レイヴン戦記

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新世代

招待状

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 来るべきものが来た、そんな感覚だった。結婚式に関連したイベントも終わりに近づいてきたある日、伯爵邸に一通の招待状が舞い込んできた、差出人はヴァレンティン侯爵、あて先は伯爵家と準男爵家となっており、内容はささやかな晩餐会とだけ記されていた。
 オルトヴィーンから手紙の真意について意見を求められたテオドールは率直にフェルディナントの初陣についての相談ではないだろうか?という考えを披露した。
 芝居なのか想定内なのかオルトヴィーンは「ふむ」と案外冷静に受け止めていたが、フリートヘルムは動揺を隠せないでいた。
 結果として、ヴァレンティンの招待にはテオドールの従者とフリートヘルムの従者で招きに応じる事となった、オルトヴィーンとしてはいよいよ代替わりの準備に入るつもりであった。



 晩餐会は簡素ながら和やかな雰囲気で始まった、国王の結婚と言う慶事が恙無く進行している事に対しての喜びという体であったが、真意がどこにあるのかは、まだ見せようとしてこなかった。

「しかし、三者三様ではあるが卿はいつも華やかだな」

 ヴァレンティンはテオドールを見ながら面白そうに発言する、たしかに三者の従者はそれぞれ違った側面を見せていた、ヴァレンティンはただ一人エッケハルトを同席させるに#留_とど__#めていた、フリートヘルムは補佐官の従騎士三名を伴ってきており、テオドールは従士のヨナタン以外は、ゲルトラウデ、アストリッドと2名の女性を伴っていた、たしかに指摘されると苦笑いが零こぼれる。

「先ごろ知り合った歌姫に、『怒らないから、実際どんな風に言われているの?』と聞いたところ、女狂いという風評が主流だそうで」

 皆笑っているが、そんな所に孫を預けているエッケハルトだけは笑えなかった、実際にフリーダに聞いたところ言いずらそうに回答して来た、もちろん自分は違うのは分かっていると必死に弁解しながらであったが。
 
「アストリッドは変わりないかね?」

 突然話題を振られたアストリッドであったが、冷静に返答しだした、

「はっ!日々錆びぬ様、剣術の研鑽に励んでおります!」

 『退屈だから毎日剣振ってます』そう言いたいんだろうなぁ、そんな事をテオドールは考えていたが、返品していいものか戦役が起こるならキープしておくべきなのか、考えが纏まらなかった。

「剣を振るう機会がなく退屈だったのではないか?」

 図星であったが、『はい』とも言えず、モゴモゴと、「決してそのような」と歯切れ悪く返答するにとどまった。

「近いうちにその剣の腕を生かす時が来よう」

 ヴァレンティンの声のトーンが変わった気がした、『来たか』テオドール達はそう感じた。

「数か月後にガリシってとこですか?陛下の初陣は」

 ニヤリと笑いながら、予期せぬ回答出した、

「おしいが残念だな、3日後だ」

 『おしくねぇよ!』思わず叫びたくなった、それにしても3日後ってなんだというのが皆の意見であった。

「閣下、発言よろしいでしょうか?」

 ゲルトラウデの発言に対しヴァレンティンが許可を出す前に、テオドールが遮さえぎるように話出した。

「いや、理に適ってるよ、たぶん我々の軍はあてにせず、必要な兵員、兵糧はすでに揃い済み、本当の目的は国境からそう遠くない町を一つ落とすくらいの計画って感じではないんですか?ついでに言えば標的はアラスあたりでは?」

 途中までニコニコとして聞いていたヴァレンティンであったが、途中から表情に険しさが出てきた。

「何故分かった?」

 他の者達は二人の会話について行けなった、ゲルトラウデ等は準備期間の短さに異議申し立てを行おうとした矢先にはるか先の話を二人が開始し始め完全に頭が追い付かなくなってしまった。

「国王親征という事で当初はもっと大規模なものを考えていました、しかし、国の一部を速戦によって版図に組み込むのであれば、北方リンブルク、国境の街アラス、そう考えました。しかもあそこでしたら3年ほど前にうちに攻撃しかけてきた仕返しって大義名分も立ちやすいですしね」

 少し忌々し気な顔に笑みを浮かべつつ、ヴァレンティンは言う。

「せっかく出し抜いたと思ったのにあっさり見抜くかよ」

 愉快そうに笑うヴァレンティンを尻目に、素っ気なくテオドールは言い放つ。

「賛同しかねますがね」

 笑いが止まり、若干不機嫌そうな顔をするヴァレンティンに対し、さらにとぼけた調子で続ける。

「地図ありますか?」

 その言葉に反応しヴァレンティンがエッケハルトに目配せすると、あらかじめ準備していたであろう地図をテーブルの上に広げた。

「ゲルトラウデ、あとよろしく」

 『丸投げかよ!』皆がそう思ったがゲルトラウデは真剣な面持ちで、地図上の三点を示しながら説明を開始した。

「アラスの奪取に成功しましても、その北にある城塞都市カディスを落とさない事には地域の恒久的な支配は叶わぬものと考えます、よって攻めるべきはカディス。しかしアラスを放置するわけにもいかないため最初は伯爵領マヨーアに駐屯する駐屯軍でアラスを包囲します、さらにタイミングを合わせカディス西方のエンナも同時に責めます、三点同時攻撃、この策がなされればカディス、エンナの陥落はなりましょう」

 皆、地図を睨みつつ地図上の軍の動き、兵力予想を聞き、その作戦に一定の理を見出していた、

「その策、君が考えたのか?」

 ヴァレンティンが少し疑わしそうにゲルトラウデに聞くと、彼女は少し恥ずかしそうに答えた。

「リンブルクに侵攻するならどうするか?って話をご領主様と何百回もシュミレーションした時に思いついた策なんです」

 照れくさそうに言う彼女にテオドールが誇らしげに、そして努めて軽い口調で言う。

「うちの軍師は優秀でしょ?あげませんからね」 

 フリートヘルムは軍議に参加してはいたが、何一つ口を挟めなかった、自領に接する扮装地域の事であるにもかかわらず、自分がテオドールやゲルトラウデほどにいざ侵攻という時のシミュレーションを練っていなかった事に呆然とした。

「卿らはいつもこんな事を考えているのか?」

 二人は少し顔を見合わせると、考えるようにしながら返答した。

「敵が侵攻するならどう来るか?その逆に侵攻するならどうするか?そういった事は領地防衛のために絶えず考えていますね、内政は優秀なのが二人いて出る幕がないですしね」

 結局晩餐会はそのまま軍議となり作戦内容が細部に至るまで決定した頃に夜は空けていた。
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