アリゾナ・ハイウェイ

うつじま

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アリゾナ・ハイウェイ

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「なー、クッソ暇。なんかねぇの?」
「CDがあるけど……何がいい?」
「何があるのかな~……はぁ、レッド・ツェッペリンに……クラッシュに……あとトーキング・ヘッズ?はァ~、アル、てめぇの好み古すぎ。ダセェ。つまんね。」
「勝手に物色しといてその言い草はないだろ。今もファンはいるのに。」

セドナの岩山地帯を少し通り過ぎた公道を、フォード車が1台、砂埃を被ったまま進んでいた。
エド・ジョバンニは従兄弟のアルフォンスが運転するその車の中で暇を持て余していた。限界を迎えてボックスからCDやカセットテープを漁っていると、1枚のCDを見つけた。

「お、いいの見っけ!!METALLICAだ!しかも俺のお気に入りの『Kill em all』じゃん!ラッキー!!」
「それお前がこの前僕に貸して放ったらかしにしてたやつだろ。僕は好きじゃなかったけど。」
「あっそ。お前の好みは聞いちゃねぇよバーカ。」

CDを備え付けのプレイヤーに入れると、ドラムとベースの効いた曲が流れ始めた。

「それにしてもさ」
「あ?」
「なんで急にドライブしようだなんて言い出した訳?」
「ツマンネー夏休みを有意義に活用したかったから。あとはシャバの空気を堪能したいから!!」
「エド、お前学校辞めてるんだから夏休みとか関係ないだろ。それに少年院から出たばっかりなのに……。てかなんで自分で運転しないんだよ。お前もう17歳だろ?」
「免許取ってねーもん。めんどくせぇし。」
「取れよ、そんぐらい。」
「高校2ヶ月で中退した奴が自動車免許なんて取れると思うか?」
「無理だね。」
「だろ。」
「なぁアル」
「なんだよ」
「次止まるのどこ?」
「は?」
「だーかーらー、ガソスタとかコンビニとかねぇの?」
「知らないよ……ってまさか……」
「便所じゃねぇよ。小腹減った。」
「不安を煽るような事言うなよ。僕の車なのに汚されたりしたらたまったもんじゃないから。もし汚したら二度と乗せてあげないからな!」
「ケッ、まだ汚してねぇのにキーキーうるせぇんだよ。来るはずのない発情期が来たってのか?ま、お前モテないもんな!だろ、ハンク?」
「うるさいのはお前の方だよ……って、え?ハンクって誰?」
「ん?これのあだ名。勝手につけた。いいだろ?」
「車にあだ名付けるやつなんて初めて聞いたよ……。」

砂埃と乾いた風をフロントガラスに吹き付けられながら、フォード車はただ荒野の道路を走っていく。

「アルゥ~」
「何」
「いつ着く訳?」
「さあね。もう3時間は走ってるけど、車ノンストップで行ってもフェニックスからニューオーリンズまではほぼ1日かかるよ。休憩とか挟みながら行くなら3日はかかる。」
「ちぇ、暇。」
「我慢しろよ、言い出しっぺのくせに。」
「なぁアル、『アレ』ない?」
「はぁ?何?」
「何でもいいからさぁ、種類は。ほら、なんかハイになれるやつ」
「お生憎様、僕はそういうのに関わりたくない性分なんでね。」
「ケッ、シケてんな。」
「前あいつ乗せてった時に置き忘れたであろう煙草ならあるけど」
「あいつって誰だよ?」
「ほら、この前会っただろ。シチリアに住んでる僕らの従兄弟。お前の3つ上の。」
「あーね、はいはい。分かったわ。あいつね、なるほど。」
「んで、要るの?」
「いや?やっぱやめとく。俺臭くなるのイヤだし。」

周りは砂を被って色あせた道路と赤い岩の荒地しかない。数時間変わっていない風景に、正直飽きていた。
日が傾き始め、夕焼けの日差しが目を刺すかのように眩く煌めいている。

「退屈だね…」
「やっとお前もこの退屈さが分かってきたか。…って、あ!!アレ見ろよ!!ヒッチハイカーいる!!乗せてってやろうぜ!!」
「無理だよ、お前が持ってきた訳わかんない大量の荷物のせいでほとんどハンクは重量オーバーなんだから」
「うわ、やっちまってんなそれ。」
「他人事みたいに言わないでよ…」
「ってことだからすまねぇなヒッチハイカー。」
「多分聞こえてないよ。」
「うーん日差しが眩しい。目ェ痛てぇ。」
「話を聞く気はないのか…」
「ツマンネー」
「何回言ったんだよ、それ。あと話題変えるの早いよ」
「忘れたァ。話題変えるんが早いのは知らね」
「やっぱりエド、お前さ一回精神科行ってみたら?」
「はァ?!なんでそうなるんだよ!!」
「僕大学で心理学やってんだけど、お前の事見てたらさ、なーんか、ADHDっぽいかもな~、って。」
「うっせぇ」
「まぁちょっと難しいからこの話やめよっか。」
「おう」
「あっ、ガソリンスタンド!!」
「おっマジか!!寄ろ!!」

ほとんど辺りが暗くなったころ、2人はガソリンスタンドとその併設のコンビニに立ち寄った。

「ガソリンは入れたから、後なんか買う?」
「スナックなんか買う。あったらアルも食べるだろ?」
「うん、そだね。」
「それにしても誰も居ねーな。」
「すっからかんだね。」
「なんか不気味だな。」
「買うだけ買ってサッサと行こうか…。」

一通りの買い物を済ませた後、また車は出発した。

「そろそろ眠い…かな…」
「無理すんなよ?」
「どっか止められないかな、車…」
「よし、運転代わるか。アル、休憩しとけよ。」
「ええ~……ヤダなぁ、エド無免許じゃん。怖くて任せられないよ。」
「大丈夫大丈夫、やり方は分かるし。」
「安心できないな…」
「こちとら免許取得試験5浪だぞ。」
「あっ、試験は受けたことあったんだ。でも威張って言えることじゃないでしょ。なんで免許取るのに5浪もしたの?」
「縦列駐車ができねーんだよ。」
「あるあるだね。」
「アルだけにな。」
「つまんな。人の名前で遊ぶのやめなよ。」
「そーゆーギャグしか出ないぐらいツマンネーって事。」
「あっそ。」
「ところで今どこら辺?」
「もうすぐサンタフェ。そこ越えたらもうちょいでテキサスに入るね。」
「3時間でこれって早いのか?」
「めちゃくちゃ早い……と思う。これ指定速度とうに越してたかも……。あと他の車居ないからね。」
「ふぅん。」
「あっ、なんか看板あった。んー、しょうがないね。テキサス入ったらオースティンまで行って一旦休憩しようか。1泊ぐらいは出来るし。」
「俺ホテルは絶対スイートルームがいい」
「贅沢な奴だなぁ、せいぜいビジネスホテルだよ。もっと悪けりゃ最悪モーテルだからね。」
「ケチ。ケチフォンス。」
「黙らっしゃい。ATM無くてお金下ろせないんだし着くまで我慢。」

運転を交代して、さらに進む。疲れていたのか、アルは助手席ですっかり眠りこけている。
そのままさらに、数時間経った。

「おい、起きろよ」
「ふぁ……ごめん、寝てたみたい。どしたの?」
「なんか着いた」
「お、もうエルパソ?」
「地名は知らねぇよ。俺地理苦手だし」
「お前の苦手科目は全教科だろ。」
「あ、看板」
「グダグダ言ってたらもうオースティン着いたね。」
「暗くて運転しずらかった。」
「やっと人見るようになったね。」
「へへへ、人がゴミのようだ。」
「それ絶対言うタイミング違う。」
「言いたいように言わせろや。」
「よそ見しないでね、危ないから。」
「わーってるって。」

長いドライブから、ようやく休憩を取ろうとオースティンの街中を走っていた時────

ドン!!

何かがボンネットに当たった。酷い音と揺れが車内に響いた。

「は?」「何?」

車から降りてみると、そこには見ず知らずの女性がうずくまって倒れていた。目撃者はいなかった。むしろ周りに人がいない。

「えっ……」
「やべ。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!どうすんのこれ!!」
「このポンコツ車が悪ぃんだよ。ハンクの野郎変な時に当たりやがって。」
「警察?警察呼んだらいいの?!」
「それはやめろ、俺様の無免許運転がバレちまう」
「ここまで来て自分勝手やめてよね!!」
「ってかこいつ……なーんか見覚えあるんだな……」
「はぁ?!知り合い?!」
「あっ、思い出した。ジェーン!!ジェーンじゃんか!」
「いや誰?!」
「俺の元カノ」
「元カノ車で轢いても平然とヘラヘラしてられるその根性どっから来たの?!」
「でも俺こいつそこまで好きじゃなかったんだよなぁ、うるせぇし、金遣い荒いし。」
「そんなこと考えてる場合?!」
「だってよぉ、こいつとんでもねぇ女だったからよ。学生の癖に酒もタバコもヤクもやるわで、結構な人間のクズ、そんでヤリマンのビッチ」
「やだよ、僕そういう話嫌い」
「ま、いなくなって清々したわな。」
「殺したの君だけどね?!エドお前大丈夫なの逆に?!」
「俺ぇ?至って健康優良男児ですけどぉ?」
「違う。身体のことは聞いてない。頭。」
「俺はイカレトンチキじゃねぇっての」
「うん、こいつサイコパスだ。」
「とりまどうすっかなぁ、これ」
「どうするもなにも……」
「そこら辺に川とかあるか?」
「ちょっと行ったらミシシッピ川があるけど……」
「よし、捨てよう。」
「ええ……。そんなゴミ捨てるみたいなノリで死体遺棄すんの……?」
「だってゴミだろ」
「倫理観ェ……」
「クソ女代表ジェーンを川流しの刑に処すぜ」
「ええ……。てかなんで別れたの?」
「こいつが横暴な態度だし支払い全部俺持ちだったしヤることやったらほぼポイだったし尻軽だし」
「無限に湧き出す悪口やめろよ」
「しょうがないだろ、こういうスクールカースト上位のビッチは悪いとこしかない」
「お前はそれの性別逆バージョンみたいな奴だと思う」
「あと上位の取り巻きとかメンヘラとかも面倒臭い」
「さっきから悪口ばっかりじゃん。」
「俺女嫌いだもん」
「もんで済ませるな……」

そんなこんなで、ニューオーリンズまでの愉快なドライブに新たな仲間(死体)が加わったのであった。
エドとアルが逮捕されたか?それは何故だか、されなかった。
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