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第四章
90.感謝の気持ち
しおりを挟む「よく遊ぶようになってから、いつしか恋心が芽生えていた。恋人として受け入れてくれたから、気持ちの整理がついたのかなって思ってたけど実際は平行線。特に二人きりの時そう感じたから」
「……理玖」
「だけど、諦める気なんてなくて。積み重ねてきた思い出や、送り続けていたSNSメッセージや、今まで伝えてきた気持ちが無意味じゃないと願っていたから卒業式の日に賭けた。……そして待った。お前からの連絡を」
「えっ……」
「強引にキスしたから正直嫌われたと思った。高校に進学してからも連絡がないから諦めようとしたけど、日を追う毎にお前の代わりになる奴なんていないと思い知ったよ」
私達は自然消滅したと思っていたけど、そうじゃない。
私は理玖の気持ちに目を逸らしたまま都合のいいように解釈していた。
向き合おうとはせずに逃げていただけ。
理玖は寒そうに身震いしている様子に気付くと、迷彩柄のウィンドブレーカーを脱いで愛里紗の背中にそっとかける。
「ありがとう。でも、理玖の身体が冷えちゃうから、私はいいよ」
「いいから着てな」
理玖は遠慮がちにしている愛里紗にそう言うと、腕を組んで照れ隠しをするかのように目を背けた。
以前も同じような事があった。
自分だって寒いクセに、いつも私を優先している。
「でも、久々に再会したら無理に笑っていたお前はもういなくなってた。多分、咲ちゃんだろうな。お前を変えたのは」
「咲が私を変えた……?」
「……そ。二人とも波長が合ってるし、よく笑うようになった。すぐに逃げるクセは相変わらずだけど」
「ごめん……」
ただ何気ない日々を送っていたように思えたけど、傍で見ていてくれたから小さな変化に気付いてくれたんだね。
「さっき『塾を辞める』って言ったのは半分賭けてた。卒業式の日のキスと同じようにね。そしたら、感情が揺れてるように見えたから、俺にもまだ勝算はあるかなって」
「……」
「待つよ。じっくり考えてみて。考えがまとまったら返事が欲しい」
「うん」
「俺は絶対お前を裏切らないし大切にする。……それだけは忘れないで」
「ん、考えておくね」
理玖は照れ隠しをするように軽く鼻をすすると、腕時計を見て時刻を確認。
「うわっ、やっべぇ! もう23時。お前の母ちゃん心配してるだろうな。ほら、帰ろ」
「うん!」
愛里紗は理玖の隣につくと、先程言われた事を思い巡らせながら口を開いた。
「理玖、あのねっ……」
「……ん?」
影で見守ってくれたり、さり気なく優しくしてくれたり、見えないところでいっぱい我慢したり。
今夜、胸の内を明かしてくれてる間に渋滞していた気持ち。
いま伝えなきゃ一生後悔してしまいそうな気がしたから言った。
「今まで支えてくれてありがとう。それと、いっぱいごめんね」
私は理玖じゃないから気の利いた言葉が言えない。
それでも感謝の気持ちを伝えたかった。
すると、理玖はいつも通り。
「いーよ。許す!」
ニカッと太陽のような眼差しを向けた。
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