48 / 139
鴉の旗
攻略戦・一夜目
しおりを挟む
テオドールの悪い予感は当たっていた。
篝火がたかれ村の長老の怒声が飛び、広場の中心にはエレーナが武装した上で指揮をとっていた、彼女はすでに陥落から戦死までの覚悟は半ば固めていた。ただ、屋敷に残しているアルマとユリアーヌスだけでも生かしたいとも思ってはいたが、落ちのびられるような地形でもなく、援軍の到来まで少しでも陥落を遅らせる、その為には自身の死が士気の向上に役立つのであればなんとでもする覚悟であった。
「夜陰に乗じて門や殺到しています」
狙い撃ちができない夜の闇に乗じての攻撃であった、村へ向かう正体不明の団体についての報告は寄せられたが、精鋭の出払っている村では、村の防衛を固めるのが精いっぱいで行軍中の奇襲を行う事も出来ず、無傷で村の入り口まで接近を許す事になってしまった。
しかも今度の敵は暗闇に乗じて数で攻めて来る、実数が分かりずらいうえに、敵にどれだけの損害を与えたのかもわからず、しかも篝火の下で戦う村人に狙いすましたかのように狙撃が飛んでくる、敵は攻略のためにかなり練られた戦術を用意して戦いに挑んできていることがはっきりと見て取れた。
「身を低くしながら見敵必殺で矢を射かけろ!脇道からの奇襲に備え見回りも怠るな!」
檄を飛ばしつつ、老人、女達まで武器を持ち戦闘態勢に入っている状況を見て、起死回生の有効な手段などなく、エレーナはいつ来るか全く分からない援軍をひたすら待つのみであった。
「戦死者は何人になった?」
「戦死3名、行方不明5名から増えておりません」
門の上のスペースで弓による迎撃に出ていた際に狙撃を受けたのは知っていた、ただそれ以降戦死者が増えていない事には安堵したが、門の上に大量の人員を配置しての一斉射撃による迎撃ができないことにより門まで押し寄せるのを許してしまっていた。
「丸太を数人がかりで抱え、門に突撃をかけています!」
「熱湯、矢で対処せよ!」
門を破りに来た敵に対して対処を命じつつも、門が破られたらほぼ終わる、そう考えたエレーナは次の指示に移った、
「負傷者、非戦闘員は全員領主屋敷に避難するよう伝達しろ!」
「はっ!」
最悪は領主屋敷へ通じる道を封鎖そこで最後の抵抗を試みながら援軍を待つ、そのくらいしか打つ手はなく、誰にも聞こえない小声で呟いた。
「あなたがいたらどうしたでしょうか・・・」
「厳しいようね、アルマ達を私の部屋へ呼んで、手が必要ならあなたも手伝いにまわりなさい」
イゾルデは即答できなかった、いざとなったら刺し違えてでも時間稼ぎをする、そんな覚悟はできていた、それだけに離れるという選択肢はかなり抵抗があった、それを見透かしたようにユリアーヌスは続ける。
「いざとなった時は戻ってくればいいわ、炊き出しでも、けが人の治療でもやれることは山ほどあるでしょうから、本当は私も陣頭指揮でもして鼓舞して回るところなんでしょうけどね」
少し間を置き、付け加えるように続けた。
「アルマともゆっくり話がしておきたいしね」
そこまで言われると何も言えず、手配する旨を伝え退出した。
「腹は括ったつもりだったけど・・・怖いわね・・・」
誰もいなくなった部屋でポツリとつぶやきながら、お腹を摩っていた。
「門はどうだ?」
指揮官の男は努めて冷静に尋ねる、
「はっ!門までは辿り着けますが、この規模の村にしては高く厚く設置されており、まだかかるかと」
暗闇が支配する中で始まった攻略戦は、じきに夜明けを迎えんとする時を迎えようとしていたが大きな戦果は上がっていなかった、防衛に徹されるとそれ以上の戦果は期待できず、あとは力押しで門を破壊するかこじ開けるしかなかったが、すでに20名以上の戦死を出しつつも、大きな進展は見られないでいた。
「なぁ、予定では攻略に何日かける予定だったんだ?」
堂々たる体躯をした男が、指揮官らしき男に慣れた調子で話かける。
「3日だ」
「ふ~ん、なら焦る必要はないんじゃないか?」
「焦っているように見えたか?」
「こう暗くちゃ表情までは分らんよ」
最後からかうように話す声を聞き、指揮官が焦っているように思われたのだろうか?もしかしたら自分でも気付かぬうちに焦りが声に出てしまっていたのではないだろうか?等と自問自答する、たしかに3日かけて落とす事を予定していたが、早いにこしたことはない、この後、損傷部位の修復と防衛戦も視野に入れなければならないのだから。
「長い夜だな・・・」
予定通り進んではいるが、どうしても拭いきれない不安から、ポツリと呟いていた。
篝火がたかれ村の長老の怒声が飛び、広場の中心にはエレーナが武装した上で指揮をとっていた、彼女はすでに陥落から戦死までの覚悟は半ば固めていた。ただ、屋敷に残しているアルマとユリアーヌスだけでも生かしたいとも思ってはいたが、落ちのびられるような地形でもなく、援軍の到来まで少しでも陥落を遅らせる、その為には自身の死が士気の向上に役立つのであればなんとでもする覚悟であった。
「夜陰に乗じて門や殺到しています」
狙い撃ちができない夜の闇に乗じての攻撃であった、村へ向かう正体不明の団体についての報告は寄せられたが、精鋭の出払っている村では、村の防衛を固めるのが精いっぱいで行軍中の奇襲を行う事も出来ず、無傷で村の入り口まで接近を許す事になってしまった。
しかも今度の敵は暗闇に乗じて数で攻めて来る、実数が分かりずらいうえに、敵にどれだけの損害を与えたのかもわからず、しかも篝火の下で戦う村人に狙いすましたかのように狙撃が飛んでくる、敵は攻略のためにかなり練られた戦術を用意して戦いに挑んできていることがはっきりと見て取れた。
「身を低くしながら見敵必殺で矢を射かけろ!脇道からの奇襲に備え見回りも怠るな!」
檄を飛ばしつつ、老人、女達まで武器を持ち戦闘態勢に入っている状況を見て、起死回生の有効な手段などなく、エレーナはいつ来るか全く分からない援軍をひたすら待つのみであった。
「戦死者は何人になった?」
「戦死3名、行方不明5名から増えておりません」
門の上のスペースで弓による迎撃に出ていた際に狙撃を受けたのは知っていた、ただそれ以降戦死者が増えていない事には安堵したが、門の上に大量の人員を配置しての一斉射撃による迎撃ができないことにより門まで押し寄せるのを許してしまっていた。
「丸太を数人がかりで抱え、門に突撃をかけています!」
「熱湯、矢で対処せよ!」
門を破りに来た敵に対して対処を命じつつも、門が破られたらほぼ終わる、そう考えたエレーナは次の指示に移った、
「負傷者、非戦闘員は全員領主屋敷に避難するよう伝達しろ!」
「はっ!」
最悪は領主屋敷へ通じる道を封鎖そこで最後の抵抗を試みながら援軍を待つ、そのくらいしか打つ手はなく、誰にも聞こえない小声で呟いた。
「あなたがいたらどうしたでしょうか・・・」
「厳しいようね、アルマ達を私の部屋へ呼んで、手が必要ならあなたも手伝いにまわりなさい」
イゾルデは即答できなかった、いざとなったら刺し違えてでも時間稼ぎをする、そんな覚悟はできていた、それだけに離れるという選択肢はかなり抵抗があった、それを見透かしたようにユリアーヌスは続ける。
「いざとなった時は戻ってくればいいわ、炊き出しでも、けが人の治療でもやれることは山ほどあるでしょうから、本当は私も陣頭指揮でもして鼓舞して回るところなんでしょうけどね」
少し間を置き、付け加えるように続けた。
「アルマともゆっくり話がしておきたいしね」
そこまで言われると何も言えず、手配する旨を伝え退出した。
「腹は括ったつもりだったけど・・・怖いわね・・・」
誰もいなくなった部屋でポツリとつぶやきながら、お腹を摩っていた。
「門はどうだ?」
指揮官の男は努めて冷静に尋ねる、
「はっ!門までは辿り着けますが、この規模の村にしては高く厚く設置されており、まだかかるかと」
暗闇が支配する中で始まった攻略戦は、じきに夜明けを迎えんとする時を迎えようとしていたが大きな戦果は上がっていなかった、防衛に徹されるとそれ以上の戦果は期待できず、あとは力押しで門を破壊するかこじ開けるしかなかったが、すでに20名以上の戦死を出しつつも、大きな進展は見られないでいた。
「なぁ、予定では攻略に何日かける予定だったんだ?」
堂々たる体躯をした男が、指揮官らしき男に慣れた調子で話かける。
「3日だ」
「ふ~ん、なら焦る必要はないんじゃないか?」
「焦っているように見えたか?」
「こう暗くちゃ表情までは分らんよ」
最後からかうように話す声を聞き、指揮官が焦っているように思われたのだろうか?もしかしたら自分でも気付かぬうちに焦りが声に出てしまっていたのではないだろうか?等と自問自答する、たしかに3日かけて落とす事を予定していたが、早いにこしたことはない、この後、損傷部位の修復と防衛戦も視野に入れなければならないのだから。
「長い夜だな・・・」
予定通り進んではいるが、どうしても拭いきれない不安から、ポツリと呟いていた。
0
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる