レイヴン戦記

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鴉の旗

攻略戦・一夜目

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 テオドールの悪い予感は当たっていた。
 篝火がたかれ村の長老の怒声が飛び、広場の中心にはエレーナが武装した上で指揮をとっていた、彼女はすでに陥落から戦死までの覚悟は半ば固めていた。ただ、屋敷に残しているアルマとユリアーヌスだけでも生かしたいとも思ってはいたが、落ちのびられるような地形でもなく、援軍の到来まで少しでも陥落を遅らせる、その為には自身の死が士気の向上に役立つのであればなんとでもする覚悟であった。

「夜陰に乗じて門や殺到しています」

 狙い撃ちができない夜の闇に乗じての攻撃であった、村へ向かう正体不明の団体についての報告は寄せられたが、精鋭の出払っている村では、村の防衛を固めるのが精いっぱいで行軍中の奇襲を行う事も出来ず、無傷で村の入り口まで接近を許す事になってしまった。
 しかも今度の敵は暗闇に乗じて数で攻めて来る、実数が分かりずらいうえに、敵にどれだけの損害を与えたのかもわからず、しかも篝火の下で戦う村人に狙いすましたかのように狙撃が飛んでくる、敵は攻略のためにかなり練られた戦術を用意して戦いに挑んできていることがはっきりと見て取れた。

「身を低くしながら見敵必殺で矢を射かけろ!脇道からの奇襲に備え見回りも怠るな!」

 檄を飛ばしつつ、老人、女達まで武器を持ち戦闘態勢に入っている状況を見て、起死回生の有効な手段などなく、エレーナはいつ来るか全く分からない援軍をひたすら待つのみであった。

「戦死者は何人になった?」

「戦死3名、行方不明5名から増えておりません」

 門の上のスペースで弓による迎撃に出ていた際に狙撃を受けたのは知っていた、ただそれ以降戦死者が増えていない事には安堵したが、門の上に大量の人員を配置しての一斉射撃による迎撃ができないことにより門まで押し寄せるのを許してしまっていた。

「丸太を数人がかりで抱え、門に突撃をかけています!」

「熱湯、矢で対処せよ!」

 門を破りに来た敵に対して対処を命じつつも、門が破られたらほぼ終わる、そう考えたエレーナは次の指示に移った、

「負傷者、非戦闘員は全員領主屋敷に避難するよう伝達しろ!」

「はっ!」

 最悪は領主屋敷へ通じる道を封鎖そこで最後の抵抗を試みながら援軍を待つ、そのくらいしか打つ手はなく、誰にも聞こえない小声で呟いた。

「あなたがいたらどうしたでしょうか・・・」



「厳しいようね、アルマ達を私の部屋へ呼んで、手が必要ならあなたも手伝いにまわりなさい」

 イゾルデは即答できなかった、いざとなったら刺し違えてでも時間稼ぎをする、そんな覚悟はできていた、それだけに離れるという選択肢はかなり抵抗があった、それを見透かしたようにユリアーヌスは続ける。

「いざとなった時は戻ってくればいいわ、炊き出しでも、けが人の治療でもやれることは山ほどあるでしょうから、本当は私も陣頭指揮でもして鼓舞して回るところなんでしょうけどね」

 少し間を置き、付け加えるように続けた。

「アルマともゆっくり話がしておきたいしね」

 そこまで言われると何も言えず、手配する旨を伝え退出した。

「腹は括ったつもりだったけど・・・怖いわね・・・」

 誰もいなくなった部屋でポツリとつぶやきながら、お腹を摩っていた。



「門はどうだ?」

 指揮官の男は努めて冷静に尋ねる、

「はっ!門までは辿り着けますが、この規模の村にしては高く厚く設置されており、まだかかるかと」

 暗闇が支配する中で始まった攻略戦は、じきに夜明けを迎えんとする時を迎えようとしていたが大きな戦果は上がっていなかった、防衛に徹されるとそれ以上の戦果は期待できず、あとは力押しで門を破壊するかこじ開けるしかなかったが、すでに20名以上の戦死を出しつつも、大きな進展は見られないでいた。

「なぁ、予定では攻略に何日かける予定だったんだ?」

 堂々たる体躯をした男が、指揮官らしき男に慣れた調子で話かける。

「3日だ」

「ふ~ん、なら焦る必要はないんじゃないか?」

「焦っているように見えたか?」

「こう暗くちゃ表情までは分らんよ」

 最後からかうように話す声を聞き、指揮官が焦っているように思われたのだろうか?もしかしたら自分でも気付かぬうちに焦りが声に出てしまっていたのではないだろうか?等と自問自答する、たしかに3日かけて落とす事を予定していたが、早いにこしたことはない、この後、損傷部位の修復と防衛戦も視野に入れなければならないのだから。

「長い夜だな・・・」

 予定通り進んではいるが、どうしても拭いきれない不安から、ポツリと呟いていた。

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