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インタールード・3
アメリカ西海岸の緑豊かな高台にそびえる大規模総合医療センター。病院感など微塵もないシャープでモダンな外観に、国立公園ばりに美しく整備された敷地。各分野それぞれに名医と豊富なスタッフを抱え、最新の医療と手厚い看護が提供されるこの施設は、アメリカ中の富裕層の御用達である。というよりは、金持ちでないと足を運べない。何しろ、一般病棟に1泊するだけで、日本円にして数十万か飛んでいくのだから。
そんな場所の特別病棟の一室、医療用ベッドの上に一人の老婦人が背筋を伸ばして座り、書類に目を通していた。
デボラ・レドメイン、83歳。アメリカで不動産開発・ホテル運営を中心に食品・小売りなど様々な分野に事業展開をするレドメイン&アルバホールディングスの元CEO。現在は経営に直接携わらない会長職に退いてはいるが、重要事項についてはその意向が不可欠とされる女帝である。
加齢と度重なる病で体力的には衰えているものの、長年大企業を統率していた強固な意志と苛烈なまでの気迫は健在で、今も読んでいた書類から目を上げ、部屋の向こうで小さくなっている重役に鋭い一瞥をくれた。
「私がここで休憩している間に、随分好き勝手してくれたものね」
「......いや、それはあの...その......」
「確かに10年以上前にCEOの座からは降りたけど、権限の全てを譲り渡したわけじゃないのよ。残念ね、年末の脳梗塞でくたばらなくて」
「............」
青い顔をして黙り込む重役にさらに畳みかける。
「経営上の細かいことはいいのよ。でも、絶対に動かすなといったものを動かしてる。これはたぶん、ミスター・ウォレスの仕業ね。彼はクビよ。
伝えておきなさい。それと......」
※ ※ ※ ※ ※ ※
「......そうか、了解した。調査の継続についてはまた改めて連絡を。では」
場所は変わり、ここは東京のレドメイン&アルバ日本支社。アメリカの調査会社との私用通話を終え、久我山亮介は溜息をついた。
10代の終わりまで通っていたメンタルクリニックが廃業していたため、その所長であるドナルドソン博士の行方を探していた。しかし、失われた幼少期の記憶についての鍵を握っているはずの彼は、何年も前に認知症をわずらって専門の施設に入り、そこで亡くなったという。カルテ等は廃棄されたのか見つからなかったとも。
(これはいよいよ、養親を問い詰めるしか手がないか......)
過去を取り戻したいという思いは、最近ますます強くなってきている。心に空白を抱えたまま生きるのはやめた。真の自分を知って新しい気持ちで生き直してみたい。そして......。
「社長、本社から電話が入っております」
秘書の声で我に返る。そういえば、さっき通話中にデスクの電話が鳴っていた。受話器を取り上げ、保留ボタンを解除して電話に出た。
※ ※ ※ ※ ※ ※
上司が電話に出たのを確認し、秘書は自分の業務に戻った。普段は絶対かけてこない、本社でもかなり上のクラスの役職者からの連絡だった。何かあったのだろうか。
「......どういうことです!?」
受話器に向かっていきなり上司が怒鳴りだし、秘書は椅子から飛び上がった。
「こうも毎度毎度振り回されては、まともに仕事ができない!誰がこんなことを......」
不意に言葉が途切れる。秘書が息を詰めて見守る中、
「会長命令......?」
絞り出すような声が上司の口からもれた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
「それと......?」
豪奢な病室の壁際で、ハンカチで冷や汗を拭きながら重役が尋ねると、デボラ・レドメインが氷よりもなお冷ややかな声で答えた。
「日本支社のリョウスケ・クガヤマを呼び戻しなさい」
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