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第二十三章
171.破裂寸前な気持ち
しおりを挟む学習机に戻って時たま頭をグシャグシャと掻きむしりながら彼女の事を思い描いてるうちに、彼女が今まで伝えてくれた言葉が一つ一つ鮮明に蘇ってきた。
『……毎日毎日考えてた。何をしてても、蓮の事を思い描いたら自分でも気持ちが抑えられなくなってた。病状が悪化したら、ある日突然倒れちゃったら、この世からいなくなると思ったら私っ……私………』
『蓮が傍にいないと辛いんだよ……。一人じゃ頑張れないから……』
『私、蓮とやり直したい……。例え蓮が私を忘れようと努力していても、蓮が心配してくれる限りは頑張り続けたい。蓮だって私との将来を見据えて考えていてくれたんでしょ』
『もし、私への気持ちが10パーセント残っているなら、私は残りの90パーセントを頑張るから、蓮は私に10パーセントだけ努力して』
『蓮……、私とやり直そ。もう90パーセント以上努力してるから。……お願い』
二人の思い出の写真が行事毎に増えていくように、あいつは沢山の気持ちを言葉に残してくれていたのに、俺は拘りつづけているある事が手放せない。
蓮は二人の思い出写真を取り出す為に、学習机の二段目の引き出しの鍵を開けた。
引き出しは梓との思い出に浸る為に何度も開けている。
交際中も、別れた後も、偽恋人中も、何度も何度も………。
しかし、久しぶりに引き出しを開けてみると、そこには今日初めて見るものが目に飛び込んできた。
「えっ、これって……」
それは、思い出写真の上に重なっている合格祈願のお守りと二つ折りの紙。
早速二つ折りの紙を取って開いてみると、そこには梓の筆跡でメッセージが書いてある。
《ずっとずっと一緒にいたい。梓》
あいつからの思わぬサプライズに思わず鼻がツーン痛くなった。
知らない間に梓が机の中に合格祈願と気持ちを書いたメモを忍ばせていたなんて、思いもしなかったから。
「あいつ、こんな事しやがって……」
俺の気持ちは既に破裂寸前だった。
このお守りが合格祈願だから、受験前に机の中に入れたに違いない。
俺は自分の事で精一杯であいつの想いに気づいてやれなかった。
蓮は気力が抜けて頭をドンッと机の上に落として顔を右に向けて合格祈願を眺めていると、先ほど電話で言っていた大和の言葉を思い出した。
『くだらないケンカなんか止めていい加減守ってやれよ。お前はまだ梓が好きなんだろ? 変なプライドなんて捨てろよ』
『梓の嫌がらせと比べたらお前の悩みなんてちっぽけなんだよ! お前の想像以上にあいつは傷付いてるからな。少しは考えてやれ!』
そう……。
俺は欲張りだ。
拘りを貫き通す為に彼女の気持ちを犠牲にしていたのだから。
正直な話、梓に出会うまで恋愛面で苦労をした事がなかった。
時の流れに任せていた未熟な部分もあったから。
ーーでも、俺は運がいい。
卒業式の前日に友達から大切な事を気付かせてもらえたから。
まだ終わった訳じゃない。
まだ間に合うんだ……。
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