48 / 50
その後の小話・3
<Bar デラメイアの人たち>
「ご報告!ご報告!」
「聞いて聞いて☆マスタ~♪」
おなじみリィナとモエちゃんが今夜もドアベルを吹っ飛ばす勢いで店内になだれ込んできた。客足の途切れた時間を使って郵便物を仕分けしていたマスターはひそかに溜息をついた。またクラブイベントがあるのか、2人共ひと昔前に某タレントが着ていたような黒エナメルのハードゲイスタイルに身を包んでいる。リィナの腹タトゥーは下品度が増しているし、モエちゃんに至っては超ミニのレザーパンツで太もものキワまでむき出しだ。通報してやろうかしら。
「あなた達、ウチは大人の社交場だとあれほど......」
「「キャッ!マスター、怒んないでぇ~☆」」
野太いヴォイスが店内にこだまする。マスターはやれやれと首を振った。
「......で、報告って何なの?」
「あ、そうそう!さっきリィナと会うまでの時間つぶしに本屋に寄ったんだけど」
その格好でか。
「アタシ、イケメン君の表紙を鑑賞したいから、本屋ではまずメンズ雑誌を探すのね。で、その途中でビジネス誌コーナーを通りかかったら......見て、コレっっ!!」
ジャン!という感じでモエちゃんが出してきたのは、一冊の月刊ビジネス誌。黒髪に深緑の瞳が鮮やかなハーフ顔の超絶イケメンが表紙を飾っている。衝動買いするモエちゃんの気持ちもわからないではないが、
「確かにいい男よね。だけど、どうしてそこまで興奮......」
「この人よっ!白髪の怪人吹っ飛ばして赤毛の姫を連れて逃げた王子!!」
「何ですって!?」
思わず雑誌を手に取ってパラパラとめくる。表紙の男性は、数ページにわたるインタビューと写真付きフルカラーで特集が組まれていた。不動産開発とホテル運営を主力とするアメリカの大企業・レドメイン&アルバホールディングスの若き日本支社長で、非常に切れ者のようだ。何でそんな人物があの時こんな路地にいたのかは疑問だが、イケメン視力5.0のモエちゃんが言うのだから間違いはないだろう。
リィナが胸に手を当ててウットリとつぶやく。
「ホテルレドメインって都庁の近くにあるリッチなとこでしょ?泊まりに行ったら会えるかしら。ううん、赤毛姫に悪いわね。それよりドアマンとかベルボーイさんと運命の出会いがあったりして☆ホテルの制服着た殿方ってステキよねぇ」
「あら、アンタ、ユージくんはどうしたのよ」
次に来るまで雑誌を預かっておいてと言って、リィナとモエちゃんはキャッキャッとはしゃぎながらイベントに行ってしまった。マスターはもう一度雑誌の表紙に目を落とすと、脇にどけてあった郵便の束から一枚のハガキを取り出した。通信面には時候の挨拶と無沙汰を詫びる文章、そして下3分の1に写真がプリントされている。
格子の引き戸の前に立ち、濃紺の地に『ごはん屋 はる』と白く染め抜いた暖簾をかけている後姿の写真だが、この艶のある赤毛は見間違えようもない。添え書きに、
<近くに来られることがあれば、ぜひお立ち寄りください ユウト>
とあり、裏には店の住所と電話番号。
(色々あったようだけど......やっと踏み出せたということかしら)
少し遠くはあるけれど行けない距離ではない。今度訪ねてみようか。写真の向こうの表情を見てみたい。自信無さげに目を伏せることの多かった子だったけれど、冬の時代を力強く乗り越えたであろう今、きっと春の日差しのようにあたたかな笑顔で出迎えてくれるに違いない。
(おしまい)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以前投稿していたサイトでは、たぶん一番人気があったリィナ&モエちゃん。
いつまでもお元気で。
あなたにおすすめの小説
優等生αは不良Ωに恋をする
雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。
そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。
「うっせーよ。俺に構うな」
冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。
自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。
番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。
それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。
王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開!
優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。
あなたのいちばんすきなひと
名衛 澄
BL
亜食有誠(あじきゆうせい)は幼なじみの与木実晴(よぎみはる)に好意を寄せている。
ある日、有誠が冗談のつもりで実晴に付き合おうかと提案したところ、まさかのOKをもらってしまった。
有誠が混乱している間にお付き合いが始まってしまうが、実晴の態度はいつもと変わらない。
俺のことを好きでもないくせに、なぜ付き合う気になったんだ。
実晴の考えていることがわからず、不安に苛まれる有誠。
そんなとき、実晴の元カノから実晴との復縁に協力してほしいと相談を受ける。
また友人に、幼なじみに戻ったとしても、実晴のとなりにいたい。
自分の気持ちを隠して実晴との"恋人ごっこ"の関係を続ける有誠は――
隠れ執着攻め×不器用一生懸命受けの、学園青春ストーリー。
【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~
上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。
ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。
「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」
そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。
完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか?
初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。
バツイチ上司が、地味な僕を特別扱いしてくる
衣草 薫
BL
理性的でクールなバツイチ上司・桐原恒一は、過去の失敗から、もう誰も必要としないと決めて生きてきた。
男が好きだという事実を隠し、「期待しなければ傷つかない」と思い込んできた部下・葉山直。
すれ違いと誤解の果てに、直が職場を去ろうとしたとき、恒一は初めて“追いかける”ことを選ぶ。
選ばれないと信じてきた直と、逃げないと決めた恒一。
二人の距離が近づくことで、直は「ここにいていい」と思える場所を見つけていく。
元ノンケ上司×自己肯定感低め部下の社会人BL。※ハッピーエンド保証。
αからΩになった俺が幸せを掴むまで
なの
BL
柴田海、本名大嶋海里、21歳、今はオメガ、職業……オメガの出張風俗店勤務。
10年前、父が亡くなって新しいお義父さんと義兄貴ができた。
義兄貴は俺に優しくて、俺は大好きだった。
アルファと言われていた俺だったがある日熱を出してしまった。
義兄貴に看病されるうちにヒートのような症状が…
義兄貴と一線を超えてしまって逃げ出した。そんな海里は生きていくためにオメガの出張風俗店で働くようになった。
そんな海里が本当の幸せを掴むまで…
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
オレに触らないでくれ
mahiro
BL
見た目は可愛くて綺麗なのに動作が男っぽい、宮永煌成(みやなが こうせい)という男に一目惚れした。
見た目に反して声は低いし、細い手足なのかと思いきや筋肉がしっかりとついていた。
宮永の側には幼なじみだという宗方大雅(むなかた たいが)という男が常におり、第三者が近寄りがたい雰囲気が漂っていた。
高校に入学して環境が変わってもそれは変わらなくて。
『漫画みたいな恋がしたい!』という執筆中の作品の登場人物目線のお話です。所々リンクするところが出てくると思います。