初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

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第五章

98.連れて来られた絶景スポット

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  理玖は屋上扉の小窓から差し込む光を浴びながドアノブを押し開けた。
  すると、直視出来ないほどの眩しい光と唸るような激流の風がどっと校舎へ流れ込む。
  愛里紗は光と風を遮るように手の甲を目の前にかざした。


  ビュウっと音を立てている風。
  毛先は針のように鋭くなびかせて、服は波打つようにパタパタとはためかせている。

  理玖は繋いでる手を離すと、逆光を浴びたまま背後に回って手で目隠しをした。



「えっ……。何なに?」

「これから特別なものを見せてあげる。そのまま前に進んで」


「この先に何かあるの?」

「いいから、俺を信じて」



  視界は彼の指の隙間から僅かな光が差し込む程度。
  だから彼の言葉を信じるしかない。

  目を閉じたまま一歩。
  そしてまた一歩……。
  暗闇の世界ではあるけど、不思議と彼の香りが緊張を和らげてくれる。

  風を浴びる感触とビュウビュウといった音に包まれながら彼と同じ歩調で先を進む。



「もう、いいよ」



  彼が両手を離したのは、屋上の入り口から二十七歩目を歩いたところ。
  視界が遮られていたせいか、やけに長く歩いたように思えたけど、実際は大した距離じゃない。

  ゴーサインと共に瞑っていた目をゆっくり開けていくと……。
  そこには、青空から沈み行く夕陽を彩るオレンジ色のグラデーションのサンセットが飛び込んできた。


  高台に位置する学校周辺には景色を遮るようなものは建っていない。
  360度空が見渡せるパノラマは、まるでプラネタリウムのような絶景スポット。

  夕空グラデーションが進む空と山に吸い込まれていく夕陽。
  山に触りそうなほど低く薄っぺらい雲は薄暗い影を帯びている。
  少し右手に目を向けると、逆行を浴びている遠方の富士山は影絵のように見えた。

  彼が見せてくれた景色は、1分1秒毎に新しい景色を生み出している。


  貸し切り状態の屋上。
  私は学園祭の終了を告げる校内アナウンスが耳に入らないほど、広大な夕空に心を奪われていた。



「キレイ……」



  思わず呟いた。
  圧倒されるほど美しい空色を見たまま靡いている髪を耳にかける。

  ビュンビュンと吹きつけてくる風は踊り場ほど強くないけど、パタパタと足に叩きつけているスカートは、まるで宙ぶらりんな心を叩き起すかのよう吹き荒れている。

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