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それぞれのエピローグ 番外編
<秘書とその兄>
「兄さん、ゴメン!遅くなって」
「いや、せっかくの休みに来てもらって悪いな。仕事、忙しいんだろ?」
うん、むっちゃ大変!どんな手品を使ったのか、久我山社長の異動話は急転直下取り止め、今までの引継ぎ手配は全部パー。関係各所の再通達やら問い合わせ対応やらでてんやわんやだった。でも1番大変だったのが、社長がやたらキラキラし始めて、間近で微笑まれた従業員たちが失神する騒ぎが随所で起きたことだ。「社長を笑わせるな!」という怒りの声が毎日のように上がってくるのだが、常時そのキラキラを受け止めているこっちの身にもなってほしい。まあ、恋人のおかげで記憶が戻ったとか生き別れの母親と出会えたとかいうイベント山盛りだから仕方がない。イケメンとは全てがドラマティックな生き物である。
翻って、地味な秘書は貴重な休日に兄から呼び出されて郊外(という名の田舎)にある実家にやって来た。何でも、物置を潰してサウナルームを作るから中のガラクタ出しをするように母から言われたらしい。これはリフォーム計画のほんの一部に過ぎないらしいが、死んだ祖父の遺産が転がり込んできて気が大きくなっているというか、人間、まとまった金を手に入れるとろくなことを考えないという良い見本であろう。我ら兄弟には一銭も回ってこなかったというのに酷い話である。
私はすでに玄関先に積まれたガラクタの山に目をやった。衣装ケースや壊れた家具・電気製品もあるにはあるが、特に書籍(というかマンガ本)関連の量が凄い。小さな貸しマンガ屋が開けるのではないか。
「でも兄さん、これ、もう荷物出し終わってるよね?全部任せてゴメン」
「いや。お前の仕事はこれからだ」
「?」
「通訳をしてもらう」
「......何それ?」
聞けば、兄が子供の頃に読んでいたマンガ本の一部を小銭稼ぎにネットのオークションサイトに出品したところ、アメリカ人のマニアが常識外れの価格で競り落とした。そして、他のブツも確かめたいと今日まもなくやって来るという。
「......兄さんが死ぬほど英語苦手なの知ってるけど、取引はどうやって?」
「ネットでは日本語で済んだけど、向こうさんは翻訳アプリ使ってたかもしれないだろ。それでなくとも、何十年も前に忘れ去られたような全10巻のマンガにいきなり30万の値をつけてくるような金銭感覚の持ち主にリアル対面とか、もう不安しかない。英語でまくしたてられてイエスイエス言ってる内に家ごと買われてしまってたとか、めっちゃありそうじゃん?後々のトラブルを防ぐためにも、ここは勉強嫌いの里村一族に生まれた突然変異たるお前に円滑な取引を任せたい。外資系企業の社長秘書の実力を今ここで見せてくれ」
「そんな大層な」
翻訳アプリ使ってよ。
ちょうどその時、はるかかなたに小さな点が見えたかと思うと、それは田舎道にはそぐわぬド派手な排気音と共に、瞬く間に赤い車となってこちらに突進してきた。周囲の風景から浮きまくったオープンカーの真紅のボディが目に痛い。
しかし、運転している人物は乗り物に輪をかけて派手だった。完璧な美貌にきらめくブロンドをなびかせて、華麗なハンドルさばきで向かいの大根畑の角を曲がり、我々の目の前で車を急停止させた。
「里村サ―――ン!コンニチハ、オ待タセシマシタ!! エリック・D・ローレンス、デ―ス☆」
「......あ、あわわわ。金髪だ青い目だ何あれハリウッド俳優??無理、絶対ムリ!弟よ、あとは任せた!!」
「兄さん、落ち着いて。この人、日本語しゃべってる」
この後、重度の英会話アレルギーを持つバツ1リーマンの兄(36)と日本のサブカル大好きイケメンアメリカ人(34)との間にドタバタラブコメが展開することになるのだが、それはまた別のお話である。
(おしまい)
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