レイヴン戦記

一弧

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新世代

談合

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 来賓を多数迎えての祝勝会は開く側にとってもメリットのあるものだった、顔つなぎや交友範囲を広げる意味もあったが、実入りの問題が大きかった、自分を売り込むためにお近づきの印として実弾を持ってくる者が多数いた。当初テオドールは伯爵に持ってくるのであった自分には縁のない事であろうと思っていたのだが、直接自分へ持ってくる者達が多数いる事に驚きを隠せなかった。

「どういうことなの?」

 終了後にユリアーヌスに聞くと素っ気ない返事が返って来た。

「お近づきになりたいんでしょ?もし領地紛争が発生した時にあなたが味方に付いてくれれば心強いでしょうからね」

 突っ返せばよかったんだろうか?そんな事を考えていると、心を読まれたのか先手を打つように言ってくる。

「突っ返しちゃだめよ、それこそ喧嘩売るようなもんだからね。いいのよ武力衝突っていったって村同士の小競り合いくらいで終わるし、本当に大きくなったら王家が裁定に出てくるからね」

「ん?今回みたいに余所の国と戦うんじゃないの?」

 少し不思議そうにテオドールの事を見ると、質問の内容に若干のズレがある事に気付き説明を始めた。

「余所の国と戦うのもそうだけど、領主同士の小競り合いなんてよくあるのよ、隣同士でもうちのとこみたいに紛争がないケースの方が少ないくらいね」

 実際には小さいところを力で押さえつけるようにするのがだいたいのケースであったが、オルトヴィーンの方針もあって、レギナント、テオドールの二代にわたって極めて低姿勢な懐柔策を取る事によって良好な関係は維持されていた。
 本来の力関係であれば、レギナントやテオドールが伯爵家の当主に愛人を提供したり、戦争の先鋒を申し出て、ご機嫌取りに奔走するのが普通と言えた。

「めんどくさいねぇ、貴族って」

「そういうものよ、明日のお茶会だって、お茶飲んで終わりだと思ってないわよね?」

「さすがに思ってはいないよ、戦後処理とか報酬の件で希望が被ったりしないように、穏便に事前に調整しようって事だよね?」

 その回答に満足そうに頷くユリアーヌスだったが、テオドールはほんの少し前まで、王様が一方的に報酬を決めて貴族が受け取るものだと思っていた、フリートヘルムに実際は裏で調整を重ね報酬が決まる事を教えられ驚いたのはつい最近の事であった。



 翌日のお茶会は伯爵邸で見知った顔のみで行われたのでそれほどの緊迫感はなかった、これが両家の間で領地紛争が起こっているような状態であれば、そこはさながら戦場と化すのであったが。
 一番楽しそうにしていたのは、木苺のタルトをホールで提供されていたゲルトラウデだったろう、テオドールが冗談で言った『軍師にスイーツを提供すると策が出ます』と言う言葉をそのまま実行に移した形であった。

「うちは現金決算で終了予定よ」

 ヒルデガルドが口火を切る、単刀直入かつ、端的に要求を言い切ってしまった、さすがにオルトヴィーンもフリートヘルムも苦笑いするしかなかった。

「仮にだが、今度獲得した地域を全て伯爵領に編入し、リンブルクをさらに狙うとしたらどうなるかな?」

 フリートヘルムはあえて、ヒルデガルドを無視するかのように質問を発したが、テオドールもゲルトラウデも同時に回答した。

「無理です」
「無理です」

 二人同時に言われるとさすがに鼻白んだが、それでも食い下がっていた。

「根拠のようなものがあればお聞かせ願いたいのだが」

「まず、一年の休戦協定の間に、ブルノ川を挟んだ対岸に砦を築くと思います、それだけでかなりきつくなるでしょうね」

「しかも、そこから先は平野部が続きますから数がものを言う事になるでしょうが、リンブルクの最大動員数5万に対して伯爵領からの最大動員数で5千くらいじゃないんですか?」

「たぶん、今回みたいにって考えてるなら、陥落だけならできますよ、ただし維持は無理です大軍に押し潰されます」

「穀倉地帯で極めて重要な地域ですから意地でも取り返しにくると思いますよ」

 二人がかりで否定されるとさすがに何も言えなくなって黙ってしまったが、テオドールが言った最後の一言に喰いついてきた。

「まぁなんとかなるかもしれない方法が一つだけないわけでもないですがね」

 フリートヘルムは身を乗り出すようにすると、目を輝かせ聞いてきた。

「それを是非」

「20年前は侵攻に失敗したわけですが、その際あちこちの国境線では小競り合いが勃発したようですね、弱体化したのではないかと探りをいれる目的で、今回も領地を削られて周りは窺うように見ているでしょうから、それを唆そそのかし、欲を言えば本格的に侵攻する国が出てくれればいいんですけどね」

 その策を反芻するように考えると、少し低めのトーンながら、疑問を口にした。

「それだと、先に占拠されてしまう可能性はないのか」

「ない、とは言いませんが極めて低いと思います。あの国に長く住んでいましたが、そこまで弱体化はしていません、もし占拠されたとしても、打ち破るのにかなり疲弊した状態での占拠となるでしょうから、それから撃って出た方がよほどやりやすいかと」

 考え込むようにしていた、フリートヘルムであったが小さくため息を吐くと、語り出した。

「かなり長期的な視野に立った戦略を練る必要性がありそうだな、正直卿らにまかせれば『3日で占拠してごらんにいれます』くらい言ってくれそうな気がしていたものでな」

 『無茶言うな』、テオドールとゲルトラウデは内心そう思ったが、オルトヴィーンは頭では息子の言っている事が無茶苦茶である事を理解しながら、心情的には理解してしまっていた。

「撃って出て勝算があるなら多少いい土地を王家に献上して代わりにあそこを貰ってリンブルクの切り取りに行くという事も考えたんだが、そこまで甘くもなさそうだな」

 軽く笑いながらの回答であったが、ヒルデガルドは半ばどうでもいいと言わんばかりに尋ねた。

「で、結局どんな要求にするの?侵攻なら巻き込まないでよね、今度生け捕りにされても見殺しにするからやるならその覚悟でね」

 さすがにトラウマものな失敗を面と向かって言われると憤慨したが、嫌な顔をしつつも一応冷静に回答する。

「いや、多くは望まんよ、大きな戦功を軽微な損害で立てるという実績が出来ただけで上出来だ、むしろ今度獲った地は維持の困難さを考えると王家の直轄地とし、攻められた毎に援軍に赴くほうが、いい稼ぎになるかもしれないとさえ考えていたところだしな」

「本気で侵攻考えてる頭の中お花畑のおバカさんじゃない事が確認できてよかったわ」

 行政官としては優秀なフリートヘルムにとっては獲得したばかりの最前線地域などどのくらい苦労するのかが分かり切っていただけに、そんな土地は押し付けられるだけでかなりのお荷物となった、しかし隣国を制圧できるような軍略があるのであれば、これは新天地への入り口と成り得る、そんな期待を込めての冗談半分の戯言にも等しいものであった。
 ヒルデガルドとしても、本気で言っているなら頭を疑うレベルであるだけに、念のために聞いてみたという感覚だったのだ、しかし普段から真剣に攻略手段を模索していたテオドールとゲルトラウデは少しバツの悪そうな顔をしていた。
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