恋は、美味しい湯気の先。

林崎さこ

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インタールード・1


 見られた見られた見られた―――――!!!
 
 あの後、僕は腕時計を久我山さんに押し付けるように渡すと、脱兎のごとく店に逃げ戻った。引き戸の鍵を閉めるなりその場にへたり込み、二の腕を抱いてガクガクと震えた。
 なんてこった。今まで用心に用心を重ねてきたのに、よりにもよって、一番見られたくない人に見られてしまった......!
 驚いたようにこちらを見ていたあの表情に嫌悪や蔑みは浮かんでいなかったか?記憶の片隅に引っかかるような素振りは見せなかったか??
 
 しばらくたって震えが収まってくると、ようやく冷静に考えることができるようになった。
 大丈夫。あれから3年経ってる。久我山さんは最近日本に来たと言ってた。いくらインターネットに国境がないとはいえ、当時の日本のサイトを閲覧した可能性なんてゼロに等しいだろう。しかも、あんないかがわしいサイトなど。大体、彼ほどの容姿を持ってすれば、ネットなんかに頼らなくてもいくらでも......。
 でも、"あの人"もそう思われていた。仕事が出来る上に見た目や物腰も洗練されているから社内での人気も高くて。それなのに......。
 駄目だ。これ以上考えては。気を強く持て。容姿バレしたことはもう仕方ない。久我山さんが何も知らないことを祈るのみだ。3年と半年前、秘密を口止めしたことがすべての元凶だった。もう同じ間違いは繰り返さない。

 気合いを入れて何とか立ち上がり、掃除と翌日の仕込みをして、簡単な食事を終えてから2階に登った。いわゆる店舗兼住宅というやつで、数年前まで千春ばあちゃんが住んでいたが、階段の昇り降りがしんどいという理由で空室にしていたところに僕が転がり込んだ形になって今に至る。ばあちゃん自身は近所の貸家から通って来ていたが、そこは今は更地になってしまった。
 シャワーを浴びて着替えてから、テレビをつけた。天気予報を探してザッピングしていると懐かしい番組が流れていたので手を止めて見入ってしまった。
 日本と世界のビジネスをメインにした情報番組で、1週間の政治経済ニュースにビジネス動向、株式情報から話題の新商品まで、分かりやすくコンパクトにまとめられている。会社勤めしていた頃は毎週欠かさず見ていたものだ。番組後半は特集が組まれていて......と、画面がスタジオから切り替わり、そこに映し出された人物に、僕は思わず息をのんだ。
「月イチSPECIALインタビュー!今週は、アメリカの不動産開発大手、レドメイン&アルバホールディングスの日本支社長に33歳という若さで就任した久我山亮介氏にお話を伺いました」
 ただ者ではないとは思っていたが、まさかこんな。
 オフィスらしき場所で録画された画面の中で、インタビュアーの質問によどみなく答えている美丈夫は、つい先程まで、階下の店でおでんをつついていた男だった。

(つづく) 
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