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最終話 願い
アイクとガイが話をしている頃、ファルンも魔導士に事情を打ち明けていた。ファルンも自分だけでこの悩みを抱えているのは限界だったのだ。
「へー、神官さんは時戻りをしたんだ」
「何か知ってるのか!?」
「いやー全然」
魔導士はファルンが死んだら過去にいたという話に驚きを見せなかった。だが、既知の魔法というわけではないようでファルンの期待をあっさりと否定する。
魔王を倒すと今のアイクが消えてしまうというのが本当なのか、何かヒントがあればとファルンは期待していたのだがそう簡単には行かないようだった。
「前世のガイってどんな感じなの?」
「私はガイと今ほどは仲良くなかったな。けど、妹想いだったし他の子達にも慕われてたし、今のガイと同じだと思うよ」
「へー、そっか。ガイの面倒見の良さは生まれ持った気質なんだろうね」
魔導士はマイペースに自分が興味があることを聞いてきた。そして、自分の恋人についての話を楽しそうに聞いている。魔導士のこういうところをファルンは結構気に入っている。それにしても、フードで顔の大半を隠していても感情が分かりやすいのは一種の才能だなとファルンは改めて思った。
「僕は前世なんて知らないけどさ。時が戻る前の勇者さんと今の勇者さんは同じだっていう神官さんの主張は分かるけどな」
「でも、アイクはそう思ってないみたいだし……」
魔導士が味方してくれるのは嬉しいが、こういうのは受け取り手の問題なのではないだろうか。当事者のアイクが別人だと認識しているなら、ファルンにはそれはどうしようもない。
「僕はずっと言ってるじゃん。神官さんは考えすぎだよ。本能が大事だって」
「本能って言ったって、本性が獣の人と一緒にしないで欲しいな」
「お、神官さんも言うようになったね」
魔導士と一緒になってファルンも笑う。ファルンは久しぶりに笑った気がした。
「神官さんにとっては、前世も今世も勇者さんは勇者さんなんでしょ?それでいいじゃん」
「それで、いいんだろうか」
ファルンの呟きに魔導士がいつも通り楽観的な言葉を発しようとしたその瞬間、二人を衝撃が襲った。
「っ、、一体なにが!」
魔導士はかなり後方まで吹き飛ばされたようだ。シールドを張っているのが見えたので大怪我はしていないだろう。一方、情けないがなんの防御もできていなかったファルンだったが、ファルンの周りにも誰が展開したのか分からないシールドがあり無傷だ。
「ファルン、会えてよかった!」
「アイク……?」
シールドが解けると、そこには半透明のアイクがいた。一体なにがあったのだろうか。まさか離れている間に倒されて幽霊になったなんてことはないだろうな、とファルンは焦る。
「分からない?俺は死んじゃったファルンを見送ったアイクだよ」
「え……」
半透明のアイクがニッと笑った。それはつまり、“前世のアイク”と言うことだろうかとファルンは目の前の存在を凝視する。
「ファルン、早く魔王を倒そう。俺は今魔王の中に閉じ込められている状態なんだ」
戸惑ったままのファルンをおいて、半透明なアイクは早く魔王を倒すように急かしてくる。
「でも、それじゃあ今世のアイクはいなくなってしまうんだろ?」
否定してくれないかと願いながらのファルンの確認に、半透明のアイクは首を傾げる。
「今まで旅したアイクだって納得しているんだろ?彼に魔王を倒させるのは自殺させるのと一緒だよ。せめて代わりにファルンがやってあげよう?」
その言葉はファルンの心情など配慮しない淡白な言い方で、ファルンは疑念を抱き始めた。目の前にいるのは本当に“前世のアイク”なのだろうか。しかし、疑念を深める前に半透明のアイクの言葉が、ファルンの頭のなかに響くように聞こえ始めて思考がぼやける。
((ファルンが好きなアイクは元々俺なんだからいいだろう?))
そうだ。前世からアイクのことを好きなんだから、最初に好きになったのは……
((何かを手に入れようと思ったら、別の何かは諦めないといけないだろ?))
そのとおりだ。アイクの幸せのために、自分の恋は諦めたんだ。それは今回も同じで、今諦めるのは……
((そう、仕方ないんだ。もう諦めろ))
諦めろ、の言葉がファルンの頭の中でリフレインする。ぼーっとした頭のまま迷った時にいつもする癖で、ファルンは首飾りを握った。するとその瞬間、急激に視野がひらけたような感覚になった。ハッとした勢いのまま、ファルンは心の奥底から言葉を吐き出した。
「アイクのことを諦めるなんてできない!どっちかなんて選べない。どちらもアイクだよ、私はどんな時でもアイクに幸せであって欲しいんだ!」
その瞬間、ファルンの首飾りが光ってあたりを照らす。半透明のアイクは輪郭がぼやけてそのまま消えていってしまった。ファルンが夢でも見ていたのかと、周囲を確認すると、今度はなにもなかったはずの空間から扉が現れる。扉から現れたのは魔王だった。
「まったく貴様は忌々しいな。貴様を利用して勇者にもう一度暗示をかけてやろうとしたのに、逆に消していた記憶まで戻ってしまった」
イライラとした様子の魔王は、ファルンを心底邪魔に思っている様子で睨みつける。苛立ちのまま魔王がファルンへ攻撃をしようとした瞬間、ファルンの視界にアイクが飛び込んできてその攻撃を防いだ。
「アイク!」
今度は実態のあるアイクだ。魔王を警戒しつつもファルンを心配げに見やるアイクは、今度こそファルンの知っている本物のアイクのようだ。
「ファルンごめん。ファルンが言うように、俺は俺だったんだ。ただ、魔王に前世の記憶を封じられていただけだ」
「記憶を封じるって……」
「俺はファルンと一緒に時を戻っていたんだ。だけど、魔王に記憶を封じられていた。それに加えてたぶん、神官のふりして接触した時に、前世を別人だと思うように操作されていた」
「操作など人聞きが悪いな。貴様の醜い嫉妬と欲望を少し細工しただけだ」
魔王のその言葉は、アイクの言っていることを肯定している。一体なぜ、魔王はそんなまだるっこしいことをしたのだろうか。ファルンがその疑問をアイクに問いかけようとした時に、魔王が再度攻撃を仕掛けてきた。
「まったく魔王を目の前にしてお喋りとは。貴様らは、一体なにをしにきたんだ?そんな腑抜けた様子で、我を倒せるものか!」
魔王が辺りの空気が揺れるほどの殺気を放ったが、アイクはそれを見てむしろ余裕の表情を浮かべている。攻撃をいなしながら、事情を説明してくれる。
「記憶を取り戻したと言っているだろ。お前を倒してはいけないことを俺はもう知っているんだ」
「おい、アイク。それは一体どういうことだ?」
アイクと共に駆けつけて魔王の攻撃への応戦に参加していたガイが、アイクに問いかける。
「魔王は倒したら、今度は倒した勇者が魔王になるんだ。俺は前世でファルンが死んだ後に魔王を倒した。そのまま俺が魔王になりそうになった時に、ファルンの魂が干渉して時を戻したんだ」
「え……私が?」
「そっか、ファルンは覚えていないんだね。ファルンの死に際の願いが、俺を守ろうとしてくれたんだ」
まったく覚えがないことを言われてファルンは戸惑う。そのファルンに対して、アイクは本当に嬉しそうに告げる。確かにファルンには死ぬ直前にアイクの無事だけを祈っていた覚えはある。
「ファルンが時を戻そうとした時、魔王は俺に力を移しかけていたから魔王まで一緒に時を戻ってしまったんだ。その時に、苦し紛れに魔王は俺の記憶を封じた。魔王を倒してはいけないという記憶を持っていられたら困るからだろうね」
全てが正解だったのだろうか、魔王は憎々しげな目をアイクとファルンに向ける。
「魔王の本体はこの城から出れないんだ。きっと何かの拍子に俺の記憶が戻らないかとコイツはヒヤヒヤしてたはずだぞ」
「それで、急かせようとわざと中途半端に記憶を戻すことでアイクの意識に干渉したわけか」
アイクが魔王を挑発するように続けて解説すると、どうやら事情を聞いているらしいガイが納得する様子を見せた。そうしている間に、魔導士が戻ってきてこちらは戦闘態勢が整った。けれど、ここまでの話を纏めると、魔王を倒してはいけないらしい。
(魔王は倒すとアイクが魔王になるなら、どうしたらいいんだ?)
「ファルン、俺のために祈っててくれる?」
「え?」
「いつもお祈りする時みたいでいい。ただし、俺のことだけを考えていて」
その言葉をアイクが発した途端、魔王の攻撃が強まった。
「待つのは面倒だが、貴様を殺してもそのうち次の勇者は現れる。回復無しで戦闘してもいいのか?」
「白々しいな。時が戻る前のことも考えたら俺だって察しがつく。勇者が愛し愛されている存在の加護があれば、お前を倒さず封印できるんだろ?」
ファルンは一瞬愛し愛されるという単語に反応しかけてしまい、自分を諌める。そんなことを考えている場合ではない。どうやら、ファルンの祈りが魔王攻略に必要らしい。安心してアイクが戦えるように祈らねばならない。
祈りの態勢に入ったファルンを魔導士がシールドで保護をする。魔王は完全にアイクを殺す方に舵をきったのか、容赦なく攻撃を繰り返している。アイクとガイが応戦しているあいだ、ファルンはいつもの通りただアイクの幸せを願って祈り続けた。
戦闘が始まってからどれくらい経ったのだろうか、祈っている間は時間経過が分かりづらい。戦闘が終わった気配を感じてファルンが顔をあげるとそこには疲労困憊という様子のアイクとガイが剣にもたれかかるようにして立っていた。
「魔王は……?」
「無事、封印できたよ」
アイクが剣でトントンと地面を指す。そこには大きな魔法陣のようなものが透けて見えて、城全体を覆っているように見える。
「ありがとう、ファルンのおかげだよ」
「私は、なにも……」
アイクはファルンに近づいてきてそっと手を取る。後から聞くとこの時ガイと魔導士が演劇のクライマックスを見るかのようなキラキラした目でこちらを見ていたらしいのだが、今のファルンにはアイクしか視界に入っていない。
「ファルン、時が戻る前から俺はずっと君が好きだったんだ」
「でも、前は旅には連れて行ってくれなかったじゃないか」
嬉しいくせについつい素直でない言葉が出てしまう自分が、ファルンはとても嫌だと思った。
「君が好きで危険に晒したくなかったからだよ。それに、前は今よりファルンの好意がわかりやすかったから帰ってきたら口説き落とせる自信があったんだ」
アイクはいつもの爽やかな笑顔でそう言った後、申し訳なさそうな表情になってファルンを見る。
「だけどあの時、ファルンのお願いを聞いておけばよかった。時を戻る前も後も、ファルンのことを傷付けちゃったし……、こんな俺じゃダメかな」
「そんなことない!そうじゃなくて、私なんか……」
ファルンはここまで来ても、最後の一歩を踏み出せないでいた。自分でも往生際が悪いと分かっているのだ。けれど、ファルンはアイクのそばに自分がいていいのか自信が持てない。
「ファルン、時を戻して俺が救われたのも、記憶が戻って魔王を封じることが出来たのも、ファルンが俺のことを諦めないでくれたからだよ」
アイクは握っていたファルンの手を口元に引き寄せて軽くキスをした。
「どうやら、俺はファルンが諦めちゃうと幸せになれないみたいなんだ。お願いだから、俺のそばで俺のこと幸せにしてくれない?」
アイクにそんなことを言われたら、アイクの幸せだけ考えてきたファルンが返せる言葉は一つしかない。
「ばか……。そんなお願い、断れるわけないだろ」
【勇者への片想いで闇堕ちして死んだら逆行してたので自分の恋は諦めます ~終~】
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