法律では裁けない問題を解決します──vol.1 神様と目が合いません

ろくろくろく

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閑話休題 小話

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もし、神様が現れて三つのお願いを聞いてくれるとしたら何にする?

昼御飯を食べた後にティラミスを舐めていたら唐突に健二が聞いて来た。

「そんなもん使い切れないくらいのお金に決まってるでしょう、それから中学の頃に戻してもらう、もう一つは……言いたく無いから言いません」

後ひと枠……欲しいものは決まってるけど脅されても言わない、指を切られても言わない、死んでも言わない。でも死ぬのは嫌だから……

「それか命二個」

「何だ、葵はもう若返りたいのか?まだ22の癖に変な奴だな」
「だって死んだら終わりですよ、せっかくお金を貰っても使えないんですよ」
「お金って……お金があっても幸せにはなれないと思うんだけどな」

「そうですね、健二はそうでしょうね」

それは健二がお金に困ってないから言える事だ。
仕事をしてるっても考えうる限り緩いし甘い、財布の中身はどうなっているのかと聞いたら「減ったら椎名が足してくれる」……ってお金持ちのドラ息子かっての。

一度でいいから肝臓寄越せって言われてみろ。
三つのお願いが一つに淘汰されて何よりも金って言うよ。

「何だよ、文句あるのか?含んでるな」
「別に?健二さんこそ何か文句でもあるんですか?世の中はお金で全てカタがつきます。

「じゃあさ」

煙草を吸いながら窓の外に煙を吐いていた椎名が「じゃあ幾ら欲しい?」と聞いた。

幾らってそりゃ一杯、上限ギリギリ。
出来るだけ。

「い……一億くらい?」
「一億あれば一億ある生活になる、すぐに無くなるよ、ほらよく聞くだろ、年収300万だった奴が宝くじ当たって億万長者になったのに二、三年で破産したってさ、そんなもんだ」
「じゃあ10億」
「一緒」
「じゃあ100億!!」
「違うよ葵、椎名さんが言いたいのは幾らあっても足りないのは同じって事だよ」

それじゃあもうこの際だから600万でいい。
いや……610万ね。600万返して10万貰う。
うん。
それがベスト。

「葵、お前……その顔はまだお金に拘ってるな?」
「そんなに言うなら健二さんと椎名さんは?神様に何を頼むんです」

「俺はマイバイクといつも満タンの冷蔵庫と店みたいな焼肉用の設備」
「人の考えを読める超能力と言霊と透視能力」

「………」

健二と椎名、どっちがどっちの答えを言ったかは説明しなくてもわかるよね。
健二は即物的過ぎるし、椎名にはその能力を持たせてはいけない。

「健二さんのお願いは結局お金でしょう、お金さえあればその願いは叶いますよ、椎名さんは黒すぎです」
「俺はさ、例えお金があっても人は働く義務を持たなきゃ駄目になると思ってんだ」
「では働いてください」
「働いてる」
「朝飯食った後携帯でゲームして二度寝して昼飯食って……相当忙しいんですね」

「葵も一緒に寝た癖に……」
「寝たけど!俺は掃除と洗濯しました!そんな事言うなら何か仕事取って来てください!」

「馬鹿」ってペラペラの依頼ファイルを投げたら軽過ぎて健二まで届かなかった。
これが「法律で解決出来ない問題をかくかくしかじか」の全案件だと言うのだから爆笑する。
今までにどんな事をして来たのか中身を読んでみたら駄目な何でも屋の定番「猫の里親探し」なんて案件だった。

そりゃ法律では解決出来ないよね。
法律で解決したら猫は殺処分だ。

「健二さんは神様からお金を貰うべきです!自分で使いたく無いんなら恵まれない俺に全部ください、うん、それがいい、ねえ椎名さん!いいでしょ!」

「うん……それもいいけどさ」

いつも真っ直ぐに伸びている椎名の眉が困ったように垂れ下がり苦笑いを浮かべた。
椎名って普段から何を考えているかわからないからどんな事を言われるかちょっと身構えてしまった。

「な……何ですか…」

「葵くんはさ、そんな人の三代欲みたいな事じゃなくて何かもっと夢のある願い事は無いの?」

「夢のある?」

お金、人生のやり直し、そしてもう一個

夢はあるじゃ無いか。

お金はともかくとしても人生のやり直しは神様と魔法使いぐらいしか叶えられないのだ。
一番正しい「三つのお願い事」を希望していると思う。

健二の希望する三つのお願いはこの話題にそぐわないくらいハードルが低いし、椎名は……もう超能力を持ってるような気がする。

二人共神様なんていらないだろ。


そして健二。椎名に賛同してうんうんって悟ったように頷くな。


「十分夢があると思いますけど、お金ですよ?みんなが欲しいお金ですよ?健二さんだってお金があればバイクの一台や二台すぐ買えますよ」
「お金はいいけどね、魔法使いは世間知らず意地悪かも知れないぞ?「お金を沢山くれ」なんて単純な願い事をすれば年金暮らしの年寄りとか長年苦労して貯めた誰かのお金とかを集めて知らない所で不幸を産むかもしれない、若返りだって誰かの寿命を奪うかもしれない、身長だって胴ばっかり伸びたりして変かもしれないぞ」

「………」

「…………健二さん、俺は身長なんて一言も言ってません」

「だってそうだろ?」って死ね。
ティラミスの残りを投げてやろうかと思ったけど椎名にまあまあと止められた。

「健二の言う事も一理あると俺は思うよ、不用意に100億くれって言ったら部屋一杯にお金が降ってきて札と小銭に溺れ死ぬかも知れない、誰も助けられないから、もう一個命があっても死んで生き返ってまたすぐ死ぬ」
「じゃあもっと細かく指定したらいいじゃ無いですか、例えば……」

「例えば?」って妙によく似た顔がふんふんって頷いた。ニヤニヤしている所が気に入らないけど続けた。

「落ちているお金を……そうだな、もう誰の物でも無いお金を財源とするのはどうでしょう、マンションでも借りて外で待つ」

「それは?徳川の埋蔵金とかも含む?物凄く重い金塊が降ってきて床が抜けたりしてな」

「円で……と付けます」

欲深い事を頼めば願い事が叶っても罰を受けるって喪黒福造かよって思うけど……神様は結構根性が悪い。
無いけどありそうだ。

「それから、現ナマはやめて銀行に入れてくれるように頼みます」
「銀行に入ってるけど口座名も判子も何も分からなくて引き出せない……とか」

「じゃあ財布に直接入れてもらいます」
「誰のものでも無い今のお金……誰かが誰かを殺して、その犯人も死んでて被害者に家族はいない、でも警察は無くなったお金のナンバーを控えてて使った途端逮捕されるとか」

「ふぐ……」

育ちと生活がわかるよ椎名さん。
そんなありふれた小説みたいなバイオレンス思いつかないよ

何か言えば物凄く捻じ曲がった仮説で論破される。あーだこーだと3人で協議してあらゆる可能性を考慮した。

大人3人が素面で真剣になるような話題かと思うけど健二は人を巻き込むのが上手いのだ。1時間くらい掛かったよ。

そして纏まったのが……。

善良な誰かが落とした忘れ去られた一番新しいデザインのお金を財源として指定した財布に入って来る。原則として全部使ってたとしても1日1回しか補給されない。

「それいいな…財布一個分なら使い過ぎて身を滅ぼすってなさそうだし、落ちているお金なら全部が万札って訳にもいかないからな、常にお金が自動で補給って便利だろ」


…………って健二さん。

持ってるじゃん。

よく考えたら健二は使っても勝手にお金が補給される財布持ってるじゃん。

何を真剣に考えていたのか。

神様も魔法使いもいないのだ。
いても都合よく現れたりしないのだ。

稼いでるのか何なのかよくわからないけど、チマチマと働くしか無いのだ。

何だか馬鹿らしくなって、残っていたティラミスを口に放り込み、野田弁護士の事務所に出かける準備をした。
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