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今度生まれ変わったら
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もう、どれくらいたったのだろう。
千年もの間、ここにすわり続けているような気がする。夕日の美しい、砂ばくのまん中に。
私は、岩になった。
地球のへそぐらいもありそうな、まっ黒い、大きな岩だ。
どんな嵐がきても、びくともしない。かいじゅうにかじられても、多分、だいじょうぶだ。
そして、何もしないで、この場所で、太陽や月のみちすじを眺めていればいいのだ。気らくなものだ。
けれど、少々あきてきた。
どうして、私は、こんなところにすわっていなければならないのだろう。もとのかしの木がよかったのに。
どっしりといったって、これじゃあ、ちょっと重すぎる。
それに、砂ばくぐらしは体にこたえる。
昼間は、火のように熱い太陽にやかれ、夜のやみの中で、しんしんとこごえる寒さを防いでくれるものはない。
昔はゴツゴツとがっていせいのよかった私の体も、きびしい気候にさらされ続けて、すっかりまるくなってしまった。
あまりの暑さと寒さのせいで、体じゅう、ひびだらけだ
その上、私自身の重さのせいで、私の体は、少しずつ砂の中に沈みはじめてしまった。
こおりつくように寒い夜、私は、ちっともねむれなかった。
神さまは、私に、こうしていったい何を考えろとおっしゃるのだろう。
(ちょっと、よくばりすぎたかなぁ)
(あんまり、ためいきつきすぎたかなぁ)
ようやく朝の光がさして、少しずつ寒さが遠ざかっていくころ、一羽のちょうちょが飛んできた。
「朝つゆは、とってもおいしいわ」
黄色いちょうちょは、いかにも楽しげに、そしていっしょうけんめい羽ばたいていた。
そのかたわらで、私は、音もなく沈んでいく。熱い砂の下にうもれて、もう、星を見ることもできなくなる。
(今度生まれてくるときは……)
いや。もう、よそう。
何度、同じことをくりかえしただろう。
何のために生まれてきたのだろう。
朝の光はまぶしすぎる。
ゆっくりと、けれども確実に沈んでゆく自分の体をぐるりと見わたしてから、私はそっと目をとじた。
深いためいきとともに、なみだがひとすじ、すーっとこぼれた。
「まぁ、なんてきれい!」
はずむようなちょうちょの声に、ゆっくり目をあけてみると、なみだが流れおちたあとに、ひとつぶの小石が光っていた。
きらきらと、にじ色にすきとおっていた。なみだのしずくの形をしていた。
(これまでに何度も何度もこぼしてきた、ためいきのしずくかなぁ)
(私にも、こんなに美しいものを作ることができたのか)
こころが、少し、やわらかくなった。
(今度生まれてくるときは……。おや、おや……)
それでも、夢をみるぐらいはいいだろう。
もう一度生まれ変われるものならば、できれば、人間がいいな。そうだ! 見はらしが丘の、あのいたずらっ子のような、小さな男の子がいい。
そうして、花の種をまこう。
いっぱい花がさくように、毎日、毎日、水をあげよう。
働きもののちょうちょが、遠くまでみつを探しに行かなくてもいいように。
たくさんの生きものたちが、にっこりと笑ってくれるように。
しばらく、静かにねむることにしよう。
私は、もう一度目をとじた。
―おわり―
千年もの間、ここにすわり続けているような気がする。夕日の美しい、砂ばくのまん中に。
私は、岩になった。
地球のへそぐらいもありそうな、まっ黒い、大きな岩だ。
どんな嵐がきても、びくともしない。かいじゅうにかじられても、多分、だいじょうぶだ。
そして、何もしないで、この場所で、太陽や月のみちすじを眺めていればいいのだ。気らくなものだ。
けれど、少々あきてきた。
どうして、私は、こんなところにすわっていなければならないのだろう。もとのかしの木がよかったのに。
どっしりといったって、これじゃあ、ちょっと重すぎる。
それに、砂ばくぐらしは体にこたえる。
昼間は、火のように熱い太陽にやかれ、夜のやみの中で、しんしんとこごえる寒さを防いでくれるものはない。
昔はゴツゴツとがっていせいのよかった私の体も、きびしい気候にさらされ続けて、すっかりまるくなってしまった。
あまりの暑さと寒さのせいで、体じゅう、ひびだらけだ
その上、私自身の重さのせいで、私の体は、少しずつ砂の中に沈みはじめてしまった。
こおりつくように寒い夜、私は、ちっともねむれなかった。
神さまは、私に、こうしていったい何を考えろとおっしゃるのだろう。
(ちょっと、よくばりすぎたかなぁ)
(あんまり、ためいきつきすぎたかなぁ)
ようやく朝の光がさして、少しずつ寒さが遠ざかっていくころ、一羽のちょうちょが飛んできた。
「朝つゆは、とってもおいしいわ」
黄色いちょうちょは、いかにも楽しげに、そしていっしょうけんめい羽ばたいていた。
そのかたわらで、私は、音もなく沈んでいく。熱い砂の下にうもれて、もう、星を見ることもできなくなる。
(今度生まれてくるときは……)
いや。もう、よそう。
何度、同じことをくりかえしただろう。
何のために生まれてきたのだろう。
朝の光はまぶしすぎる。
ゆっくりと、けれども確実に沈んでゆく自分の体をぐるりと見わたしてから、私はそっと目をとじた。
深いためいきとともに、なみだがひとすじ、すーっとこぼれた。
「まぁ、なんてきれい!」
はずむようなちょうちょの声に、ゆっくり目をあけてみると、なみだが流れおちたあとに、ひとつぶの小石が光っていた。
きらきらと、にじ色にすきとおっていた。なみだのしずくの形をしていた。
(これまでに何度も何度もこぼしてきた、ためいきのしずくかなぁ)
(私にも、こんなに美しいものを作ることができたのか)
こころが、少し、やわらかくなった。
(今度生まれてくるときは……。おや、おや……)
それでも、夢をみるぐらいはいいだろう。
もう一度生まれ変われるものならば、できれば、人間がいいな。そうだ! 見はらしが丘の、あのいたずらっ子のような、小さな男の子がいい。
そうして、花の種をまこう。
いっぱい花がさくように、毎日、毎日、水をあげよう。
働きもののちょうちょが、遠くまでみつを探しに行かなくてもいいように。
たくさんの生きものたちが、にっこりと笑ってくれるように。
しばらく、静かにねむることにしよう。
私は、もう一度目をとじた。
―おわり―
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