恋は、美味しい湯気の先。

林崎さこ

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それぞれのエピローグ・1

<商品管理部長とその他の人々>

 平井は引き出物が入った紙袋を持って、ざわめきの残るパーティ会場を後にした。時刻は夜の10時手前。ナイトウェディングか何か知らんが、翌日は普通に出勤なのに勘弁してくれ。
 商品管理部の女子社員と営業部の牧の結婚式だった。デキ婚......おっと、今は授かり婚と言うんだったか。いやぁ、めでたい。何がめでたいって、新婦が寿退社してくれたことだ。
 とにかく仕事をしない子だった。常務のコネで中途入社、やる気も覚える気もなく、男性社員には媚を売り、女性社員には仕事と面倒を押し付けた。あの子が辞めなきゃ私達が辞めます!と叫ぶ部下達をなだめる日々ももう終わり。嬉しさのあまり心が震える。
 しかし、牧は新妻が常務のお古だと知っているのだろうか?女子大時代にパパ活で知り合って以来の仲で、最近まで切れてなかったという噂もあるのだが。
(生まれてくる子は誰に似るんだろうな)
 修羅場の予感を覚えながらも、まぁ自分には関係のない話だ。などとつらつら考えながら歩いていると、横手からフラリとあらわれた男とぶつかりそうになった。
 伸び放題に乱れた白髪頭にシミだらけのたるんだ肌、古ぼけたジャージにサンダル履きの足を引きずり、ひどい猫背で何事かをブツブツ呟きながらヨロヨロと通りの向こうに歩いてゆく。
「あーっ、いたいた!」
「駄目でしょ?、勝手に出ていっちゃ」
 どこかの施設の職員らしい2人組に連れて行かれる男を昔どこかで見たような気がしたが、平井にはその人物の名前も顔も、どうしても思い出すことが出来なかった。

※  ※  ※  ※  ※  ※
 
<元・T夫人>

 知っていた。本当は全部知っていたの。
  
 小さな頃から何不自由なく暮らしてきたわ。パパとママに溺愛され、わがままは何でも叶えられた。だから、パパが働く会社の創立記念パーティで"彼"に一目惚れした時も、当然のようにおねだりして結婚に持ち込んだわ。だって欲しかったんだもの。ハンサムでスタイルも良くて立ち振る舞いもスマートで。彼は出世のためと割り切っていたようけれど、子供は2人も出来たし、時間が愛を育ててくれると信じていた。彼――夫のクローゼットの奥に隠されていた、海外の美少年達のいかがわしいポルノ写真集を見つけるまでは。

 知らないふりをし続けた。友人達から羨ましがられる自慢の夫が、美少年趣味の変態ホモと知られる訳にはいかなかった。見なかったことにすればいい。完璧な家庭、完璧な人生を失いたくはなかった。憧れと妬みで織り上げられた賞賛がないと生きられない。笑いものになるのは耐えられない。

 でも―――あの赤毛の若い男の存在を知って全てが吹き飛んだ。クローゼットの奥の淫らな秘密が這い出てきて私をあざ笑う声が聞こえたと思った。私の足に縋りついて惨めったらしい言い訳をする夫など、もうどうでもよかった。憎いのはあの赤毛。彼が現れなければガラスの城の中で見せかけの幸福に酔っていられたのに。時間は何も解決してくれず、怒りのやり場は1つしかなかった。
 
 あれから何年経ったのだろう。最近、頭が絶えず霧がかかったようにぼんやりとして、一日の始まりも終わりもよく分からずに、ずっと家に籠もってる。
 子供たちは最初こそショックを受け、夫から手に入れた赤毛の男の写真やIDを使って何か悪さをしていたようだがすぐに飽きてしまい、今はコンパだ旅行だと楽しげに暮らしている。囚われているのは私だけ。虚飾のドレスを剥ぎ取られた私だけ。

 ああ、インターフォンの音が聞こえる。いつから鳴っていたのかしら。そう言えば、パパとママが来るって言ってたのは今日だった?私がまたアルコールに走ってないか見に来るんだわ。大丈夫よパパママ、だーいじょうぶ。......いけない。あそこにボトルが転がったままだった。早く片付けなきゃ.........。

 (「それぞれのエピローグ・2」につづく)


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