6 / 50
インタールード・1
見られた見られた見られた―――――!!!
あの後、僕は腕時計を久我山さんに押し付けるように渡すと、脱兎のごとく店に逃げ戻った。引き戸の鍵を閉めるなりその場にへたり込み、二の腕を抱いてガクガクと震えた。
なんてこった。今まで用心に用心を重ねてきたのに、よりにもよって、一番見られたくない人に見られてしまった......!
驚いたようにこちらを見ていたあの表情に嫌悪や蔑みは浮かんでいなかったか?記憶の片隅に引っかかるような素振りは見せなかったか??
しばらくたって震えが収まってくると、ようやく冷静に考えることができるようになった。
大丈夫。あれから3年経ってる。久我山さんは最近日本に来たと言ってた。いくらインターネットに国境がないとはいえ、当時の日本のサイトを閲覧した可能性なんてゼロに等しいだろう。しかも、あんないかがわしいサイトなど。大体、彼ほどの容姿を持ってすれば、ネットなんかに頼らなくてもいくらでも......。
でも、"あの人"もそう思われていた。仕事が出来る上に見た目や物腰も洗練されているから社内での人気も高くて。それなのに......。
駄目だ。これ以上考えては。気を強く持て。容姿バレしたことはもう仕方ない。久我山さんが何も知らないことを祈るのみだ。3年と半年前、秘密を口止めしたことがすべての元凶だった。もう同じ間違いは繰り返さない。
気合いを入れて何とか立ち上がり、掃除と翌日の仕込みをして、簡単な食事を終えてから2階に登った。いわゆる店舗兼住宅というやつで、数年前まで千春ばあちゃんが住んでいたが、階段の昇り降りがしんどいという理由で空室にしていたところに僕が転がり込んだ形になって今に至る。ばあちゃん自身は近所の貸家から通って来ていたが、そこは今は更地になってしまった。
シャワーを浴びて着替えてから、テレビをつけた。天気予報を探してザッピングしていると懐かしい番組が流れていたので手を止めて見入ってしまった。
日本と世界のビジネスをメインにした情報番組で、1週間の政治経済ニュースにビジネス動向、株式情報から話題の新商品まで、分かりやすくコンパクトにまとめられている。会社勤めしていた頃は毎週欠かさず見ていたものだ。番組後半は特集が組まれていて......と、画面がスタジオから切り替わり、そこに映し出された人物に、僕は思わず息をのんだ。
「月イチSPECIALインタビュー!今週は、アメリカの不動産開発大手、レドメイン&アルバホールディングスの日本支社長に33歳という若さで就任した久我山亮介氏にお話を伺いました」
ただ者ではないとは思っていたが、まさかこんな。
オフィスらしき場所で録画された画面の中で、インタビュアーの質問によどみなく答えている美丈夫は、つい先程まで、階下の店でおでんをつついていた男だった。
(つづく)
あなたにおすすめの小説
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
だって、君は210日のポラリス
大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺
モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。
一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、
突然人生の岐路に立たされた。
――立春から210日、夏休みの終わる頃。
それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて――
📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。
エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。
📌本編モブ視点による、番外エピソード
「君はポラリス ― アンコール!:2年後の二人と俺と」を追加しました。
オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
優等生αは不良Ωに恋をする
雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。
そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。
「うっせーよ。俺に構うな」
冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。
自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。
番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。
それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。
王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開!
優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。