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第2話 罪人
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「髪、真っ黒になってますね…」
鏡を見ながら、苦笑を浮かべる。
肉親から授かった自分の体。
好いてはいても嫌ったことなど一度もなかった。
たとえ、白色だったとしてもだ。
あまり日の下には出れない体だったが、それは昼の美しさを知れない分、夜の美しさを知れる。
ほかの人にはない特別な体だった。
今となっては、跡形もないのだが…。
母はそんな私の表情を察したのか、抱き着き、抱きしめる力を強めた。
「大丈夫、そんな顔しなくても、私たちは何も変わったりしないよ」
いつもの無邪気な笑顔ではなく、母親としての笑顔を私に向ける母。
その顔を見たら私も安心してくる。
不思議なものだ。
「にしても、あんたよく生きていたわね」
病室の端にいた畏死乃巫女が言葉をかけてくる。
どうやら、彼女が助けを呼んでくれたらしい。
彼女には聞きたいことが一つだけあった。
あの黒い獣の話である。
「あぁ、あたしたちがみたあの魔物、でいいのかしらあれ?まぁ、あの魔物は助けを呼んで戻って来た時にはいなくなってわよ」
「そうですか…」
私の髪が黒くなった原因とその魔物が消えたことは少なからず関係はしているであろう。
そんなことを考えていた時、病室の扉が開いた。
「…夜叉の式神には、逃げろと伝えるよう言ったのだがな」
私がもっとも苦手とする人間が立っていた。
父である。
父の顔を見ると反射的に眉間にしわが寄る
今もその癖は抜けていない。
彼の眼にはあからさまに不機嫌そうな私の顔が映っていることだろう。
何も言わない父の眼には明らかな呆れの感情が表れていた。
「…あの場で私が逃げたら一体あの魔物はどこまで足を伸ばしていたでしょうね?少なくとも、ご機嫌取りをする誰かは必要だったのでは?」
「そういった、気概だけは生意気にも一人前だな」
「…能力が半人前以下ですから、気概だけでも一人前でいないとやっていられません」
病室の中がどんどん険悪な空気になっていく。
幼いころから、私と父は全くそりが合わないのだ。
おかげで会うたびにこんな問答の仕合いになる。
父が軽く鼻を鳴らし、懐から取り出した何かの書類を私のベッドの上に放り投げる。
「貴様の検査結果だ、自分で目を通して、自分の体に何が起こったのかを自覚しろ」
彼が投げた書類を一枚一枚手に取り目を通していく。
代り映えのしないいつもの検査結果。
ただ、最後の一枚を除いては。
「……何ですか、この、えぇ……」
「私も同じ感想だった。だが、何度見返しても、何度検査しようともそれが変わることはなかったぞ」
最後の一枚の書類。
それは、おもに妖魔といわれる化物退治に向かい、帰ってきた巫女たちが検査を受ける項目。
いわゆる、よくないモノの力。
私たち巫女にはあってはならない力。
負の力、《闇力》と呼ばれるものの検査項目。
目をそむけたくなるほどの数値が、そこに書き出されていた。
父が私の顔色をみながら、話を続ける。
「その数値は、並の妖魔…、いや、トのト級でもそこまでの数値は行かぬだろうな」
巫女の敵である妖魔は強さ順にクラス分けされている。
一番弱いのはイのイ級、そして一番強いといわれているのがトのト級なのだ。
私も、そして父や母でさえトのト級とは出会ったことがないだろう。
トのト級以上の数値が出たとなるとおそらくされることは一つ。
査問だ。
査問といってもただの査問ではない。
巫女たちはこの査問のことをこう呼んでいる。
事実上の死刑宣告と。
父の後ろには数人の武装した巫女が立っていた。
「あぁ、なるほど、貴方が来たのはこのためですか…」
「悪く思うな、貴様も逆らえぬというのは分かっているだろう」
彼女たちは私が寝ているベッドのそばまで来ると、私にベッドから降り立つよう促した。
私もここでさからっても何の意味もないことを知っている。
ゆっくりとベッドから降りる。
「衣坐那戯之巫女、七大巫女の命において、あなたを拘束させていただきます」
私は後ろ手に縄で縛られ、おとなしく彼らに連行される。
心配と悲しみが入り混じった母の顔が閉じられる病室からちらりと見えた。
鏡を見ながら、苦笑を浮かべる。
肉親から授かった自分の体。
好いてはいても嫌ったことなど一度もなかった。
たとえ、白色だったとしてもだ。
あまり日の下には出れない体だったが、それは昼の美しさを知れない分、夜の美しさを知れる。
ほかの人にはない特別な体だった。
今となっては、跡形もないのだが…。
母はそんな私の表情を察したのか、抱き着き、抱きしめる力を強めた。
「大丈夫、そんな顔しなくても、私たちは何も変わったりしないよ」
いつもの無邪気な笑顔ではなく、母親としての笑顔を私に向ける母。
その顔を見たら私も安心してくる。
不思議なものだ。
「にしても、あんたよく生きていたわね」
病室の端にいた畏死乃巫女が言葉をかけてくる。
どうやら、彼女が助けを呼んでくれたらしい。
彼女には聞きたいことが一つだけあった。
あの黒い獣の話である。
「あぁ、あたしたちがみたあの魔物、でいいのかしらあれ?まぁ、あの魔物は助けを呼んで戻って来た時にはいなくなってわよ」
「そうですか…」
私の髪が黒くなった原因とその魔物が消えたことは少なからず関係はしているであろう。
そんなことを考えていた時、病室の扉が開いた。
「…夜叉の式神には、逃げろと伝えるよう言ったのだがな」
私がもっとも苦手とする人間が立っていた。
父である。
父の顔を見ると反射的に眉間にしわが寄る
今もその癖は抜けていない。
彼の眼にはあからさまに不機嫌そうな私の顔が映っていることだろう。
何も言わない父の眼には明らかな呆れの感情が表れていた。
「…あの場で私が逃げたら一体あの魔物はどこまで足を伸ばしていたでしょうね?少なくとも、ご機嫌取りをする誰かは必要だったのでは?」
「そういった、気概だけは生意気にも一人前だな」
「…能力が半人前以下ですから、気概だけでも一人前でいないとやっていられません」
病室の中がどんどん険悪な空気になっていく。
幼いころから、私と父は全くそりが合わないのだ。
おかげで会うたびにこんな問答の仕合いになる。
父が軽く鼻を鳴らし、懐から取り出した何かの書類を私のベッドの上に放り投げる。
「貴様の検査結果だ、自分で目を通して、自分の体に何が起こったのかを自覚しろ」
彼が投げた書類を一枚一枚手に取り目を通していく。
代り映えのしないいつもの検査結果。
ただ、最後の一枚を除いては。
「……何ですか、この、えぇ……」
「私も同じ感想だった。だが、何度見返しても、何度検査しようともそれが変わることはなかったぞ」
最後の一枚の書類。
それは、おもに妖魔といわれる化物退治に向かい、帰ってきた巫女たちが検査を受ける項目。
いわゆる、よくないモノの力。
私たち巫女にはあってはならない力。
負の力、《闇力》と呼ばれるものの検査項目。
目をそむけたくなるほどの数値が、そこに書き出されていた。
父が私の顔色をみながら、話を続ける。
「その数値は、並の妖魔…、いや、トのト級でもそこまでの数値は行かぬだろうな」
巫女の敵である妖魔は強さ順にクラス分けされている。
一番弱いのはイのイ級、そして一番強いといわれているのがトのト級なのだ。
私も、そして父や母でさえトのト級とは出会ったことがないだろう。
トのト級以上の数値が出たとなるとおそらくされることは一つ。
査問だ。
査問といってもただの査問ではない。
巫女たちはこの査問のことをこう呼んでいる。
事実上の死刑宣告と。
父の後ろには数人の武装した巫女が立っていた。
「あぁ、なるほど、貴方が来たのはこのためですか…」
「悪く思うな、貴様も逆らえぬというのは分かっているだろう」
彼女たちは私が寝ているベッドのそばまで来ると、私にベッドから降り立つよう促した。
私もここでさからっても何の意味もないことを知っている。
ゆっくりとベッドから降りる。
「衣坐那戯之巫女、七大巫女の命において、あなたを拘束させていただきます」
私は後ろ手に縄で縛られ、おとなしく彼らに連行される。
心配と悲しみが入り混じった母の顔が閉じられる病室からちらりと見えた。
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