最強の弟子を育てて尊敬されようと思ったのですが上手くいきません

冨士原のもち

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第四話 天界の住人

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シシンは大柄な猫っぽい魔獣だ。
特殊能力などなく牙が鋭いだけなので初心者向けの討伐任務と言える。
エンは魔獣役所から支給された剣を持って立ち向かっている。
討伐任務を重ねると自前の武器が許可されるのだが、初心者は支給武器での戦闘になる。

お互い警戒し合うエンと魔獣を尻目に、後方でミチハは「ヤバくなったら手を出すから頑張ってー」と言っておやつを食べ出した。
剣士経験があると言っていたミチハも何故か支給の剣を腰に下げている。

アイツほんとに剣を使えんのか?
いや、いざとなれば強力な魔法がある人だしまあいいか
それにこの程度の魔獣なら一人でも大丈夫そうだ

初めてのことなのもあり手こずってそれなりに時間がかかったのだが、エンは怪我もなく魔獣を倒した。
こんなもんかと一安心したエンにミチハが近づく。

「うん、筋力はバッチリだね。技術が身につけばもっと早く倒せるよ」
「技術ねぇ」


【最強の弟子を育てて尊敬されようと思ったのですが上手くいきません~第四話 天界の住人~】


剣の技術って型の素振りとかさせられんの?

エンは十七歳、少年心としてかっこいい大技や必殺技にはもちろん興味がある。だが、自身が体格に恵まれていることもあり、小手先の技術みたいなものより力で押し切りたい気持ちが強い。それだけでは強くはなれないのだろうというのは分かるが、技術習得にテンションは上がらない。
しかも、教えてくれるというミチハはどう見てもパワーより俊敏性なんかに優れたタイプに見える。


そんなことを考えながら歩く帰路の途中、別の討伐者たちが魔獣タドルと戦っているのが見えた。
どうやら負けそうになってなんとか逃げようとしているところのようだ。
タドルは外皮が途轍もなく硬い、だが弱点となる箇所が一点だけありそこを付けばすぐに倒せる。だが、個体によって弱点が違うので、それを見つけるまで攻撃を回避するか防御するかで耐えなければならない。この討伐者たちは弱点を見つける前にダメージが許容を超えたのだろう。

「ちょうどいいや、剣の技術についてお手本を見せよう」

そう言うと、ミチハは敗走している討伐者たちに大きな声で呼びかける。

「そこの弱いやつらー!助けてやるからちょっとどいてー」

「て、天界の住人がきたぞ!」
「やべぇ攻撃に巻き込まれる!」

その間にこちらに気付いた討伐者たちはギョッとして、脇目も振らず全力ダッシュで逃げていった。

「お手本だからそんなに派手にやらないのにー。まあいいや、分かりやすくやるからよく見てて」

技術のお手本とやらだから、弱点の見つけ方とか?
それとも上手い防御で耐えながら近づく方法?

そんなふうに考えながらミチハの動向に注目する。
タドルはミチハに気付いてから、討伐者たちを追うのをやめ警戒している。
ミチハは軽く剣を二回ほど試し振りした後、スタスタと散歩のようにタドルに近づいていった。そして、タドルがミチハに攻撃しようとするより一瞬早く剣を振り上げた。
次の瞬間バシュンッという音があたりに響き渡った。
およそ魔獣から聞こえるとは思えない効果音で魔獣は叩き潰されていた。
弱点を攻めるとかそういう問題ではない。ただただ叩き潰した。

「これが技術!」

これが技術!??

堂々と言い切ったミチハ、驚きすぎて言葉も出ないエン。

「あんた、どこにそんな筋力あんの……?」
「瞬間的に魔力を体に循環させたらこれくらいできるよ」

こんな感じ、と飛び散っているタドルの鱗を拾う。そして、並の冒険者では武器を使っても傷付けられないほど硬い鱗を、指で摘んでたまごの殻を破るようにプチッと潰した。
傷一つない指先は、きっと人間の頭蓋骨も同じ感覚で潰せるのだろう。

この人は殺そうと思えば簡単に自分を殺すことができる。
そのことに気付いた時、エンは背筋から脳髄に稲妻が駆け巡った。エンにはこの感覚を的確に表現する語彙がない。ただ言えるのは、人生で一番衝撃を受けた瞬間だった。
後にエンはミチハにこの時のことを告げたが、ミチハは「極大魔法を見た直後に平然とご飯食べ出したやつが、簡単な身体強化でそんなになってたの?」と驚き半分呆れ半分という反応だった。

「なんだそれ、次元が違う……」

エンの口からこぼれたつぶやきは、微かな音量だったがミチハの耳にもしっかり届いた。
エンは内心があまり表情に出ないこともあって、ミチハはこの時そんなにエンが衝撃を受けているとは微塵も思っていなかった。なので、何も気負うことなく大袈裟に胸をそらして腰に手を当てる。

「えっへん、すごいだろ?」

その様子を見てエンの渦巻いていた感情はスッと落ち着いた。気が抜けたのだ。
ミチハの蜜色に光る瞳の輝きが、まるで親に褒められたい子供のようだと気づいたからだ。もしくは、友達の前でいい格好したい子供みたいだ。
そんな無邪気さを見せられては、一瞬抱いた畏敬のような感情を持ち続けるのは難しい。

「ま、凄いっすね」

ミチハへの返答は、自然と敬語になった。
敬意を示すのが相応しい相手だと感じたからだ。照れ隠しで雑なのはご愛嬌だ。

「なになに?オレの凄さがやっと分かった?」

ミチハはエンの心境の変化については後日聞くまであまり理解していなかったが、敬語になったこと自体ははすぐに気付いた。単純な喜びでキラキラした目をエンに向ける。

「師匠と呼んでくれていいよ!」
「え、嫌なんですけど」
「素直じゃないんだから、照れちゃってー」
「自意識過剰って言われません?」
「言われたことないなー。だって俺、こんなに綺麗で強いから」

その時風が吹き、ミチハの光色をした髪がたなびいた。
タイミングも合わさって、まるで自然が彼の強さと美しさを肯定し祝福しているかのようにエンは感じた。

『天界の住人』とかいう異名を付けたやつ。
センスないとか思ってて悪かった。
……ちょっと気持ちわかったよ。

内心の呟きと合わせてエンの口から、感嘆なのかなんなのか分からないため息が漏れる。

「あ、バカにしたな?」

ため息の意味を勘違いしたミチハは、楽しそうに文句をつける。
エンは構ってほしくて服の裾を噛む実家の近所で飼われている犬を思い出した。

「バカだとは思いますけど、バカにはしてませんよ」
「えー?ならいっか」

ニコニコ笑う楽しそうなミチハを見て、エンも思わず小さく笑った。

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