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ろくろくろく

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一目惚れといっていい

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丸めたタオルケットを抱いてスースーと穏やかな寝息をたてている蓮の顔を眺めいていた。

ベッドの上に寝転がり、帰れと文句を言っているうちに眠ってしまったのだ。
枕に押し付けた頬が盛り上がり口を開けている様子は普段見ている姿よりも幼く見えて、可愛いやらエロいやらで自分を抑えるのは大変だ。

遠くから眺めていた蓮は近寄り難いほどクールな印象だった。

本人は気に掛けてもいないようで驚いたが、少し女性的な風貌を持つ綺麗な顔は目立つと言ってもいいくらいだ。

どうやら怖がられている自覚はあるようなのだが、周りから寄せられる多くの視線に何故気づかないのか不思議ではある。

誰にも譲る気は無いからそこのところを本人に教えるつもりはないが、いつもいつも自己評価が異様に低く自分自身の価値を大きく見誤っている。
それは赤くなったり青くなったりする可愛らしい蓮を知った今でも何故なのかは謎のままだ。

しかし、ヒヤッとさせられるような一面を持っている事も確かだ。埋もれて見えない内面に迂闊に触れようものなら、まるで隠していた本性を現したように冷然とした目をする。
それは薄情な振る舞いをするという意味では無く、社会との交わりや人との付き合いでの彼のスタンスがそうなのだ。
ボッチと自称しているが拒否しているのは寧ろ蓮の方だと思えた。


蓮を初めて見たのは知り合いに勧められて見に行った小さなライブハウスだった。
50人も入らないような極小の箱なのにラインナップは5組もいる。
元々薄い期待の中、出演していたバンドは良いか悪いかより見ているのが辛いほど下手クソ以下のレベルなのだが、そんな中で見たRENのライブは圧巻だった。 

まず特筆すべきは蓮の歌唱力や迫力だったが、そこに付け加えるならば楽曲の完成度と共にバック演奏が素人レベルでは無かった。

1番初めに持った感想は「どうして」だった。

何故本格的な活動をせずにこのように小さな箱で細々と演っているのかを不思議に思った。
しかし、その理由はすぐに知れた。

テンポが速くなっていく。
走り過ぎだなと思った頃からどんどんと崩れ、ズレたギターが不協を奏でた末に演奏を止めてしまった。

どうやら崩れているのはボーカルらしかった。
明らかに繰り返しのメロディラインの筈が突然跳ねたり変調する。
バック演奏の慌て具合から見ても最初から楽曲に組み込まれたBメロとも思えず暴走しているのだと分かった。

彼は即興で編曲していた。作曲といってもいい。

彼らは多数の観客を前にして自らの曲でフリーセッションを演っているようだったが、多くの音で圧倒するジャズ演奏とは違うのだ。
多少のアレンジを加えても基本のシークエンスを前提に演奏していると、打ち合わせ無しのモードチェンジに対応するのは並大抵では無い。

奇跡のような演奏が神がかって見えた。
とにかく尖っている。
とにかく荒々しい。
それなのに洗練されたメロディが根底にあった。

出逢えたと思えた感激と、見つけたと確信出来る狂喜に浮かされ有頂天になっていた。
切れ目の無い演奏は数曲続き、飛沫が飛び散る程の汗を流している鬼気迫る様子に魅せられながらも、このまま走り切る気か?と疑問に思った直後だった。

前にいる観客で見えなかったが、ボーカルが視界から消えたと思ったらブッツリと演奏が途切れ、次に姿が見えたのはステージにいた背の高い男がボーカルを抱えて客席を割っているところだった。

もしかしたら体調を崩したのか、何かトラブルがあったのか、ステージを見る限り尋常な状態では無かったとわかった為、どうなったのか気になった。

何よりも話してみたかった。
どこの誰で普段の拠点や次のライブ、普段はどんな活動をしているのかも気になる。
無理矢理だったが、とある秘技を使って関係者以外立ち入り禁止と書いてある楽屋の方を見に行った。

真っ暗な通路から灯りが漏れる楽屋のドアは閉まりきっていなかった。
細い隙間から覗き見えたのは朦朧と放心している蓮だ。

まず疑うべきは脱水症状だろう。
蓮を連れ去った背の高い男は一見すると甲斐甲斐しく世話をしているように見えた。その頃の蓮は実際に子供だったのだが、か細く頼りない肢体は少年と言っても良かった。
捲り上がったTシャツの中に入った男の手は、汗に濡れた服の着替えを手伝っているのだと思ったのだ。

しかし、そうでは無かった。椅子に座ったまま天井を仰ぎ、呆然としている蓮に跨るように覆い被さった男が汗に濡れた細い首にキスをしたように見えた。

踏み込んでしまいたい焦りが湧いて早く他のメンバーが帰ってこないかと会場を伺うと、持ち込みらしいドラムを片付けている。

嫌がって欲しいと思ったのは、部外者故の願望だったのだろう、しかし片手で掴めそうな少年は絶頂を味わうようにブルリと体を震わせ恍惚の表情を浮かべた。

体に、心に、静電気を帯びた戦慄が走った。
まだまだ性的にも未分化な肢体が特別に思えて震える程の征服欲が湧いた。


初めて蓮を見たのは数十分前だ。

隙間があると気付いたのだろう、閉められてしまったドアを前にして強烈な嫉妬心と独占欲に駆られて強く思った。

蓮が欲しい、蓮の全てが欲しいと。

それは一目惚れなどという生優しい感情では無かった。そのまま楽屋に踏み込み、まだ未成熟な青々しい魂に付け込む汚い大人を刺し殺していいくらいの猟奇的な感情だ。

踏み止まれたのは「REN」に魅せられていたからだと思う。

その後、探して、探してやっと見つけた蓮はもっと鮮烈に生きていると思ったら想像より地味だったけど……。

まだ何も知らなかった頃は、蓮に近付けば奪い取り奪われるような関係になるのだろうと覚悟を決めていたが、思ったより仄々と付き合ってけそうだったのは良かったのか悪かったのか。

他に幾らでもあっただろう様々な機会を含めて、あの閉じれたドアの向こうで何があったかはわからない。

そこに目を瞑れる程大人になれてはいないが、石を飲む程の我慢はしている。
それもいつまでもつか……

今はキスひとつでも暴走なのだとわかっている。

蓮から見た視点では出会って間もないのに酷くがっついている印象だろうが、もう少し大人になるまで、もう少し親しくなるまで、きちんと告白をして了承を得るまでと、もう数年もの間我慢してきている。

無理矢理にでも掠奪してしまう危機はもう目の前に迫っていた。

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