40 / 41
カーテン越しの君
39.勇気の飴
しおりを挟む別れたあの日からもう二度と会えないと思っていた皆川くんが、いま私と同じ学校に通っていた。
しかも、気付かぬ間に何度も会話を重ねていたなんて。
皆川くんは小学生だった当時から声変わりしていたから、声だけですぐに判断出来なかった。
よく考えたら、喋り方はあの当時から全く変わっていないのに…。
「皆川くん、久しぶりだね。あれから夢を叶えて歌手になってたんだね。おめでとう」
「紗南は俺があげた星型の飴の事を、今でも大事な思い出にしてくれていたんだな。ビックリするくらい歌が上手くなったから、今日までいっぱい飴を食べたんだよな」
「うん。歌手の夢は諦めても歌う事は辞めなかった。セイくんがあの曲を知ってるって言った時点ですぐに気付けば良かった」
保健室でいつも当たり前のようにカーテンの向こう側に居たのは、六年前のあの大雪の日に再会を約束していた彼。
閉ざされたカーテンでいつも顔が見えないし声変わりしていたから、すぐには皆川くんだって気付かなかったけど…。
透き通った歌声は今も昔も変わらず健在している。
不思議だね。
自分でも気付かぬうちに同じ人を好きになっていた。
ひょっとしたら、これは運命なのかもしれない。
昔好きだった、声楽教室に通っていた皆川くんと。
保健室のベッドのカーテンの向こう側にいるセイくん。
偶然が重なり、私達はそれぞれの道に向けて歩き出してる最中だった。
「あれから将来を目指す道は変わってしまったけど、あの時勇気をくれたのは皆川くんだから」
「幼い頃の俺はいつも紗南の笑顔が見たくて、常に飴を持ち歩いていたんだ。でも、最近は保健室で飴をもらったり、紗南の上手な歌声を聴いてる時間が何よりも幸せだったよ」
星型の飴が口いっぱいに浸透していくように、ジワジワと繋がっていく気持ちに思わず涙。
小学生だった当時、身長が二センチしか変わらなかった彼はいま私を影で被せるくらいまで立派に成長している。
「セイくん、再会する事ができたから私の夢を叶えてくれる?」
「いいよ、じゃあ一緒に歌おう。二人の思い出の曲の《For you》を…」
久しぶりに重なった二人のハーモニーは、保健室の窓から風に乗って外へと流れ出した。
カーテン越しの君は、長年抱いていた夢を掴み取り、再会を誓ったあの時以上の輝きを放っていた。
部屋の片隅で閉ざされた空間が開いた、その時。
再会を果たした私達は、二度目の恋が始まりを迎えていた。
0
あなたにおすすめの小説
愛のかたち
凛子
恋愛
プライドが邪魔をして素直になれない夫(白藤翔)。しかし夫の気持ちはちゃんと妻(彩華)に伝わっていた。そんな夫婦に訪れた突然の別れ。
ある人物の粋な計らいによって再会を果たした二人は……
情けない男の不器用な愛。
俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛
ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎
潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。
大学卒業後、海外に留学した。
過去の恋愛にトラウマを抱えていた。
そんな時、気になる女性社員と巡り会う。
八神あやか
村藤コーポレーション社員の四十歳。
過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。
恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。
そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に......
八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる