「今から天国と地獄、どっちが見たい? せっかくだからオメェらに選ばせてやるよ。……まぁ、どっちを選んだとしても最終的に結果は同じだけどね」
校内でも腕っ節が強いと噂されている大和に、わざわざ喧嘩を挑む男などいない。
男達はお互い目でコンタクトを取り合う間もなく逃げる事を決断する。
「ちっ……」
男達は大和の脇を潜り抜けて行くと、足を絡ませながら体育館を走り去って行った。
大和の顔を見た途端、安堵によって涙腺が一気に崩壊した。
「大和ぉ……。うっ、うわああぁぁん……」
「大丈夫?」
「もしかして助けに来てくれたの?」
「当ったりめぇだろ。午前中に廊下でぶつかった時も様子がおかしかったけど……。一体何があったの?」
「やまとぉおお……」
大和は乱れた制服のまま号泣している梓の両腕を引っ張ってマットから身体を起こして床に落ちているリボンを手渡す。
状況を把握すると大きくため息をついた。
「お前……、マジで辛いな。仲良くしてない男にホイホイついていくんじゃねーよ」
「だってぇ……。グスッ……」
梓は身体を震わせてヒクヒク咽び泣きながら手の甲で涙を拭う。
大和はそんな梓の心情を察する。
「こんなにガタガタ震えて……。よっぽど怖かったんだろうな。犯人は特定してるから非常ベルを止めに来る先生に事情を説明しよう」
「それはダメ!」
「何で?」
「あの人達も自分の彼女にフラれて傷ついてるから……。好きな人にフラれる辛さが私にもよくわかるし……」
「はあぁ? お前が我慢して済む問題かよ。ケーサツ呼んでもいいくらいの事件だけど? ……あぁ、もう時間がない。もうすぐで先生が来るからとりあえず一旦バックれよう」
「うん……」
非常ベルがジリジリと体育館中に鳴り響く中。
大和は腰が砕けている私の手を取って、その場から一緒に走り出した。
体育館の窓からの採光が、大和の明るい金髪を眩しく照らしている。
大きな背中に力強く握りしめる手。
勇敢に立ち向かってくれた大和の姿勢に、私の心は救われた。
蓮はスーパーマンと思っていたけど……。
いま男達から身を救ってくれた大和も、私にとってはスーパーマン。
大和とは今まで散々言い合いをしてお互いの気持ちが行き違っていた時もあったけど、紬が大和を好きになる気持ちが理解出来た瞬間でもあった。
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