101 / 139
新世代
戦争屋の血
しおりを挟む
チェスの駒を兵に見立てああでもない、こうでもないと言いながら地図上を目まぐるしく動かして行く、そんな二人を見ながらよく飽きないものだと感心するような呆れるような気持ちでユリアーヌスとヒルデガルドは見ていた。攻めてきた場合の想定、攻める場合の想定、戦場がアルメ村近辺からかなり離れた場所を想定して行ってもいた。意味があるのだろうか?そんな事を考えてしまったりもしたが、いつどこに出陣要請があるか分からないのだから、考えておくにはいいのかもしれない実際に今回は役にたったのだから。
テオドールはヤケクソ気味にした約束ながらそれ以来軍議は会議室で行うようにしていた、実際痛くもない腹を探られたくないというのが一番大きな理由であったが、ユリアーヌスやヒルデガルドとしても精神的にイライラせずに済むので両者にとっていいことであった。
ゲルトラウデにしても、夜に時々訪れ、手荒に扱う事無く、それでいて情熱的に自分を扱ってくれ、朝までゆっくりと側にいてくれるテオドールとの関係に満足し、昼に過度にベタベタする行為はかなり控えるようになっていた。
ユリアーヌスやヒルデガルドにしてもテオドールの戦術研究は生存戦略である事を理解もしていた、戦に強いという事が存在理由、存在価値を示す唯一の道である、そう考えると手紙書きや諸侯との調整はしっかり自分がフォローして行けばいい、その分業制に納得もしていた。しかし、名が売れてくるとあやかろうとする輩も多数出てくる、近づこうとする貴族も増えてくる、その処理にどうしても人手は欲しくなってしまう。
しばらくすると、イゾルデがお茶を淹れて来て休憩となった、お茶菓子を食べている時が何より幸せそうな、ゲルトラウデを見ながら最近特に胴回りが気になりだしてきたイゾルデはため息を吐く、『おまえも後10年すればブタ女って言われるようになるのよ』そんな事を腹で毒づきながら、うらやましそうに彼女の胴回りを眺めていた。もっとも最近の彼女の悩みは胴回りだけではなかった、1年前のアルメ村襲撃の際に剣を使っての失態を演じた自分の未熟さを恥じ、それ以来アルマの母が残した棍棒の素振りを日課としていた、そのため二の腕にかなり筋肉がついてきたのだ、喜ぶべきか悲しむべきか悩むべき問題であった。
「ところで、熱心なのはいいけど、次に戦場になるのはどこだと思うの、現段階では不確定要素が多すぎて分からないってのは分かるから、あくまで予想でいいんだけどね」
二人とも少し考えるようなそぶりをしたが、答えは一致していた。
「南方戦線の可能性が最も高いと思うね、今回の一件で北はかなり安定するし、東は婚姻関係を結んだばかり、西はヴァレンティン侯爵領で非常に安定してるからまずない、ってことで南のガリシと戦端が開かれる可能性が最も高いと思うよ」
その発言を聞くとユリアーヌスとイゾルデが微妙に嫌な顔をしつつ、口を挟んできた。
「南方に大きく領地を持つレオ公爵がどうも信用できるのかどうか、なんとも」
「宮廷内事情とか人柄までは分からなくて、とりあえず地形と兵力だけで考えてたんだけど、何が気になるのかな?」
「端的に言えば王座を巡るライバル、しかも最有力候補ですね。もし現国王フェルディナント陛下に何かあればこの方が国王になる可能性が高いです、以前から幼王反対路線の活動を水面下でされておられましたから」
後ろから刺されたらたまったものではない、そう考えると戦略からなにから考えなおさなくてはならないが、南は手を着けないようにするのであれば、いよいよ安定しているが故にしばらくは大掛かりな外征も行わなくて済み内政に専念できると思われた。
「今度の戦で国王自ら指揮を執り、幼王では国が成り立たないって批判もできなくなりそうだけど、それでおとなしくなりそうなタイプなの?それとも裏で陰謀を巡らすようなタイプ?」
「簡単に諦めるような人物ではないわね」
そう言うユリアーヌスの話に、ヒルデガルドは軽くため息を吐きながら言う。
「反乱なんて起こさないで欲しいわよね、本気で」
しかし、そんなヒルデガルドの意見をテオドールとゲルトラウデは若干違和感のありそうな顔で何か言いたげにみていた。
「ん?私何か変な事言った?」
若干言いずらそうではあるが、テオドールが答える。
「いや、変って言うか、反乱起こしてくれた方がいいと思ったんだよね、むしろ仲のいいふりされて油断してるとこを後ろから刺されたらそれこそたまったもんじゃないし、情報が洩れた時の奇襲なんて悲惨以外のなにものでもないからね」
「ですね、白黒はっきりさせといた方がいいですから」
ゲルトラウデにとって敵より裏切った味方の方が何十倍も憎いというのはかなり実感のこもった言葉であった。
言いたいことはユリアーヌスやヒルデガルドも分かるが内乱となれば国力が疲弊することになり諸外国からの侵攻の的になる可能性は格段に高くなると言えた、優先基準がやはりこの二人とは若干違う分は補い合えればいいのだが、行違うと大変な事になりそうだからその点は十分に注意しないと後々大きな禍根を残す問題となりかねない、そんな事を考えてしまった。
「国外の敵を引き込んで王位を狙うほど突き抜けた馬鹿だと困るけど、そこのとこはどう?」
「流石にそこまで馬鹿ではないわよ、むしろ表面的にギリギリのラインを読めるだけに厄介ね」
完全に叛乱の尻尾を掴み、領地規模の縮小や討伐できればよかったのだが、その点は抜かりなく、しかも王位継承権を持つ公爵ともなると、なかなか簡単に裁けるものでもなかった。
そしてテオドールはそういった政治的な駆け引きを完全に放置している節すらあったので、『めんどくさい相手』という意識で、見るしかなくなってきていた。
「じゃあ、公爵領を討伐するならどういう戦略がいいか検討してみますか」
テオドールのその言葉でゲルトラウデと今度は地図上の公爵領の攻略に取り掛かり出した。その一連の流れを見ながらユリアーヌスとヒルデガルドは根っからの戦争屋ってこういうものを言うのであろうとその血筋に呆れるしかなかった。
テオドールはヤケクソ気味にした約束ながらそれ以来軍議は会議室で行うようにしていた、実際痛くもない腹を探られたくないというのが一番大きな理由であったが、ユリアーヌスやヒルデガルドとしても精神的にイライラせずに済むので両者にとっていいことであった。
ゲルトラウデにしても、夜に時々訪れ、手荒に扱う事無く、それでいて情熱的に自分を扱ってくれ、朝までゆっくりと側にいてくれるテオドールとの関係に満足し、昼に過度にベタベタする行為はかなり控えるようになっていた。
ユリアーヌスやヒルデガルドにしてもテオドールの戦術研究は生存戦略である事を理解もしていた、戦に強いという事が存在理由、存在価値を示す唯一の道である、そう考えると手紙書きや諸侯との調整はしっかり自分がフォローして行けばいい、その分業制に納得もしていた。しかし、名が売れてくるとあやかろうとする輩も多数出てくる、近づこうとする貴族も増えてくる、その処理にどうしても人手は欲しくなってしまう。
しばらくすると、イゾルデがお茶を淹れて来て休憩となった、お茶菓子を食べている時が何より幸せそうな、ゲルトラウデを見ながら最近特に胴回りが気になりだしてきたイゾルデはため息を吐く、『おまえも後10年すればブタ女って言われるようになるのよ』そんな事を腹で毒づきながら、うらやましそうに彼女の胴回りを眺めていた。もっとも最近の彼女の悩みは胴回りだけではなかった、1年前のアルメ村襲撃の際に剣を使っての失態を演じた自分の未熟さを恥じ、それ以来アルマの母が残した棍棒の素振りを日課としていた、そのため二の腕にかなり筋肉がついてきたのだ、喜ぶべきか悲しむべきか悩むべき問題であった。
「ところで、熱心なのはいいけど、次に戦場になるのはどこだと思うの、現段階では不確定要素が多すぎて分からないってのは分かるから、あくまで予想でいいんだけどね」
二人とも少し考えるようなそぶりをしたが、答えは一致していた。
「南方戦線の可能性が最も高いと思うね、今回の一件で北はかなり安定するし、東は婚姻関係を結んだばかり、西はヴァレンティン侯爵領で非常に安定してるからまずない、ってことで南のガリシと戦端が開かれる可能性が最も高いと思うよ」
その発言を聞くとユリアーヌスとイゾルデが微妙に嫌な顔をしつつ、口を挟んできた。
「南方に大きく領地を持つレオ公爵がどうも信用できるのかどうか、なんとも」
「宮廷内事情とか人柄までは分からなくて、とりあえず地形と兵力だけで考えてたんだけど、何が気になるのかな?」
「端的に言えば王座を巡るライバル、しかも最有力候補ですね。もし現国王フェルディナント陛下に何かあればこの方が国王になる可能性が高いです、以前から幼王反対路線の活動を水面下でされておられましたから」
後ろから刺されたらたまったものではない、そう考えると戦略からなにから考えなおさなくてはならないが、南は手を着けないようにするのであれば、いよいよ安定しているが故にしばらくは大掛かりな外征も行わなくて済み内政に専念できると思われた。
「今度の戦で国王自ら指揮を執り、幼王では国が成り立たないって批判もできなくなりそうだけど、それでおとなしくなりそうなタイプなの?それとも裏で陰謀を巡らすようなタイプ?」
「簡単に諦めるような人物ではないわね」
そう言うユリアーヌスの話に、ヒルデガルドは軽くため息を吐きながら言う。
「反乱なんて起こさないで欲しいわよね、本気で」
しかし、そんなヒルデガルドの意見をテオドールとゲルトラウデは若干違和感のありそうな顔で何か言いたげにみていた。
「ん?私何か変な事言った?」
若干言いずらそうではあるが、テオドールが答える。
「いや、変って言うか、反乱起こしてくれた方がいいと思ったんだよね、むしろ仲のいいふりされて油断してるとこを後ろから刺されたらそれこそたまったもんじゃないし、情報が洩れた時の奇襲なんて悲惨以外のなにものでもないからね」
「ですね、白黒はっきりさせといた方がいいですから」
ゲルトラウデにとって敵より裏切った味方の方が何十倍も憎いというのはかなり実感のこもった言葉であった。
言いたいことはユリアーヌスやヒルデガルドも分かるが内乱となれば国力が疲弊することになり諸外国からの侵攻の的になる可能性は格段に高くなると言えた、優先基準がやはりこの二人とは若干違う分は補い合えればいいのだが、行違うと大変な事になりそうだからその点は十分に注意しないと後々大きな禍根を残す問題となりかねない、そんな事を考えてしまった。
「国外の敵を引き込んで王位を狙うほど突き抜けた馬鹿だと困るけど、そこのとこはどう?」
「流石にそこまで馬鹿ではないわよ、むしろ表面的にギリギリのラインを読めるだけに厄介ね」
完全に叛乱の尻尾を掴み、領地規模の縮小や討伐できればよかったのだが、その点は抜かりなく、しかも王位継承権を持つ公爵ともなると、なかなか簡単に裁けるものでもなかった。
そしてテオドールはそういった政治的な駆け引きを完全に放置している節すらあったので、『めんどくさい相手』という意識で、見るしかなくなってきていた。
「じゃあ、公爵領を討伐するならどういう戦略がいいか検討してみますか」
テオドールのその言葉でゲルトラウデと今度は地図上の公爵領の攻略に取り掛かり出した。その一連の流れを見ながらユリアーヌスとヒルデガルドは根っからの戦争屋ってこういうものを言うのであろうとその血筋に呆れるしかなかった。
0
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
滅せよ! ジリ貧クエスト~悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、ハラペコ女神の料理番(金髪幼女)に!?~
スサノワ
ファンタジー
「ここわぁ、地獄かぁ――!?」
悪鬼羅刹と恐れられた僧兵のおれが、気がつきゃ金糸のような髪の小娘に!?
「えっ、ファンタジーかと思ったぁ? 残っ念っ、ハイ坊主ハラペコSFファンタジーでしたぁ――ウケケケッケッ♪」
やかましぃやぁ。
※小説家になろうさんにも投稿しています。投稿時は初稿そのまま。順次整えます。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる