ストーキング ティップ

ろくろくろく

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レベルチェック

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夏休みももうすぐ終わる。
その日はサブステージの出演を申し込んでいるバンド6組のレベルチェックが行われる予定になっていた。

正確にはわからないが30人前後が集まるのだから
サブステージ開催予定の敷地にあるデッキチェアやパラソルつきテーブルの一時撤去を早目に片付けてからその場でやる事になっていた。

サブステージの運営はライブの参加者だけで補う手筈だ。
客の呼び込みや誘導は1組目を除く全員でやる。
その上でまずは前半3組を後半3組が手伝い終わった順に交代していく、つまり自分達の出番前は準備に集中出来るようになっていた。
これは真城の案なのだが、ふんふんと聞いていただけで何もしていない。


集合は午前10時だった。
因みに、地方へ帰省したり旅行に出る予定があったり研究室ごとの講習や研修、ライブツアーに出る強者がいる中で、ひと組ひと組と連絡を取り合いレベルチェックの日取りを決めたのも真城だった。何でも先々に動く行動的な人種に付いて行けない事は分かっていたが、少しでも役に立とうと早目に出たら8時過ぎに着いてしまった。

「誰もいない……」

当然と言えば当然だ。

しかし、夏休みに入ってる構内はもっと閑散としているのだと思っていたらそうでも無かった。
クラブ活動らしき集団(暑いのによくやると思う)、運動系サークルの面々(暑いのに)
裸に白衣を纏った大学に住んでるらしき人(歯ブラシを握っている)
学生サロンの大きなガラスを鏡の代わりにしている女子の集団が踊っていたりもする。

微かに聞こえてくる音楽や床を踏む音、掛け声や笑い声は風のざわめきに似ている。
閑散としているオープンな広場のテーブルや椅子は夏場に使う学生なんて殆どいないのだろう、薄らと砂が乗って触ると線が描けた。

うまく出来ないとわかっているライブなど出来ればやりたく無い。
何も役に立っていない執行部の手伝いも重荷に思える。しかし、誰の目も気にしなくていていい開けた空間と空気に溶け込んでいるような音のある静寂はとても心地良かった。
暇な時に通っていいもいいくらいだ。

雲一つ無い空が気持ちいい。
汗をかいた肌を撫でる風が気持ちいい。

だから、ザリっと砂を掻くような音が間近で聞こえた時はムッとした。

「………あ……」

ギターケースを担いでいる所を見るとレベルチェックに来たメンバーなのだろう、そして真城もいる。

「お……おはよう………ございます」
「今のは誰の歌?」
「……え?…」

真城に聞かれてしまったと思った。
無意識だったがまたやらかしたらしい。

「誰のでも無い」
「嘘つけ、誰の?」
「いや、本当に誰の為でも無い、それよりも早いね、もっと待つかと思ってた」
「早いって程でも無いだろ、10時に始めるんだから準備もあるしな、あ、こいつは俺のバンド仲間」

「よろしくな」と顎で指して紹介してくれたはいいが明るく挨拶をする雰囲気では無かった。
同い年くらいだろうか、ひょろりとした背格好の男は慇懃に小さく頭を下げてから日陰の方にギターケースを置きにいった。

「悪いな、あいつは朝まで工事のバイトをしてたんだ」
「そんなのはいいけど、真城のバンドって何人でやってるの?」
「ギター、ベース、ドラム、キーボード兼パーカッションとポイントギターとボーカルを兼ねた俺の5人、今日はキーボードだけ来ないけどな」
「そんなに?」
「普通だろ、蓮は?今日は揃う?」
「え?誰も来ないけど?」
「は?」

黒江は大人なのだからお金にもならないお遊びに付き合っているばかりでは無いのだ。レベルチェックの日を伝えた覚えはないけど、もし知っていたとしても仕事に出ているから2週間ほど帰れないとは聞いていた。

「メンバーって言っていいのかわからないけど、基本は2人だし、今日は仕事らしいよ」
「レベルチェックは?どうする気?」
「俺は参加しないってか……どうせ出来ないってか…」
「何だよそれ、ふざけてんのか?何でお前だけ免除なんだよ」

いつも明るく、いつも淡々としている真城の明らかにムッとした顔にヒヤリとした。

「ふざけて……無いけど…」
「じゃあこの際だから聞くけど何で蓮がトリだって最初から決まってんの?」
「そんなの知らないけど多分30分ももたないからじゃ無いかな?」
「それは……そうか……あり得るな…」
「うん、なし崩してもいいように最後かなって思う、もし時間が押したら飛ばしてもいいだろ?」

「それでいいのか?」と念を押すように確認されたから「いい」と胸を張った。

持ち時間30分と聞けば短いと思うかもしれないが、長くて一曲3分としたら単純計算で10曲も出来るのだ。それが如何に長いか、如何に難しいかは演った事があれば誰にでもわかる事だった。

今回のイベントでレベルチェックを行う理由はそこにある。上手い下手より30分ももつかどうかが重要なのだ。機材が揃ってないから演奏自体はかなりおざなりになるが短縮版のリハーサルを兼ねていると言ってもいい。
つまり、レベルチェックに参加出来ないRENはもうリタイアしていると思ってもらった良いという事だ。

「実は練習でも30分なんて出来た事ない」

「……………何でもいいけど、じゃあ先に椅子とか机の片付けをやり始めようか」
「うん、端っこに集めといていいって佐竹さんが言ってたけど、崩れたりするのは厳禁だって」
「ああ、それは俺も注意された、でも敷地を狭くしたくないから計画して積もうか、ロープで固定しとけば大丈夫だろう」

真城のバンド仲間は「悪いが俺は寝る」と消えてしまった。
しかし、椅子もテーブルもプラスティック製で軽いのだ。椅子は何個か重ねて積み上げても運べるし、パラソルを抜いたテーブルも1人で持てた。その為か思ったよりも早く進み、途中からは参加メンバーも増えたおかげで30分も掛からなかった。

「暑いな…ってか広いな」

水を張ったバケツからスポーツドリンクを投げて寄越した真城が空を見上げて笑った。
敷地だけを見ているのではないと知って似たような感性を感じるのは気のせいかもしれないが、何だか嬉しい。

「久しぶりに動いたからかな?大きい声を出したいと思う事なんか……ないのにな…」

「出せば?」と言った側から「わーっ!!」と真城が叫んだ。
余程ハイになっていたのか、釣られて「わーっ!!」と声を出してみた。
笑い声が揃った時に「遊ぶな」と怒られたりしなければ歌えていたかもしれない。

「佐竹さん?!白田さんと………クリス…」

実は、練乳事件の夜からクリスとは会っていなかった。学生会が主催なのだからこの日にレベルチェックをすると知っていても不思議では無いのだが、執行部本体が参加する予定は無かった。
どっちしろ伝えるつもりは無かったのだが色々な事情を含めても隠すなんて無理だったらしい。目があった途端ムッと口を結んでツカツカと寄ってくる。

「ななな何?」
「日焼けしてる、蓮は赤くなるんだから痛くなるよそれ」
「別にいいよ」
「よくない、触れなくなったらどうしてくれる、こんな日陰もない場所でやるつもりなの?」
「一応リハーサルも兼ねているから…」

「駄目!」と断罪したクリスは佐竹と白田に持ちかけてサロンの方に会場を変更してしまった。
勿論だが誰も文句など言わないが、真城は少し不満げな顔をしている。

「怒って…る?」
「別に怒ってないけど本番はここでやるんだからさ、今くらい暑いかもって思っただけ、ほら行くぞ、アンプは俺が持つから蓮は書類のファイルを持ってきて」
「うん、わかった」

それぞれが持ち寄った楽器を手にゾロゾロと移動する中、先頭を切る執行部本体はもう全てを仕切っていた。
エアコンがあるのは大変ありがたいのだが空の下でも音楽が聞けるのだと期待していたから残念ではあった。

「あ……しまった」

全員が汗をかいた肌にエアコンの冷たいを謳歌していると真城が小さな声を上げ、アンプのコンセントをブラブラさせた。

「あ……延長コード…」
「レンタルだから…無いって忘れてたな」
「どっちしろ野外では無理だったね」

仕方が無いから1メートル程のコードが届く範囲のコンセント周りに集まる事になった。
いつもと違って誰もいないサロンは異様なほど広いのに車座になって床に座るという即興感丸出しでレベルチェックが始まった。

ドラムはエアかギターケース、一部の管楽器だけがフルパワーというアンバランスだったが、1、2曲を軽く流してセットリストの予定を説明していく。

「みんな…楽しそうだね」

邪魔にならないようなるべく隅っこのなるべく後ろの床に座るとちゃっかりと隣に来たクリスは退屈そうに気の無い返事をした。

「楽しいだけ…って感じ」
「やる気が無しって感じ」
「そりゃ蓮以外に興味は無いからね、蓮も退屈だろ?退屈な筈だ」
「退屈じゃ無い」
「いや、退屈だろ」

何故無理矢理にでも退屈だと言わせたいのかと思ったら「帰ろうか」と続いた。
すると隣に座っていた佐竹さんが「バカやろう」と小声で言ってクリスの足を蹴った。
恐らく、ストーキングをする暇を作る為に度々消えたりしていたのだろう。
わざとらしい舌打ちをしたクリスを小突いたりしている。

その光景を見て少し嬉しくなった。
「本物」だと思えるクリスを知っているだけに、普段は上っ面を取り繕い無理に笑っているように見えていた。
冗談を言ったり言われたり、ふざけたり甘えたり出来る友人もちゃんといるんだと確認出来ただけでもレベルチェックに収穫はあった。

「全然退屈じゃ無い、俺は楽しいよ、だって凄いと思うから…」
「どこが」
「……全部、色々、言ったってクリスにはわかんないよ」
「は?!僕にわかんない事って何?!」

突然上がった大声に何事かと演奏が止まり、また佐竹に怒られているクリスを含めて、本当に楽しかった。

普段はプロである黒江や日暮の演奏を聞いているせいか技術や完成度はそれぞれだと思えたが、みんな淡々と、整然と、淀みなく演奏していく事にまず驚いた。
機材もメンバーも揃っていない中での演奏は簡単な自己紹介のような物なのだが、すぐに破綻する自分と比べたら恥ずかしくなるくらいだった。色々な要素を考えてもRENは余りにも異質に思える。
特に、真城のバンドは一際《ひときわ》完成度が高かったように思う。トリをやりたいという言葉は単に目立ちたいだけでは無く、確たる自信の裏付けがあるらしい。

2時間ほどで全ての参加者が演奏を終えた後は、持ち時間の30分を厳守する事と、その他ステージの設営やそれぞれの役割分担を確認して解散となった。
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