勇者への片想いで闇堕ちして死んだら逆行してたので自分の恋は諦めます

冨士原のもち

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第十一話 魔の手


 アイクが勇者となってから一年、四人での旅は驚くほどに順調に進んだ。途中に出会う魔物には多少苦戦することもあるが、ファルンが問題なく回復できるぐらいのダメージで済んでいる。
 敢えて難点を挙げるとすると、アイクは旅の途中で困っている人がいると、すぐに人助けをしてしまうので時間がかかっていることだ。ただ、勇者の行いとしては評判が良く、アイクの名声は国中に轟いている。ゆっくりと進んできた旅ではあるが、そろそろ本命の魔王の根城に近付いてきているせいか、廃墟になった村もポツポツとある。そんな中、暫くぶりに人が住んでいるある寂れた村に入った。やっとゆっくり眠れると喜びながら四人はこの村に一つしかない宿を取り、これまた一つしかない大部屋に通された。

「俺はちょっとあたりを見てくるよ。ファルン、一緒に行こう」
「え、私は……」

 ファルンが荷物を置いて背伸びをしていると、アイクから外出に誘われた。ファルンに急ぎの用事などはないが、本でも読んでいようと思っていたので一瞬考えているとアイクがグッと顔を近づけてきた。ドキッとするファルンにアイクは声を潜めて囁く。

「ほら、あいつらを二人っきりにさせてあげたいだろ?」

 アイクの視線は目の前のファルンではなく、後方に向いていた。そこには久しぶりのベッドに転がり脱力するガイと、ガイを揶揄いながらも優しい瞳を向ける魔道士がいた。
 この二人はつい最近、無事に交際を開始したのだ。しばらく野宿で、当然なかなか二人きりになることも出来なかった彼ら。ファルンは自分と違ってまっすぐな二人の恋愛を、眩しい気持ちで見守っていた。
 もちろん二人の時間は作ってあげたいが、ガイは幼馴染であるファルンとアイクに恋愛方面で気を回されたと気付いたら照れて素直になれないだろう。ここはアイクの言う通り、さりげなく一緒に外出したほうがいいだろう。

「そうだね。一緒に行こうか」

 アイクとファルンが宿から出て目的もなく歩いていると、村人らしき老婆に声をかけられた。

「巡教に来てくださった神官様ですか?」

 勇者が来ているとは村人たちは気付いていないのだろう。隣にいるアイクが勇者だと知られると騒ぎになるかと思いファルンは老婆の想像に乗る。

「私はまだ修行中なのですが」
「まあ!立派な神官になられてくださいね。この村にも一年ほど前から神官様が赴任されて、とても助かっているんです」
「そうなんですか。それなら礼拝堂へご挨拶に行こうかな」

 元々、神官になるための修行という名目でアイクの旅についてきているので、神官のいる土地では挨拶に伺っていた。この村にも神官がいるなら当然行くつもりだ。しかし、失礼ではあるがこんな辺鄙な村に神官がいるのは珍しい。ファルンの家のように代々引き継いできた家系というわけでもなさそうなので、よほど信仰心のある神官なのだろうかとファルンは考えた。

(人の少ない村だが、村人たちは比較的表情が明るい。やはり神官がいるというのが心強いのだろう)

 この旅で各地を回って実感したことだが、神官がいると言うのは人々にとって精神的にも助けになっているようだ。怪我や祭事の対応してくれる人がいるというだけでなく、自分たちは中央から見放されていないという拠り所になるのだろう。

「魔王を倒したら、こんな村を巡教する神官になりたいな」

 もちろん、ファルンはいずれは故郷に帰るつもりだ。
だが、アイクと一緒に村に帰ったとして、そばに居続けて平気でいる自信がない。旅の間になんとなくアイクがファルンに好意を持ってくれているというのは本当な気がしてきている。しかし、仮にアイクがファルンの気持ちを受け入れてくれても、ファルンは自分がアイクの横にいることが許せない。お互いに気持ちが落ち着くまでは距離をとった方がいいとファルンは考えている。その間に神官のいない地域を回るのもいいのではないだろうか。そんな思いを呟いたファルンに、アイクは足を止めた。

「アイク?」
「ファルンはまだ……神官になりたいの?」
「何を言っているんだ。昔からそう言っている」
「夢だった勇者との旅が出来ても、気は変わらない?」

 アイクの言う通り、この旅はファルンにとっては前世での未練を果たす夢のような旅だ。アイクにファルンはずっと望んでいたことを叶えてもらった。あとはアイクが魔王を倒して旅を無事に終えて幸せになるところを見ればもう後悔はない。それだけで十分なのだ。

「ああ、いい夢を見させてもらったよ。ありがとう」

 それだけ言ってファルンは背をむけて礼拝堂を目指す。何か言いかけたアイクだったが、無言でファルンの後を追いかけてきた。アイクが何も言わなかったことに、安心だけでなく自分勝手な寂しさも感じていることに気付いてファルンは己を恥じた。


「こんにちは。修行で各地を回っているものなのですが、お時間よろしいでしょうか?」
 
 村の礼拝堂に着きファルンが声をかけると、中にいた細身の背が高い神官が振り返った。はっきり年齢は分からないが青年と言っていい年頃だろう。なんとなく経験豊富な壮年をイメージしていたのでファルンは少し驚いた。

「ああ、ファルン殿。お久しぶりですね」
「えっと……?」

 青年に親しげに声をかけられてファルンは更に驚く。以前からの知り合いのような口ぶりだが、思い当たることがない。失礼にならない程度に相手の顔をしっかりと見て考えるがやはり記憶にない。

(どこで出会っただろうか……?)

「失礼ですが、いつお会いしましたでしょうか?」
「ああ、私は見た目が変わってしまっていますからね」

 尋ねるファルンに、青年神官は納得したような様子を見せて頷く。見た目が変わったというのをどう解釈して良いのか分からずファルンは戸惑う。年齢を重ねて成長した、もしくは昔は太っていたけれど痩せた、というような意味だろうか?

「それに、以前お会いした時はとても心を乱されておいででしたから」

 青年がそれまで浮かべていた優しい笑みに、急激に怪しい影がさした。丁寧な喋り方に反した、陰鬱な空気が微かに流れる。悪い予感のようなものがファルンの背筋を走った。青年神官はやはり見たことのない顔のはずだ。けれども、ファルンはこの青年から発せられる空気感に覚えがあった。

「あの時の貴方はたしか、この首飾りを投げ捨てていましたね」
「投げ捨てる?」

(そんなこと今世ではしたことない……。ハッ、まさか)

「気付きました?」
「お前、まさか……」

 ファルンが恐ろしい想定をしたその瞬間、青年の瞳が一瞬黒く揺らいだ。間違いない、この青年は魔王だ。しかも、ファルンと同じように前世の記憶を持っている。

(忘れていた。前世でも、これくらいの時期に魔王に堕とされたのだった!)

「ファルンどうした?本当に知り合い?」

 アイクがファルンの動揺を見て、神官を警戒している。ファルンは横目でアイクの装備を確認する。今のアイクは帯剣はしているが、防具などは宿に置いてきている。

「勇者殿ですね。お噂はかねがね、ぜひお会いしたかった」

 青年神官に扮した魔王は嘲るような目をしてアイクを見ている。口調も嫌味っぽく、これは挑発しているようにしか見えない。ここでアイクにこの青年が魔王だと伝えれば、勢いのままに戦いになだれ込むことになるかもしれない。今、二人で魔王と闘うのは決して良い結果にはならないだろう。それに、ここは村が近すぎる。戦闘になれば村人たちにも被害が出るだろう。

(ここは、一旦引いた方がいい)

「アイク、急な来訪だし早めにお暇しよう」
「……いいのか?」

 アイクは警戒を解かないままファルンを見たので軽く頷いて返す。魔王は少し物足りなさそうな顔をしたが、無理にここで戦闘に入る気はなかったようで引き止めることはしなかった。しかし、何もせずに帰すつもりもなかったようだ。

「ああ、最後にせめて勇者殿の幸運を願わせてください」

 そう言って青年の姿をした魔王はファルンが止める前に膝をおる。祈りの体勢をとった途端、警戒を強めていたはずのアイクがふらつく。

「アイク!大丈夫か!?」
「あ、うん、……ファルン?」

 ファルンの問いかけに応えたアイクは明らかに様子がおかしい。ファルンは魔王を睨みつけるが、そんなことを気に留めない様子で魔王は貼り付けた絵画のような笑みを浮かべながら立ち上がった。

「勇者殿もお疲れがでたようですね。ご養生ください。お二人が魔王を倒す日が待ち遠しいですね」

 どう考えても煽っているようにしか聞こえない別れの言葉に、ファルンは一睨みだけ返して足早に礼拝堂を出る。
調子の悪そうなアイクへの心配と、意味の分からない魔王の行動への恐怖と警戒から心臓が激しく脈打っているのを、ファルンはアイクに悟らせないように息を大きく吸って吐いて落ち着かせた。

「アイク、大丈夫か?」
「ああ、ちょっと頭が痛くて……」

 頭を押さえたままのアイクの背を押しながら、ファルンは足早に宿を目指した。



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