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記憶の扉が開くとき・2 side 亮介
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過去最大級の勢いで仕事を終わらせると、まさに飛ぶようにして『はる』にやってきた。正直、途中の道のりのことは記憶にない。
前回お預けをくらってから、もう今日のことだけを考えて生きてきた。これまで恋愛沙汰で大騒ぎしている奴らを軽蔑のまなざしで見下してきた自分は、いったい何様のつもりだったのか。恥じる気持ちはないが、申し訳なかったとは思う。反省。
そして意気揚々と店内に踏み込むと、何故かエリックがいた。しかも、悠人のことをハル呼びとは。引きずり出したいところだったが、ここは大人にならなければ。
洗った容器類を返して椅子に座る。おしぼりで手を拭いている間に、悠人がおでんの盛り合わせを出してくれる。作り置きしてくれたものも美味しかったが、やはり店内で出されるものは別格だ。湯気と共に立ち上る香りを脳と肺の奥まで送り込んでから皿に目をやる。
お、大根はいつも通りだが、今日はなんだか見慣れない具が多いな。この、串にささった肉のようなものは何だろう。これはタコ…か。珍しい。全体的にカラフルというか、手前のこれとか、やけに可愛らしい…やけに……。
……知っている。
俺は「これ」を知っている。
このあとに、たいへんな ことが …………。
そして、猛烈な頭痛と共に、視界が急激にぼやけて……………。
※ ※ ※ ※ ※ ※
白い部屋にいた。
いる、というよりもガラスの天井を通して中を覗き込んでいるような感覚。ああ、また夢を見ている。目覚めると忘れてしまっているあの夢……。
声が聞こえる。話しかけている。こちらに。何だか懐かしいような、でも少し怖いような……こわい?どうして?
こわくなんかない。だって、だって、この声は……。
トム先生がきいてくる。
『何かみえるかい?』――人が立ってる。あと、ベッドも。
『ひとり?』――ふたり......とベッドでねてる人がいる。
『何をしてる?』――おはなし。
『どんな?』――え―っと。
「むねがくるしくなることはありましたが、まさかそんな......」
あれ?きいたことがある......この声。女の人の声。
白いふくの人が何か言った。しんぞう?のう?むずかしくてよくわからない。そのあとに、
「もし、わたしがしんだら、むすこはこれからどうやって」
しってる。この......女の人の声をぼくは、しってる。
こんどは黒いふくをきた男の人が何か言って、そして。
「ああっ、ごめんなさい。ゆるして、りょうすけ......!」
この声は。
「............おかあさん......?」
見た。見えた。おかあさんだ!おかあさんがいる!ベッドの上のおかあさんは目をつぶっていて、まっ白なかおで、まるで......。
「トム先生!おかあさんが、おかあさんがしんじゃう!たすけて!おかあさんが!」
『大丈夫。お母さんは大丈夫だよ』
「おうちでバタッてたおれて、よんでもおへんじしてくれなくて、それで、」
『大丈夫だ。お母さんは生きてる。元気になってキミが帰ってくるのを待ってる』
「......ホントに?」
「もちろんだとも。トム先生がつれて行ってあげよう。でも、キミのおうちを知らないんだ。おうちの場所は言えるかな?」
「わかんない......でも、なまえを言うれんしゅうはしたよ。
しぎのみやほいくえん ねんちょうぐみ、 きすぎ りょうすけ です 」
(つづく)
前回お預けをくらってから、もう今日のことだけを考えて生きてきた。これまで恋愛沙汰で大騒ぎしている奴らを軽蔑のまなざしで見下してきた自分は、いったい何様のつもりだったのか。恥じる気持ちはないが、申し訳なかったとは思う。反省。
そして意気揚々と店内に踏み込むと、何故かエリックがいた。しかも、悠人のことをハル呼びとは。引きずり出したいところだったが、ここは大人にならなければ。
洗った容器類を返して椅子に座る。おしぼりで手を拭いている間に、悠人がおでんの盛り合わせを出してくれる。作り置きしてくれたものも美味しかったが、やはり店内で出されるものは別格だ。湯気と共に立ち上る香りを脳と肺の奥まで送り込んでから皿に目をやる。
お、大根はいつも通りだが、今日はなんだか見慣れない具が多いな。この、串にささった肉のようなものは何だろう。これはタコ…か。珍しい。全体的にカラフルというか、手前のこれとか、やけに可愛らしい…やけに……。
……知っている。
俺は「これ」を知っている。
このあとに、たいへんな ことが …………。
そして、猛烈な頭痛と共に、視界が急激にぼやけて……………。
※ ※ ※ ※ ※ ※
白い部屋にいた。
いる、というよりもガラスの天井を通して中を覗き込んでいるような感覚。ああ、また夢を見ている。目覚めると忘れてしまっているあの夢……。
声が聞こえる。話しかけている。こちらに。何だか懐かしいような、でも少し怖いような……こわい?どうして?
こわくなんかない。だって、だって、この声は……。
トム先生がきいてくる。
『何かみえるかい?』――人が立ってる。あと、ベッドも。
『ひとり?』――ふたり......とベッドでねてる人がいる。
『何をしてる?』――おはなし。
『どんな?』――え―っと。
「むねがくるしくなることはありましたが、まさかそんな......」
あれ?きいたことがある......この声。女の人の声。
白いふくの人が何か言った。しんぞう?のう?むずかしくてよくわからない。そのあとに、
「もし、わたしがしんだら、むすこはこれからどうやって」
しってる。この......女の人の声をぼくは、しってる。
こんどは黒いふくをきた男の人が何か言って、そして。
「ああっ、ごめんなさい。ゆるして、りょうすけ......!」
この声は。
「............おかあさん......?」
見た。見えた。おかあさんだ!おかあさんがいる!ベッドの上のおかあさんは目をつぶっていて、まっ白なかおで、まるで......。
「トム先生!おかあさんが、おかあさんがしんじゃう!たすけて!おかあさんが!」
『大丈夫。お母さんは大丈夫だよ』
「おうちでバタッてたおれて、よんでもおへんじしてくれなくて、それで、」
『大丈夫だ。お母さんは生きてる。元気になってキミが帰ってくるのを待ってる』
「......ホントに?」
「もちろんだとも。トム先生がつれて行ってあげよう。でも、キミのおうちを知らないんだ。おうちの場所は言えるかな?」
「わかんない......でも、なまえを言うれんしゅうはしたよ。
しぎのみやほいくえん ねんちょうぐみ、 きすぎ りょうすけ です 」
(つづく)
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