恋は、美味しい湯気の先。

林崎さこ

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その後の小話・3

   
<Bar デラメイアの人たち>

「ご報告!ご報告!」
「聞いて聞いて☆マスタ~♪」
 おなじみリィナとモエちゃんが今夜もドアベルを吹っ飛ばす勢いで店内になだれ込んできた。客足の途切れた時間を使って郵便物を仕分けしていたマスターはひそかに溜息をついた。またクラブイベントがあるのか、2人共ひと昔前に某タレントが着ていたような黒エナメルのハードゲイスタイルに身を包んでいる。リィナの腹タトゥーは下品度が増しているし、モエちゃんに至っては超ミニのレザーパンツで太もものキワまでむき出しだ。通報してやろうかしら。
「あなた達、ウチは大人の社交場だとあれほど......」
「「キャッ!マスター、怒んないでぇ~☆」」
 野太いヴォイスが店内にこだまする。マスターはやれやれと首を振った。
「......で、報告って何なの?」
「あ、そうそう!さっきリィナと会うまでの時間つぶしに本屋に寄ったんだけど」
 その格好でか。
「アタシ、イケメン君の表紙を鑑賞したいから、本屋ではまずメンズ雑誌を探すのね。で、その途中でビジネス誌コーナーを通りかかったら......見て、コレっっ!!」
 ジャン!という感じでモエちゃんが出してきたのは、一冊の月刊ビジネス誌。黒髪に深緑の瞳が鮮やかなハーフ顔の超絶イケメンが表紙を飾っている。衝動買いするモエちゃんの気持ちもわからないではないが、
「確かにいい男よね。だけど、どうしてそこまで興奮......」
「この人よっ!白髪の怪人吹っ飛ばして赤毛の姫を連れて逃げた王子!!」
「何ですって!?」
 思わず雑誌を手に取ってパラパラとめくる。表紙の男性は、数ページにわたるインタビューと写真付きフルカラーで特集が組まれていた。不動産開発とホテル運営を主力とするアメリカの大企業・レドメイン&アルバホールディングスの若き日本支社長で、非常に切れ者のようだ。何でそんな人物があの時こんな路地にいたのかは疑問だが、イケメン視力5.0のモエちゃんが言うのだから間違いはないだろう。
 リィナが胸に手を当ててウットリとつぶやく。
「ホテルレドメインって都庁の近くにあるリッチなとこでしょ?泊まりに行ったら会えるかしら。ううん、赤毛姫に悪いわね。それよりドアマンとかベルボーイさんと運命の出会いがあったりして☆ホテルの制服着た殿方ってステキよねぇ」
「あら、アンタ、ユージくんはどうしたのよ」

 次に来るまで雑誌を預かっておいてと言って、リィナとモエちゃんはキャッキャッとはしゃぎながらイベントに行ってしまった。マスターはもう一度雑誌の表紙に目を落とすと、脇にどけてあった郵便の束から一枚のハガキを取り出した。通信面には時候の挨拶と無沙汰を詫びる文章、そして下3分の1に写真がプリントされている。
 格子の引き戸の前に立ち、濃紺の地に『ごはん屋 はる』と白く染め抜いた暖簾をかけている後姿の写真だが、この艶のある赤毛は見間違えようもない。添え書きに、
<近くに来られることがあれば、ぜひお立ち寄りください  ユウト>
とあり、裏には店の住所と電話番号。
(色々あったようだけど......やっと踏み出せたということかしら)
 少し遠くはあるけれど行けない距離ではない。今度訪ねてみようか。写真の向こうの表情を見てみたい。自信無さげに目を伏せることの多かった子だったけれど、冬の時代を力強く乗り越えたであろう今、きっと春の日差しのようにあたたかな笑顔で出迎えてくれるに違いない。

   (おしまい)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 以前投稿していたサイトでは、たぶん一番人気があったリィナ&モエちゃん。
 いつまでもお元気で。

 

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