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懐かしさの理由(わけ) side 亮介
隣県のコンベンションセンターで開催された異業種交流会の後、亮介は久しぶりに電車を使って『はる』の最寄り駅に降り立った。
改札を出て線路を渡り、道の斜め向かいにある<駅前南本通り>に入る。足取りも軽く歩いて行くと、右手に折れる直前でそちらから曲がってきた3人組と行きあった。
「あっ、クガちゃん!久しぶり~!」
「おつかれさーん!」
「この前のお土産、ありがとね。美味かったよ」
初めて『はる』を訪れた時に出会った、名字に「池」が入るおじさんトリオとはすっかり顔なじみである。
「それは良かった。機会があればまた買ってきます」
にっこり笑って会釈して脇を通り過ぎた。
眩しっ!という声を背中に角を曲がる。少し先に見えるほのかな灯を目指して足が速くなる。
エリックの申し出を受け、彼に母の捜索を依頼して、まずはアメリカに飛んだ。「過去を思い出した」というメッセージと共にレドメイン家の弁護士を通じてデボラ会長に面会を依頼したが、心身ともに人に会える状態ではないと拒絶されたので、代わりに2人の伯母に連絡を取った。早逝した弟の子、予想もしなかった後継者の出現と相続バトルの予感に彼女たちは慌てふためいたが、亮介はデボラの行為を暴露した上でレドメインを名乗るつもりはないことを知らせ、交換条件として終身的な日本駐在と、支社の運営に関してささやかな優遇措置をはかることを承諾させた。例の養育費を不問にさせたのは言うまでもないが、「それだけでいいの?本当に??」と逆に心配され、富が有り過ぎるのも考えものだなとしみじみ思った。
弁護士によると、メッセージを聞いたデボラは取り乱し卒倒、意識を取り戻しはしたものの、すっかり呆けたようになり、一日中息子の名を呟いているらしい。元に戻る見込みはないとのことだ。孫として再び対面することはなさそうだが、特に何の感慨もわかなかった。一族と業務以外で関わることはもうないだろう。
次いで養親の久我山夫妻に会いに行き、事の顛末を告げた。彼ら自身にも詳しい事情を伏せられていたとはいえ、幼い養い子の心を救ってあげることが出来すに辛い思いをさせたと二人して涙ながらに詫びていたが、亮介に恋人が出来たと知るや、急にハイテンションになり、「It's a party time !!」と叫んでデリバリーの電話をかけまくり、最後には隣近所を巻き込んでの大パーティを繰り広げた。
こんなご陽気な夫婦にあの暗かった自分を育てさせて悪いことをしたと思うとともに、彼らが養親でいてくれた幸運をしみじみ噛みしめた。
お母さんが見つかったら一緒に遊びに来て、もちろんハニーもね!と笑う彼らに手を振って、アメリカを後にした。
そして、ついに懐かしの母と再会できた。会わない時間があまりにも長すぎたせいで、正直、こんな顔だったろうか、こんなに小さく痩せた人だったろうかという違和感があったが、日暮れてゆく公園の真ん中で、泣き濡れて自分の名を呼ぶ姿を見、声を聴き、互いに抱きしめあう内に腹の底から熱い実感が込み上げてくるのが分かった。
帰ってきた。確かに自分は帰ってきたのだと。
あの後、母の家に泊まらせてもらい、思う存分語りつくした後に上京を提案してみたが、やんわりと断られた。
ここでの暮らしに慣れているし、仕事もあれば友人もいる。亮介も仕事が忙しく四六時中面倒を見るわけにもいかないだろう。
「あなたが生きて元気にしていると分かっただけで十分幸せだから」
自分のために目一杯時間を使い、人生を楽しみなさい。好きな人がいるなら尚更よ。そう言って母は優しく微笑んだ。
そうして現在、亮介は従来通りレドメイン&アルバホールディングスの日本支社長として忙しい日々を過ごしている。数字と視察と会議その他もろもろに追われながら、出張などで都合がつけば母と会う。その時に酒のアテになりそうな土産を買っては『はる』に差し入れに行く。聞けばトリオの後押しがあったからこそ悠人が店を続け、彼と出会うことができ、過去を取り戻すことにつながったという。まさに恩人、大恩人。差し入れくらい安いものである。いずれ定年記念パーティを店で開くらしいが、その時は盛大に奢らせて頂こう。
しかし、それには店が続いていなければならず、早いとこ悠人と暮らして、何ならその語学力を生かしてホテルの仕事に携わってほしい亮介としては非常に微妙なところではある。でも、もう無理強いはしない。気持ちも距離も永遠に離れ離れになろうとしていたことを思えばどうということもない。何といっても、こじんまりとした店内で2人静かに過ごすひと時が相変わらず気に入っているのだ。
「あ」
鼻先をくすぐって流れてゆく匂いに気がついた。暑いから、という理由で真夏の間は作っていなかったおでんが復活したようだ。
紺色の暖簾を手でそっと除け、今はもうすっかり慣れた引き戸を開けて身体をかがめて店に入る。客はもう皆帰ったようだ。
「いらっしゃいませ。お疲れさまです......亮介さん」
赤毛の店主が涼やかな、そして少し照れたような声で迎えてくれる。
全くもって最高じゃないか。
(「それぞれのエピローグ」につづく)
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