恋は、美味しい湯気の先。

林崎さこ

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インタールード・2


「薬を盛られたな」
「......やっぱり、そう思います......?」
 僕は力無くつぶやいて、がっくり首を垂れた。

 夜の街で田嶋部長を殴り飛ばして僕を連れ出した久我山さんは、そのまま大通りに出てタクシーに乗り込んだ。ずっと無言のまま10分もかからず着いた先は、低~中層階に商業施設やオフィス、高層階に個人向け住居が入る複合ビルだった。高層階専用エレベーターを使って降りた先には、まるで高級ホテルのラウンジのような空間が広がっていた。ブラウンカラーを基調とした落ち着いた色彩とセンスのいいインテリアでまとめられたロビーには、やはりホテル風のフロントデスクがあり、制服に身を包んだ係員が「お帰りなさいませ」と久我山さんに一礼した。デスク横には不審者が入り込んだら即、制圧しそうな体格のいい警備員が仁王立ちしている。いずれにしても、一般的なマンションとはかけ離れたグレードだった。
 そこを足早に通り過ぎてさらに別のエレベーターに乗る。降りた目の前は吹き抜けになっており、エレベーター前から伸びた通路でロの字型に囲まれている。他の3辺には住居玄関であろうドアが一つづつ。豪奢な吹き抜けの装飾に感嘆する間もなく右手通路側のドアに入り、奥のリビングらしき所に通されてソファに掛けさせられるやいなや、
「......で?」
と言われた。もちろん、先刻の説明を求められている。嘘はもちろん、生半可な説明では帰してもらえないような気がして、腹をくくっていきさつを話した。もっとも、生い立ちレベルからではなく、職場の上司に目を付けられ、甘い話に浮ついた挙げ句...という程度ではあったが。さっきの薬云々の話はもちろん、泊まり出張の夜のことだ。話の流れの上でゲイということも告白せざるを得なかった。ここまで過去の話を打ち明けたのは千春ばあちゃん以来でためらいもあったが、これで嫌悪されてももう仕方がないという、いっそ清々しい気分だった。
 目の前のソファに座って話を聞いていた久我山さんは、それはもうひどく凶悪な顔をしていた。眼に妙な力がこもっているのが怖い。視線で人を射殺す、というアレだ。ただ、
「やはり半殺しにしておくべきだったか......」
などと物騒なことをブツブツつぶやいていて、今のところは僕に対する蔑視は感じられない。そのことにほんの少し安心して息をついたのだが。

「で?」
 ああ、やっぱり最後まで話さないといけないんだ。この人、とことん突き詰めるタイプだ......。僕は観念して続きを語り始めた。

 
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