水嶋さん

ろくろくろく

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出張3

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「そんなに喜ばないでください」
「お前には俺がどう見えてんだ?!」

楽しそうです。……ってか楽しいです。
揶揄うと極上です。

「水嶋さん、俺は反省してるんです、同意無しにもうあんな事は絶対にしません」
「信用出来るか!……そうだ、部屋を2つ取ればいい、そうだよ、そうしよう」
「部屋があればそうしてますよ」

……嘘だけど。
どうしても言うならそれはそれで仕方が無いと思っていたが神様は優しいのだ。ラブホテルと言えど旅行客に取れば安い宿には違いない。生憎一部屋しか空いてなかった。

ありがとう神様。今度どこかの賽銭箱に1000円入れます。水嶋って本当に面白いのだ。
少し怯え、怒っていた癖に舌打ちをしながらも素直に車を降りて部屋まで付いてくる。
ちょっと距離を置こうとしている所は可愛くもあった。

「そんなに身構えないでください。俺は本当に何もしませんよ、明日の為にさっさと風呂に入って休みましょう」

「クソ……絶対に寄んなよ」
「そうは言っても……これですよ?」

部屋に入ってみると驚きの狭さだった。

フランスのカフェっぽい絵が手書きで壁に描かれているが、それが返ってチープさを浮き立たせている。ほぼベッドしか無いのに無理矢理テレビや冷蔵庫を持ち込んでるせいで床は見えない。後はミニチュアのユニットみたいな風呂場とトイレがあるだけだ。

「一緒に寝るしか無いですね、ソファどころか床には横になるスペースすらない」

「俺は……やっぱり車で……」

スススッと身を引く水嶋の襟首を掴んでベッドに押した。

「そんな事はさせられません、水嶋さんが車で寝るなら俺が代わりに車に行きます」
「それは……駄目だ。お前には運転してもらわないと駄目なんだから変に疲れたら困る」

困った顔をするな、今更何を言う。
0泊2日を目論み、上手くいけば明日の朝には帰り着こうとしていたくせに都合の悪い事は忘れるのか?

「じゃあ二人で寝ましょう、そんなに怯えないでください、何もしないと誓います」
「怯えてない。こんなとこで……男二人で寝るなんて気色悪いだけだ。」

諦めたのか信用してくれたのか……ふんッと鼻を鳴らしてベッドに座った水嶋の隣に並ぼうとすると飛び退いて避けられた。

信頼は勝ち取ってないらしい。(当たり前)

それでもウキウキしている気持ちは止まらない。ウキウキし過ぎて暫くは足の向きやら場所やら配分やらで喧嘩をしていた。

男二人の雑魚寝だと割り切ればいいのに。
無理か。
無理だな。
無理だと思ってたのに話し合いが付いて順番に風呂に入ってビールを開ける頃にはお互いに慣れて馴染んでいた。

さすが水嶋。
もう水風船の趣が滲んでる。

眠ってしまえばどうせ崩壊するのに喧嘩しながらも決めたベッドの配分はもう忘れてしまったようだ。
あれだけ厳重に話し合ったのに手とか足とかはみ出てます。くっついてます。足の先が重なってます。

まったりってこういう事だ。

「どうせなら温泉宿とかを予約しとけば良かったですね、温泉宿なら経費で落とせるのな、さすがにラブホテルの領収書を出す勇気は無いです」
「どうせ俺が払うんだから江越には関係ねえだろ」
「そうですけど仕事でなのに個人的なお金が必要だって事に納得出来ないんです」

元々金の心配なんかしてない、水嶋といれば財布を出す必要は殆どなく、当たり前に全部払ってくれるのだ。

どちらかと言えば「温泉行きませんか?」と暗に誘ったのに当然のように通じてない事にガックリした。

「温泉……行きたいなぁ」

自然と触れていた足の先でこちょこちょと水嶋の脹脛を引っ掻くとサッと避けられてしまった。
しかし俺はめげてない。

「ちょっとヌルッとしたお湯が何とも言えないんですよね、水嶋さんは温泉好きですか?」
「そんなに行きたいのなら休みの日に行って来ればいいだろ、もうそれぐらいの給料は貰ってる筈だ」

「ケチか?馬鹿か?」
「何だよ文句あんのかよ」
「無いですよ、水嶋さんって金持ちですよね、手取りってどのくらい貰ってるんですか?」
「言うかよアホ。前も言ったけどお前が思うほど貰ってない、ただボーナスは凄えって自分でも思う」
「どれくらい?」

「この冬は580」

………それは……580円じゃ無いよね?それはもしかして万?

「……嘘……牛丼並み盛り350円として……16571杯食える、働かなくても2年は食える。早速会社を辞めましょう」

「計算早えな」

他の事で役に立て、と笑った水嶋が枕を振り回した。すると、どこかに穴が空いていたのかプツッと音を立てた枕は白い羽根をブワッと吹き出した。

ラブホテルは三畳分くらいしか無い狭い部屋なのに価格は足元を見た一泊12000円だった。
普通の客は枕を使う暇なんか無いのだ、金をかける場所を完全に間違えていた。

「本物の羽根枕なんだ」

舞い上がった白い羽根は本当に軽いのかヒラヒラと宙を漂い中々落ちてこない。

「結構いい枕だったんですね、羽根に芯が無い」

「雪みたいだな」

「……乙女な事言うんだ」

「死ね」

笑いながら「死ね」と言われても死なないのはわかってるからもういいけど、枕を振って羽を追加するのはやめてください。フウフウと吹くのもパタパタ煽るのもやめてください。
舞っている間は綺麗だけど落ちたら只の埃です。
このままではあなたの部屋のようになってしまいます。
楽しそうな所を申し訳ないが、中身の減った枕をにっこり笑って取り上げた。(笑わないと喧嘩になる)

「えらく盛大に飛びましたね、ああ、もう……せっかく風呂に入ったのに羽根のカスが前髪にくっついてますよ」

「そうか?」


言ってしまってからハッとした。

本当に……お礼を言った神様に誓うが、本当にエロい事は考えていなかった。疲れもあるし普通に話すだけなら水嶋と二人でダラダラするのは慣れているのだ。

そして、水嶋も水嶋だ、あんなに警戒していたくせに……

どこだ?と顔を出す馬鹿。

男を「そんな目」で見るのには慣れてないから気が付いていなかったが、水嶋の部屋着の着方は大変優秀なのだ。

丈の短い浴衣みたいな物だが前できちんと合わせて襟の抜き方が絶妙。鎖骨は見えるし腰にピッタリと巻き付いた薄い布は体の線がそのまま浮き立っている。

「あの……」

多分顔が赤くなってる。
だって暑い。

水嶋も自分が何をしているのか気付いたらしい、ハッと目を開け、舌打ちをして横を向いた。

「もう寝るぞ」

「………そうですね……そうしましょう」

薄い布団を蹴り上げて体を伸ばした水嶋を見てギョッと目が吸い取られた。

「水嶋さん?」
「うるせえ、とっとと寝ろ」

腰回りで張った薄い布から鋭角な突起物が飛び出てる。キュッと体を丸めて抱え込んでしまったがもう見えちゃった

「あの……何で……勃ってるんですか?」

「っ!………」

壁を向いた背中がビクッと揺れて耳と首が真っ赤になっていく。

本当にムラムラさせるの上手。

「軽く……抜きます?」
「…………」

背中から伝わってくる熱量が高い。
ギュッと布団を締めた繊細そうな指はやっぱり細くて医者向きだなって思う。

「もし欲しいなら……あげます……けど…」

肩を引いてゆっくりと丸めた体を転がすと硬く目を閉じて歯を食い縛っていた。

でも、嫌だとは言わなかった。
ドキドキに心臓を食われてる気分だ。

だって今は素面に近い。

肩を抑えると驚いたようにビクンと体が揺れた。

神様ごめんなさい。恩を仇で返します。
この人は肯定とか否定を自分で判断してないんです。天然成分でムラッとさせられて我慢は無理です。

禊は終わった。

そっと唇を重ねると震えが伝わってくる。
耳の中に指を入れて顎を持ち上げると隙間が空いて入って来いと誘われる。
ゆっくりと中に入ると、嘘みたいだが迎えてくれた。

自分の気持ちいいポイントに誘導するのは無意識なのか、わかってやってるのか……少し離れて唇の先を啄ばむと次の催促なのか顔を斜めに傾ける。

欲しいなら何でもあげる。何でもする。
激怖の研究所に行くとか、目にしみる料理の味見をするとか、フォークリフトを買うとか……

……以外ならだけど……何でも出来る。

押し付けた唇からチャプっと水が踊った。
離れると繋がった水の糸に引き戻され、また唇を落とす。
真っ当なキスをする日が来るなんて思わなかった。そしてこんなに感度のいいキスも始めてだ。

絡み合い、舐め合い、嬲り回すと足に当たるそれが硬度を増してる。

脱がせたりはしない。
半裸の方が好きだ。
浴衣最高。

脇腹を撫でただけでもフルッと震える体は相変わらず感度がいい。
襟を割って胸の小さな粒を口に含むと声が上がった。これくらいで?って思うけど、まだまだだよって言いたい。

浴衣の中に手を入れると竦《すく》み上がる肩から布が落ちた。エロさはマックスだ。
浴衣万歳。

「ふ……あ…」

普段なら脇腹にちょっと腕が当たっただけで激怒するくせに、今は「撫でて」って開いてる。
刺激に弱いからこそなのか、悦ぶ体を抑えられずにもう抗えなくなってる。

これが常で……万分の1でも好きって感情があれば最高なのに……今の所は躾の途中なのだからこれで十分だと思う。

今は何も考えないで溺れろ。

「水嶋さん……足を閉じないで」

守るように硬く塞がった太腿の間に浴衣の裾を割《さ》いて手を滑らせるとやっぱり我慢してた?結構簡単に足を割った。

「俺……待たせたんですか?」
「うる…さい…」

張り詰めたそこは苦しそうに汁を吐き濡れている。2回とも酔っていたがどうすればいいかはもう手が知っていた。


両手を出動させた。
谷間に指を差し入れてもう片方は前を弄る。
他人のそんな所は見るからに醜悪で触りたくなんか無いのに好きっていう感情は全部を凌駕する。


「あ……」

ヒクっと痙攣した体が苦痛に耐えるように捩れていく。逃げたいのか、欲しいのか自分でもわかってない。

「く……あ…」

「気持ちいいんですか?」

「ちょっ…動かすな……やめ…あ…」
「どっちを?」
「中!……前……どっちも…あっ!」

動かすなって、それはそこであってるって事。

コシコシとモミモミの中間で忙しく指先を使うと声と頬の紅潮が凄い。

涙目も凄い。
息の声が色っぽい。
電気を明るいままにして良かった。
開いた口が何とも言えなくて眼福。

「っ!……あ…」

男のGスポットって誰でもこんなに感じるものなのか、水嶋が特別なのか、ちょっと強めに押し上げただけで派手にイってしまった。

水嶋はグダっと持ち上げた背中を落として肩で息をしている。

……けど、まだ何もしてないような気がするから、もう一回充填してもらうおう。

「入れてもいいですか?」
「俺に……そんな事を聞くな」

「いいんですね?」

「………出来れば…もう……寝たい」

「そんな事を言わずに…もうちょっとだけ付き合ってください」

顔を隠してしまった水嶋の手をそっと外すと惚けたような目が気怠そうに見上げた。
睫毛が涙に濡れて固まってる。

これは合意ですよね?神様。


「いい?……」

一応聞いたけど……水嶋が「早く頂戴」なんてAVっぽいサービスをしてくれる訳無い。
暗くて見えない深部に自分を充てがうと持ち上げた水嶋の足が待ったをかけるように押し返してくる。
腰を引いてグっと押し込むと無言の叫び声を上げて顎がパクッと開いた。

「ぅ……ぐ……痛え…」
「すぐ良くなるんでしょ?」

「………あ……ハァ…」

深い呼吸が答えなのだと思う。引いて押して、少しずつ深度を増していく。

「おい……深いって…どこまで…あっあ…ちょっと…ん」
「今日は全部……行ってみようかと……」

水嶋の「Gスポット」は浅い場所にある。遠慮とか本当に大丈夫なのか迷っていたから最初は半分くらいでやめていた。そして2回目は夢の中だから知らない。

「俺で……試すな」
「誰で試せと?俺はもう水嶋さんしか目に入ってないんです」

いつの間にかまた吐き出してる粘液で滑りが良くなっているのか奥まで行ける。
ゲイバーの面々から幾度となく聞いた、ドライでイクって意味がよくわかってなかったがこうして見ると水嶋はもう何回も、ずっと上り詰めているようだ。

水嶋の中は熱い。
狭い肉壁は拒否しているように締め付けてそれが返って肉を抉る。

「う……あ…水嶋さんの中…気持ちいいです」
「速いって……あ……あ……ああ…っ!」

いい所を突いて擦り上げると押し殺していた悲鳴が高くなった。
声と一緒に中が締まるのも最高だ。

そして顔が最高。

本当に好き。

揺らすと身を悶え、色の付いた吐息をもらす。
好きを繰り返してしまう。
水嶋はもう「アホ」も「死ね」も言えないでいた。

もう堪らなくて抱き締めると早い息が耳元を掠め、必死で抑えている声に溺れた。

……溺れていただく予定だったのに溺れた。

次の朝はまた正座から始まった。

これはもう恒例なのだが、今回は無理矢理じゃない。むしろ誘ったのは水嶋だと主張したいが「何もしない」約束を破ったのは事実だ。

「ごめんなさい」

これは約束を破った事に対しての謝罪で抱いた事への謝罪じゃない。

知らない間に先に起きたらしい水嶋はもう既にシャワーを浴び終わってる。無視を決め込んでいるのか、水嶋は何も答えずネクタイを結ぼうとしている。しかしここは大事な所だった。
止めようとしない手を掴んでグッと力を入れた。

「……何をしている、お前も早く用意しろ、今日は朝一から忙しいぞ」
「話はこれからなんです、ちゃんと聞いてください」

実は朝方までずっと考えていた。
少しだけでもハッキリさせたいのだ。
昨夜の出来事を度重なる事故の一環に位置付けて欲しくないかった。

今度こそと思っていた。

「水嶋さん聞いてください。何回も言いますが俺は水嶋さんが好きなんです」
「……天気は……この部屋には窓が無いからわかんねえな、ちょっと郊外に出れば車を停めれるファミレスとかがあるから朝飯はそれでいいな、後昼以降はどうなるかわからないから水と食べ物仕入れるぞ」
「水嶋さん!逃げないでちゃんと向き合ってください」
「逃げてない、そんな話をしている場合じゃないだろ、お前忘れてないか?ここには遊びで来ているんじゃ無い、仕事だぞ」
「ホテルを出るまではプラベートです、俺は真面目だって言ってるでしょう、何も心が全部欲しいなんて言ってません。でも認めて欲しい所もあります。俺が嫌いじゃないんでしょう?」

体を重ねる事は水嶋にとって、勿論こっちにとってもまだまだ乗り越える壁は幾重にも重なっている。でも全部が全部嫌だとはどうしても思えないのだ。

この先も、チャンスを盗むような真似はしたくないし、水嶋にも我慢して欲しくない。

「俺はこんな朝を何回も何回も、これからもずっと過ごしていたいんです、水嶋さんと生きて行きたいんです、だから水嶋さんがどう思っているかどうしても知りたい」
「………1つだけ言う……」

少し大きくなってしまった問いかけに落ちて来た水嶋の声は静かだった。
答えてはくれないと思っていたからハッとした。
自然と正座した背筋が伸びている。

「何ですか?」

「江越の事は嫌いじゃないし、この先奥田を率いていく大切な後輩だと思ってる。好きだと言ってもらえるなんて思わなかったから嬉しくもあるけどな………俺にはそんな価値無いんだよ」

「水嶋さんの価値を決めるのは俺であり、会社であり、それぞれです。何故そんな事を……」
「もう出るぞ」

さっとジャケット羽織り、ネクタイを整えた水嶋は、目を潤ませて熱い吐息に色を含んだ昨夜とは別人のようだった。照れもせず、いつものように目を逸らしたりもしない。

「水嶋さん」
「今日は忙しいと言っただろう」

「………はい」

ヒュン……と内臓が落ちたようだ。
まるで業務態度の評価をするような冷たさに次の言葉が出てこない。

これは水嶋の悪い所だと思う。

究極の真面目さ捏ね上げた融通の効かない頑固さは、自分がどう思っているかなど考える事すらしない。しかし、駄目なら駄目でもいいのだ、何度だって食い下がる覚悟はもう出来てる。
返してくれなくてもいいから好きって気持ちを認めて欲しいだけだ。

「唐変木……」

欲しいのは体じゃない。
いや……体も欲しいけど……何よりも心が欲しい。
貰ったのは一欠片をくれたかなって幻想だけだ。

トイレに行くと出口で待っててくれるくせに。
往年の彼氏みたいにラブラブとお金出してくれるくせに。
ちょっと触るだけで耐えられずに変な声出すくせに。

馬鹿馬鹿バーカ


コホッと咳が出て、イガイガする喉から苦い物が出て行った。
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