レイヴン戦記

一弧

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新世代

買収工作

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 約2カ月ぶりの王都凱旋であった、ついこの前結婚祝賀の祭りだったかと思ったら今回は国王親征および、大勝利による領土奪取での祭りで王都は湧きかえっていた。
 テオドール配下の者には一人の死傷者も出ず、婚約早々に相手を亡くすのではないかと心配していた娘達を喜ばせた。それでも伯爵家からは相当数の死傷者が出ており、あまり手放しで喜ばぬ様に皆に注意喚起を徹底させていた。
 テオドールにしても、伯爵邸の一室でユリアーヌス達とくつろぎやっと解放された気分になっていた。先ほどからチョコレートケーキを頬張りながら興奮気味に戦の経緯を語っているゲルトラウデを見ると改めて安全な場所に帰って来れた事に安堵感を抱いてしまう。

「問題はどう要求するかね」

 聞き終わったユリアーヌスが考え込むようにしながら、話始める。

「報酬?」

「ええ」

 どのくらいが妥当なラインなのかが理解できなかった、あまり強欲な事を言い、中央ともめるのはまずいが、ここまでやってタダ働きでは割が合わなすぎる、伯爵家の功績、王自らの功績との比較まで考えるとどのくらいが妥当なのか見当もつかないというのが本音であった。

「正直妥当なラインってのがわからないんだけど、どのくらいが妥当だと思う?」

 ユリアーヌスにしても即答は難しいのであろう、軍役に関しては流石に専門外であるだけに、功績の多寡まで測るのは流石に才女とはいえ酷といえた。

「難しいところだけど、金銭で終わらせとくのがいいかもしれないわね」

「今回獲った土地貰っても管理が大変だから、そのあたりが無難なんだろうね」

「そうね、下手に領土欲を示せば警戒されるし、開拓村の発展のための援助資金もコミで金でくれってあたりで抑えといた方が最終的にはいいんじゃないかしらね」

 停戦協定が明けた先を考えていると何気なく書庫で見つけた大戦略が思い出され、全く異なる質問をぶつけてみた。

「今度の戦争でリンブルクは領地を削られたわけだけど、どのくらい影響あると思う?具体的には弱体化したと思われて他国も狙いに行くみたいな感じで」

「まずないと思います、今回獲った土地は前線の拠点地域ではありますが、商業地域や穀倉地帯というわけではありませんから、国力と言う観点からはさして影響はないかと」

 相変わらず口にチョコレートケーキを頬張りながらゲルトラウデが回答して来た、さっき1ホール食べ終えたはずなので、今食べているのは2ホール目のはずである、食べた分はどこに消えるのだろうか?少なくとも下腹部と胸には行っていないようであるが。

「同感ね、しかもさっき聞いた話だと相手の主力軍を完全に壊滅させたってほどじゃないんでしょ?そうなるとそこまで弱体化したとはみなされないでしょうね、ちなみにどんな事を考えてたの?」

「先代の残した計画書の中にリンブルク方面の山の中に新たに村を作る計画があったんだよ、もちろん簡単にはいかないだろうね、山道を開通させ、木を伐り、整地を行い、大規模な工事で10年単位の年月がかかる、もちろん金も大量にかかる、リンブルク完全攻略のために金出せって言えば十年単位で絞れるかなぁ、なんて思ったんだよね」

「それどこ?」

 テーブルの上には地図が置かれていたが、その上にはチョコレートケーキの皿が置かれており、ゲルトラウデは皿をわきにどけると、口をモゴモゴさせながら、「このあたりです」と地図上の一点を指し示した。ゲルトラウデもシミュレーションの過程でそのプランは知っていた、しかし時間と金がかかりすぎるため、まず不可能だろうと考えていた、たしかに国王がパトロンになり国家事業として行うのであれば可能だが、その事業に金をかけるくらいだったら平野部から攻める方針で行くだろうという結論にどうしても行きついてしまう。

「面白いわね、提案してみましょう」

 ユリアーヌスは冗談を言う事もあるが、今のは冗談を言っている雰囲気ではなかった、どのような真意があるのか分かりかねていると、追加で続けた。

「今回の戦争でかなり鮮やかな勝利を飾ったわよね、戦果に対して死傷者数は極めて少なくこれ以上の戦果はまず期待できないと言っていいと思うの、フェルディナントはさぞ恐ろしかったでしょうねあなたの事が。『もしこいつが姉の子を旗頭に据えて反乱を起こしたらどうなるだろう?』ってね」

 微妙にありえそうなだけに沈黙してしまったが、ゲルトラウデが反論する。

「いくらなんでも2村合わせて500人も村民がいない状態で反乱なんて絶対に無理ですよ」

「伯爵家と組んだらどう?」

 何も言い返せなかった、頭の中で瞬時にシュミレーションをしてみたが、絶対に無理とは言えない気がした、確率は低いだろうが成功の見込みがありえないとは言えない事に気付いてしまった。

「言いたいことは分かったけど、それがどうして工事につながるの?」

「『私の目は常に外への侵攻に向いています、内への反乱など考えていません』っていうアピールね、それで10年位の安全は確保できるんじゃないかしら」

 成功すれば国庫から出る金で村人に仕事を割り振る事ができ、村の経済状態も潤うだけに、採用されれば儲けものくらいで提案する事は決まった。

「ところで占領した村で綺麗な娘を提供されたんじゃない?」

 ヒルデガルドがゲルトラウデに質問して来た。

「はい、ですがご安心を、私が目を光らせておきましたから」

 その様子に嘘は感じられなかった、本心でいえば一夜のお遊びくらいなら見ないふりをしてやってもよかった、やはり一番注意すべきはいつもベッタリとくっついていくゲルトラウデなのだ、もしこの二人が深い関係になればお遊びでは済まなくなる可能性が極めて高く感じられた。

「ふ~ん、ちなみに目を光らせてなかったらどうなってたと思う?」

「まず間違いなく手を付けていたでしょうね」

 キッパリと言い切った。どうせこうなるなら手を付けておいた方が得だったのではないだろうか?そんなことを考えながらこの世の不条理について思いを馳せていた。
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