レイヴン戦記

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鴉の旗

浮気ダメ絶対

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 季節が秋を過ぎ冬の訪れを予感させる頃に最初の移民団がやって来た、調整のため村長以下、名主衆はかなり骨を折ったようであった。
 どこの村にも家を継げない次男、三男はおり、この機会をチャンスと捉えて応募してくれる者もいたが、村で問題を起こした者が厄介払いのように供出されるケースもあったため、調整には村長、名主衆も神経を尖らせていた。
 今回の戦死者の内訳をみると比較的若い女性に多くの犠牲者が出ていた、理由は男達が遠征に出てどうしても男手が足りず、前線で女性が戦わざるを得ず必然的に女性の被害者も多数出てしまった。
 大抵のケースにおいて戦死者の多くは男が占めるため、このようなケースは異例であったが、逆に運がいいともとれた、借金の未返済や、税金の滞納などから、子供を身売りするケースなど珍しくもなかったが、どうしても女より男の方に高い値段が付いた。
 男の方が力仕事への適正から多くの需要があり、逆に女の使い道など極めて限られていた、しかも都市部に行けば、食い扶持にあぶれた女も数多くおり、待遇の約束と結納金の交渉をしっかりする事で農村においても比較的話はつけやすかった。

「領主様、この者達、今後は領民として領主様に忠誠を誓う事をここに約束いたしました」

 移民受け入れのための儀式が領主屋敷前で執り行われた、跪くその村長の後ろで15名ほどが同じく跪いていた。

「村のため尽くすがよい」

 『茶番じみている』そんな事を思いながらも、決められた通りのセリフを言い終わると、顔を上げた移民の中に知っている顔を見つけ思わず声を掛けた。

「あれ?あなたはたしかブラゼ村の人では?」

 自分の事を指名されたのに気付いた男は深々と頭を下げ言った。

「はっ!クラウスと申します、思う所ありまして、志願させていただきました!」

 思う所が何なのかはだいたい予想ができた、全滅させられた村に到着し半狂乱となっていた彼の事が印象に残っていたが、目の前にするといい言葉は浮かばず、「がんばってください」と歯切れ悪く言うくらいしかできなかった、側で見ていたエレーナは『最後まで威厳を保て!』と思ったが、たぶん今後も大きくは変わらないのだろうと、半ば諦めに近い感想を抱き小さくため息をついた。



 テオドール以下、村長のマルティン、カイ、エレーナという組み合わせでの今後の展望についての会議が持たれた。

「これから冬で雪でも降れば動きずらくなりますし、交流にはいい季節かもしれませんね」

「ええ、それもあって早急に話を詰めてまいりました」

 冬に入り狩りも農業も休止状態になると、どうしても屋内作業がメインとなる、その時期に男女の仲が進展するケースも多いし、なによりこの時期に仕込まれて夏に産まれて来るケースはかなり多かった。
 そんな事をマルティンは考えていて、ふと気になって尋ねてみた。

「たしか、もうすぐでしたよね?どちらが先に産みそうなんですか?」

「正直分からない」

 デリケートな問題ではあったがマルティンとしても、アルマの両親とは交流もあり、アルマが不幸な目に遭う事だけは避けてほしかった、ただそれ以上の口出しが出来るわけでもなく、それまでだった。
 実際にこの問題はかなり深刻化するケースを内在していた、アルマ自身も周りも生まれる順番など関係なくユリアーヌスの子に優先権がある事は納得しており、まったく異議はなかった、アルマはそれで一応安心はしていたが、エレーナなどは後々別の問題が持ち上がる事を懸念していた。
 もし二人の産んだ子が共に男子でアルマは相続を放棄したとしても、近い環境で育った場合比較もしやすく、アルマの産んだ子の方が優秀であろうという、はっきりとした優劣が出てしまった場合、果たしてユリアーヌスはおとなしくしているであろうか?そんな事を懸念していた、むしろ新しい村を作る事で子の安定性を確保したヒルデガルドが最も安全に思えた。
 できればアルマには女児でも産んでもらって、フリートヘルムの息子あたりに嫁がせるのが最も波風立たないのではないだろうか?そんな事をエレーナは考えていた、どちらにしても産まれるまではなんとも言えない事がより一層もどかしく感じられた。
 しかし、そんな事を考えているエレーナの横でテオドールとマルティンは非常にどうでもよい会話を繰り広げていた。

「あの栗毛の娘と、ちょっとそばかすのある娘と、胸の大きい娘、けっこうよかったよね」

「あ~、親もけっこう足元見るように結納金でゴチャゴチャ言ってきたんですよ、特にあの栗毛の娘はいっそ領主の妾にどうだ?なんて言ってたんですよ」

 真剣に考えているそぶりをしているテオドールを尻目に、マルティンは続けた。

「これ以上は色々きついって断ったんですが、それなり以上の相手を用意しろとか、かなり色々注文つけてきましたからね」

「かなり器量がよかったしね」

「ただ、ちょっと意外なのは、あのそばかすの娘みたいなのが、お好みなんですか?」

「健康的でけっこう可愛いと思ったけどね」

「まぁ、たしかに悪くはないですけどね」

「村長はあの胸の大きい娘?」

「あれはどうしても目がいくでしょう!」

「手を付けたりしてないでしょうね?」

「いや~もうちょっと若かったらクラッと行ってたかもしれないですけど、今はうちのババァで我慢してますよ」

 マルティンが笑いながら話していたが、テオドールは青い顔をして口をパクパクさせ、指を微妙に動かし何かを伝えようとしている様子であった、その様子に気付いたマルティンも背後から強い殺気を感じたが、怖くて振り向けず、冷静なふりをして話を再開させた。

「まあ、冗談はさておき新規開拓村の移住計画についてもう少し話を詰めましょうか」

 しかし、完全に手遅れであった、マルティンの背後に仁王立ちで立っていた彼の妻はマルティンの首根っこを掴むと、テオドールに向かって、優しく語り掛けた。

「話はだいたい済んだみたいだし、旦那借りて行ってもいいわよね?」

 マルティンは目で助けを訴えたが、隣にいるエレーナの冷ややかな視線と相まって、拒否することなどできようはずもなかった。
 ユリアーヌスとアルマの出産が近づく中で、村の出産経験のある女達が数名手伝いのため屋敷に常駐するようになっており、その中に村長夫人もいるのを知っていたエレーナが男達の話にイラッとしてゲルトラウデに目で合図を送り呼んで来させたのだった。
 マルティンが引きづられて退出すると、エレーナが冷ややかに言った。

「実際に手を出したらどうなるか分かりますね?」

 「はい」と小さく返事をして沈黙するしかないテオドールを、普段は完全な信頼感に満ちた目で見ていたゲルトラウデさえ、微妙に冷たい視線を送っていた。
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