ストーキング ティップ

ろくろくろく

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また?

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石や段差を踏むとチャリンと鳴る。
運転席も助手席も異様に狭い。

クリスマスに向けて大方の所有車は予約済みとなる中、空いていたのは小型バスと貨物用の軽トラックだけだったらしい。
この所は軽トラックに縁があるなぁと思いながら車窓から見える殺風景な景色を見ていた。

「こんな車しか無くてごめんね」
「俺は何でもいいけど……黒江さんの車の方がマシだったな…とは思う」

乗り心地が悪いはいいが遅いのだ。
師走に急ぐ大型トラックに追い抜かされる度に心の芯からゾ~ッとさせられる。

「そのうちにタイヤが一個一個取れていってバラバラになりそう」
「黒江に譲るくらいならそっちの方がいい」

ツンッと鼻を上げたクリスはまだ汚れたシャツのままだ。ハンドルを握る指には絆創膏、手のひらは何かで切ったらしく、雑に巻いた包帯には血のシミが見えていた。

「手は……痛い?」
「痛いけど大した事は無いよ」
「俺が寝た後にあそこを登ったの?」
「迷ったよ……あのまま心中するのもいいかなって本気で思ってた、でもね蓮は僕だけのものじゃ無いからね」

「体と心は誰にも譲らない」などと付けなければ大人の称号を付けてもいいと思ったのに。

「商品だもんね」
「商品だよ、蓮を見つけたのは新たなアーティストを探して回ってた時だったからね、本当の事を言えば手を出したら駄目な相手だったんだけど……どうしても欲しかったから………」

シフトに置いた傷だらけの手がそっと足に乗った。前を見つめるクリスの目はいつものように微笑んでいるのに泣きそうにも見えた。

「クリスが……呆れるほどの変態じゃなければ俺はきっともういないね」
「どんな時も…いつでも…どこにいても見てるよ」
「見てないで…今度はもっと楽しい山に行かない?」
「それならいい話があるよ、ねえ蓮、来年のゴールデンウィークに野外の音楽フェスがあるんだけど山だよ、………エントリーしてもいいかな?」

ニッコリと笑う笑顔の胡散臭い事この上ない。

「……どっち?商売?好きだからじゃ無いの?」
「全部欲しい、蓮の全部、でもさ、これでも迷ってるんだよ?歌ってる時の蓮はそりゃあエロくて見ている奴らを殴って回りたくなる」

「……馬鹿じゃ無いの」
「うん、馬鹿だろ?」

お互いに馬鹿だ馬鹿だと言い合い、休み無く走り続けた車は引っ越し先の新しい部屋の前に付いた。

山の中にある他人から借りた別荘まで知っていたのだからそこはもういいのだが、当たり前に先に立ち、当たり前にドアを開けた。

「鍵……は何で…」
「ん?」

何度も見てきたキラキラとした無表情の笑みだ。
つまりはまた同じ事が起こっている。

「また勝手に合鍵を作ったな」
「今度は合鍵じゃ無いから」
「じゃあ何」
「この部屋はウチの方で手配させて貰ってます、因みにここは角部屋な上、隣接しているのはパイプだから音漏れの心配は無い、そしてクローゼットが広めで2人分の荷物が悠々と入る物件です。僕としては登る月が綺麗に見える部屋がイチオシだったんだけどね」

「え?まさかあの…物件チラシは…」

よく考えなくてもおかしいのに何も考えてなかった。お勧めポイントが妙に偏りマニアックだった事もあるが、何よりも立地や間取り、家賃詳細などの他に余計なマメ情報が多過ぎるチラシは疑って然るべきだったのだ。

「ついでだから聞くけど、佐竹さんがくれたコートだけど、サイズを間違えたって物凄く不自然なんだけど?」
「………寒そうに…背中を丸めているくせにいつまでも半袖のままだし……「見たところ」コートは1着も無いから…」
「見たんだね」
「……時たま…トイレとかお風呂を掃除するくらいしか……してない…よ?」
「じゃああの備え付けのベッドは?」
「…そりゃ………2人で寝るなら…さ…」

ストーキングのプロを舐めてはいけなかった。
離れて、見ないようにして、短い夢を見ていただけなのだと忘れようとしていたのは馬鹿みたいな一人相撲だったらしい、住む気満々だ。
お勧めの部屋には全て備え付けのベッドがあるなんておかしいと思うべきだったのだ。

「……取り敢えずお風呂に入って着替えた方がいいけどクリスの着替えは無いね、また…」
「蓮の体操服がいい」
「そう来ると思った」

汚れたコートを脱いだ。
茶色いシミが付いたトレーナーも脱いだ。

浴槽にお湯を貯めるまでのシャワーで始まったキスは飢えた野良犬ががっついているみたいだった。

絡み合いながら手探ったシャンプーやボディソープは足した事なんか無かった。
トイレットペーパーを買い足した記憶もない。
濡れたままで倒れ込んだベッドの片隅にあったローションがいつからそこにあったのかなんて気が付いてもいなかった。

「あ……あ…あ…

持ち上がった足の奥を穿つそれに余裕は無く、性急で激しい。痺れるような性の快楽に溺れながら考えていたのは足の小指だった。
シャワーを浴びながら抱き合い、体が温まったせいで猛烈に痒いのだ。

止まらない扇動の中で足の小指を捉えて思いっきりツネってみると細いくせに鋭い神経の糸が攣ったように足を伝い、腰を通って背中を駆け上がりビクンと激しく体が跳ねた。

「あっ!…」

まるで堰を切ったように飛び散った精液がクリスの腹を濡らした。ジンジンと疼く体は何物にも変え難いくらい敏感になり鳥肌がおさまらない。

「蓮……のツボは…変な所にもあるんだね」
「あ…駄目だから…そこ駄目だから…」

パクッと足を咥えたクリスが絶妙な強さで腫れた小指を甘噛みした。

「うわ…あ…くる…」
「来るんだ」
「ちょっと、やめて……」

「くぅ」と喉の奥が鳴った。
本当の本当に身悶えるくらいに我慢し難い。

これが心中イベントの産物なのか、もしかしたら何も無い時でもそうなのかはわからないが、カジカジと歯が当たるたびに息も詰まる程の快感が押し寄せて訳がわからなくなった。
どうやらクリスが選んでくれた部屋は正解だったらしい。初めは知らぬ間に紡ぐ鼻歌対策なのかと思ったが、それは違う。
つまりはクリスが自分の事もちゃんと考えていたって事だ。
抑えも効かないあられない声は部屋のドアの真前にいたら聞こえるレベルだったと思う。

しかし、それで終わりでは無かった。
一度果てたクリスは面白がって足の小指をつねってくるのだ。

その度に官能の名残がツーンと体を走り、堪らなくったそこを癒すうちに第二ラウンドが勃発した。

クタクタに疲れて寝入ろうとしていた時だった。半目になり頭は真っ白なのに見ていたのだ。
極端なショートスリーパーなのは薄々知っていたが、それでも疲れはピークの筈なのに脱ぎ散らかした服を集め、濡れた床を拭いていた。

こんな風に世話をしてもらうなんてやめた方がいいのかもしれないが、きっと止めても無駄なのだ。何もかもが足りなくてもいいから気が付いた事は自分でやろうと思った。

暮らして行くなら……の話だけど。
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