恋は、美味しい湯気の先。

林崎さこ

文字の大きさ
33 / 50

記憶の扉が開くとき・2  side 亮介 

しおりを挟む
 過去最大級の勢いで仕事を終わらせると、まさに飛ぶようにして『はる』にやってきた。正直、途中の道のりのことは記憶にない。
 前回お預けをくらってから、もう今日のことだけを考えて生きてきた。これまで恋愛沙汰で大騒ぎしている奴らを軽蔑のまなざしで見下してきた自分は、いったい何様のつもりだったのか。恥じる気持ちはないが、申し訳なかったとは思う。反省。
 そして意気揚々と店内に踏み込むと、何故かエリックがいた。しかも、悠人のことをハル呼びとは。引きずり出したいところだったが、ここは大人にならなければ。
 洗った容器類を返して椅子に座る。おしぼりで手を拭いている間に、悠人がおでんの盛り合わせを出してくれる。作り置きしてくれたものも美味しかったが、やはり店内で出されるものは別格だ。湯気と共に立ち上る香りを脳と肺の奥まで送り込んでから皿に目をやる。
 お、大根はいつも通りだが、今日はなんだか見慣れない具が多いな。この、串にささった肉のようなものは何だろう。これはタコ…か。珍しい。全体的にカラフルというか、手前のこれとか、やけに可愛らしい…やけに……。

  ……知っている。
     俺は「これ」を知っている。
       このあとに、たいへんな ことが …………。

 そして、猛烈な頭痛と共に、視界が急激にぼやけて……………。
 
 ※  ※  ※  ※  ※  ※

 白い部屋にいた。
 いる、というよりもガラスの天井を通して中を覗き込んでいるような感覚。ああ、また夢を見ている。目覚めると忘れてしまっているあの夢……。
 
 声が聞こえる。話しかけている。こちらに。何だか懐かしいような、でも少し怖いような……こわい?どうして?
 こわくなんかない。だって、だって、この声は……。


 トム先生がきいてくる。

 『何かみえるかい?』――人が立ってる。あと、ベッドも。
 『ひとり?』――ふたり......とベッドでねてる人がいる。
 『何をしてる?』――おはなし。
 『どんな?』――え―っと。

「むねがくるしくなることはありましたが、まさかそんな......」
 あれ?きいたことがある......この声。女の人の声。

 白いふくの人が何か言った。しんぞう?のう?むずかしくてよくわからない。そのあとに、
「もし、わたしがしんだら、むすこはこれからどうやって」
 しってる。この......女の人の声をぼくは、しってる。

 こんどは黒いふくをきた男の人が何か言って、そして。
「ああっ、ごめんなさい。ゆるして、りょうすけ......!」

 この声は。

  「............おかあさん......?」

 見た。見えた。おかあさんだ!おかあさんがいる!ベッドの上のおかあさんは目をつぶっていて、まっ白なかおで、まるで......。

「トム先生!おかあさんが、おかあさんがしんじゃう!たすけて!おかあさんが!」
『大丈夫。お母さんは大丈夫だよ』
「おうちでバタッてたおれて、よんでもおへんじしてくれなくて、それで、」
『大丈夫だ。お母さんは生きてる。元気になってキミが帰ってくるのを待ってる』

「......ホントに?」
「もちろんだとも。トム先生がつれて行ってあげよう。でも、キミのおうちを知らないんだ。おうちの場所は言えるかな?」
「わかんない......でも、なまえを言うれんしゅうはしたよ。
 しぎのみやほいくえん ねんちょうぐみ、 きすぎ りょうすけ です 」 

     (つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

地味メガネだと思ってた同僚が、眼鏡を外したら国宝級でした~無愛想な美人と、チャラ営業のすれ違い恋愛

中岡 始
BL
誰にも気づかれたくない。 誰の心にも触れたくない。 無表情と無関心を盾に、オフィスの隅で静かに生きる天王寺悠(てんのうじ・ゆう)。 その存在に、誰も興味を持たなかった――彼を除いて。 明るく人懐こい営業マン・梅田隼人(うめだ・はやと)は、 偶然見た「眼鏡を外した天王寺」の姿に、衝撃を受ける。 無機質な顔の奥に隠れていたのは、 誰よりも美しく、誰よりも脆い、ひとりの青年だった。 気づいてしまったから、もう目を逸らせない。 知りたくなったから、もう引き返せない。 すれ違いと無関心、 優しさと孤独、 微かな笑顔と、隠された心。 これは、 触れれば壊れそうな彼に、 それでも手を伸ばしてしまった、 不器用な男たちの恋のはなし。

初恋ミントラヴァーズ

卯藤ローレン
BL
私立の中高一貫校に通う八坂シオンは、乗り物酔いの激しい体質だ。 飛行機もバスも船も人力車もダメ、時々通学で使う電車でも酔う。 ある朝、学校の最寄り駅でしゃがみこんでいた彼は金髪の男子生徒に助けられる。 眼鏡をぶん投げていたため気がつかなかったし何なら存在自体も知らなかったのだが、それは学校一モテる男子、上森藍央だった(らしい)。 知り合いになれば不思議なもので、それまで面識がなかったことが嘘のように急速に距離を縮めるふたり。 藍央の優しいところに惹かれるシオンだけれど、優しいからこそその本心が掴みきれなくて。 でも想いは勝手に加速して……。 彩り豊かな学校生活と夏休みのイベントを通して、恋心は芽生え、弾んで、時にじれる。 果たしてふたりは、恋人になれるのか――? /金髪顔整い×黒髪元気時々病弱/ じれたり悩んだりもするけれど、王道満載のウキウキハッピハッピハッピーBLです。 集まると『動物園』と称されるハイテンションな友人たちも登場して、基本騒がしい。 ◆毎日2回更新。11時と20時◆

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

はじまりの朝

さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。 ある出来事をきっかけに離れてしまう。 中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。 これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。 ✳『番外編〜はじまりの裏側で』  『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。

【完結】社畜の俺が一途な犬系イケメン大学生に告白された話

日向汐
BL
「好きです」 「…手離せよ」 「いやだ、」 じっと見つめてくる眼力に気圧される。 ただでさえ16時間勤務の後なんだ。勘弁してくれ──。 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 純真天然イケメン大学生(21)× 気怠げ社畜お兄さん(26) 閉店間際のスーパーでの出会いから始まる、 一途でほんわか甘いラブストーリー🥐☕️💕 ・:* ✧.---------・:* ✧.---------˚✧₊.:・: 📚 **全5話/9月20日(土)完結!** ✨ 短期でサクッと読める完結作です♡ ぜひぜひ ゆるりとお楽しみください☻* ・───────────・ 🧸更新のお知らせや、2人の“舞台裏”の小話🫧 ❥❥❥ https://x.com/ushio_hinata_2?s=21 ・───────────・ 応援していただけると励みになります💪( ¨̮ 💪) なにとぞ、よしなに♡ ・───────────・

処理中です...