初コイ@進行中 〜忘れられない初恋相手が親友の彼氏になっていた〜

伊咲 汐恩

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第五章

103.ノープランデート

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「ねぇ、目的地は?」

「そんなのねぇよ」


「えっ?  目的地が無いって。だって、デートでしょ?  ド派手な部屋の装飾にお金をかけてるから、お金がなくて行き先が決まらないんじゃなくて?」

「……あのさぁ、俺の部屋をそんな風に思ってたの?」


「あれ、違うの?」



  つい余計な事を言って一瞬シラけた空気が流れたけど、理玖は照れ臭そうに答えた。



「俺はお前と一緒にいるだけでいいの!  制服デートをしたかったの!」

「ふぅ~ん。そうだったんだ」


「本来なら同じ高校の制服を着てデートする予定だったのにな。誰かさんが別の学校に行く事が決まって……な?」

「はいはい、落ちましたよ。あなたが通う高校にね」



  痛いところを突かれた愛里紗はホッペを軽く膨らませながらそう言い、不機嫌にそっぽを向く。



  理玖のイジワル。
  私だって英神高校に通いたくて一生懸命勉強したのに。
  ひどいよひどいよ……。
  自分の方が少し勉強が出来るからって。



「ははっ、冗談。俺は何する訳でもなく、ただ1分でも長くお前と一緒に過ごしたいだけ。あれしたい、これしたい……とかじゃなくて、お前の顔を見ていられるだけで充分」



  理玖はそう言うと、優しく穏やかな目で覗き込むように向けてきた。



  バカ……。
  私と長く一緒を過ごしたいだなんて。
  顔を見ていられるだけで充分だなんて。

  理玖は一心不乱に気持ちを伝えてくる。
  だから、理玖の想い。
  いつもちゃんと届いてるよ。



  ノープランでただ手を繋いで街を歩くだけのシンプルデート。
  時たま景色を眺めて、入った事のない道を歩いて遠回りしながら近所を散歩していると、私が暮らしている学区内に入った。

  塾から送ってくれたコースに差し掛かり、二つ先の信号の右側に私の自宅が見える。
  理玖と再び付き合い始めてからこの道を歩くのは今日が初めて。


  自宅の前を通りすがろうとしていたその時、彼は私の自宅前で指を差した。



「せっかくここまで来たし、今からお前んち寄ってく?」

「……それ、あんたが言うセリフじゃないでしょ。しかも理玖が急に来たらお母さんがビックリしちゃうよ」


「お前んちに行く度にいつも家に上がれ上がれって言ってくれてるのに?」

「おっ、お母さんにだって、気持ちの準備とか部屋の片付けとか……色々あるんだよ」



  母親を盾にして、首を小刻みに横に振りながら自宅に入る事を頑なに拒んだ。
  デートの目的地はないと言いつつも、実はすでに計算尽くしだったかもしれない。
  たまたま通りがかったように見せて、私の家に上がり込んでハジメテを奪おうという魂胆なのでは……。



  咲の言葉にすっかり洗脳されてしまった愛里紗は、警戒するあまり冷や汗を滝のように流していた。
  頭の中に棲み続ける悪魔を追い払うまで、まだまだ時間がかかりそうな気がしてならない。



「もしかして、付き合い始めた事をまだおばさんに報告してないの?」

「ううん、もう話したんだけど。さすがに事前連絡も無しに来るのはマズイからまた今度ね」


「そうだな。急じゃ失礼だし。じゃあ、ちょっと遠回りしていこうか」



  嘘に騙されてくれた理玖は、自宅に上がる事をあっさり諦めてくれた。

  母親は専業主婦。
  出張が多い父親はほとんど家に帰って来ないし、私は一人っ子だから母が一人の時間はたっぷりある。


  理玖は私の家でお留守番した事を忘れてしまったのだろうか……。
  家はいつ来客があっても簡単に招き入れられるほど掃除が行き届いているから、逆に来ちゃいけない日などない。

  気が変わる前にと思って、彼の手をグイグイと引いて再び近所を歩き回る事にした。

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