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第十話 欲張り
「神官さーん、あっちに面白そうなの売ってるよ!」
「面白そうなものは後にしよう。あと、私は一応まだ見習いだよ」
ファルンは仲間になったばかりの魔導士と共に買い出しに来ていた。魔導士と二人きりになるのを嫌がったガイと、買い出しついでに新しい本を買いたいというファルンの要望が叶った形だ。アイクも一緒に来たそうにしていたが、ファルンは買い物以外の目的もあるとこっそりと伝えて遠慮してもらった。
「回復魔法を使えるんだから、神官でいいんじゃない?」
「そうですね、貴方も正式に言ってしまえば魔導士じゃないですもんね?」
ファルンはさっそくだが、買い出しでないほうの目的を果たすことにした。立ち止まったファルンに合わせて、隣を歩いていた魔導士は足を止めてからくるっとファルンの前に移動した。
「あーやっぱり、僕の正体バレてた?」
フードで顔が隠れていてもどことなく楽しそうな雰囲気が伝わってくる。そのフードを彼は少しだけ上げて、ファルンを見て笑ったあとにすぐに戻した。フードから覗いた瞳は、予想通り猫のような金色で人間にはない縦長の瞳孔をしていた。そう、この人は人間ではない。
「やっぱり、聖獣様だったんですね」
聖獣とは、読んで字の如く聖なる生き物とされている。魔物とは違い人間を害さず、気まぐれに人に利益をもたらす存在だ。滅多に人前には現れないので、一般的には御伽話の類として扱われている。
ただ、神官は大体知っていることなのだが、中央の教会にはずっとある聖獣がいる。この男に感じた既視感は、前世で見たその聖獣が纏っていた雰囲気と重なっていた。
「うーん、思ったより早くバレちゃったな」
「あなたも真剣に隠す気は無かったのでは?」
ファルンが気付いた一番の決め手は、自分の名前を教えず、他人の名前も呼ばないことだ。聖獣は真名を伝えたり呼んだりすると力の一部が繋がってしまうらしい。余程の関係でないと聖獣は名前で呼び合ったりしない。一度気付いてしまえば彼は怪しいところだらけだ。フードで雑に隠した瞳も、この辺りでは珍しい褐色の肌も、色の擬態ができないわけでもないだろうにそのままにしている。
ちなみにだが、アイクは感覚派なのでなんとなくで判断していたそうだ。聖獣だと思うと伝えた時には「へー、なんか人間じゃないっぽい気はしてた」と言っていた。
「やっぱり目立つ?いやーでも、色を変えるのってしんどいし、ガイと出来るだけ素で接したいから」
「聖獣様は、一体なぜ……」
「魔導士って呼んでよ。敬語も無しでお願ーい」
正体に合わせて畏っていたファルンに対して、変わらず軽い調子だ。これから一緒にやっていくにあたりその方が都合がいいと思ったので、ファルンも合わせることにした。
「魔導士は、本当にガイが好きなのか?」
「うんそうだよ」
「私たちがガイと離れていたのは一瞬だけど、その間に何があったんだ?」
「好きに理由はいらないだろ?好きだから好き、それでいいじゃん。あんまりごちゃごちゃ考えていると上手くいくもんもいかないじゃん。こういうのは本能だよ」
本性の半分くらいが獣の存在から、理由は本能と言われてしまえばファルンはそれ以上は追及できない。それに、魔導士はガイだけ名前で呼んでいる。流石に自分の真名は伝えていないようだが、彼が本気なのは間違いない。
「あなたが仲間になってくれるのは嬉しい。だけど、ガイは大事な友達だからね。無用に傷付けて欲しくないんだ」
「心配しなくても、僕はガイが好きなだけだよ」
「聖獣と人間では生きていく理が違う。貴方が深く関わることでガイはいつか傷付くことになるかもしれない」
聖獣が味方になってくれるのは魔王を倒す旅には心強い。だからと言って、ガイを犠牲にする気はアイクにもファルンにもない。
もちろん聖獣がわざと人を傷付けようとはしないと分かっている。だが、意図せぬところですれ違い、結果としてガイが悲しむことはあり得る。出来ることなら、ガイのことはちょっとしたお気に入りぐらいに留めておいて欲しいというのがファルンの希望だ。
「えー、どうなるか分からないことを心配しても仕方ないじゃん。僕は僕のやりたいようにやるよ」
好きな相手であるガイがどう思うかなんて考慮せず、余りにも自分の気持ちにまっすぐに動く魔導士に圧倒される。ファルンが今までに出会ったことのないタイプの人間だ。いや、人間ではないのだけれど。
「とりあえず、ガイには僕の正体はまだ言わないでいてね」
ファルンの心配は、魔導士には全く響いていないようだ。そもそもが人間とは感覚が違う存在なのだ。話が噛み合わないのは仕方ないのかもしれない。
「はあ……、わかったよ。ただ、ガイのことを傷付けたら私もアイクも黙ってないからね」
「はーい、じゃあ買い出しを続けよう!」
ファルンは目的である忠告ができただけ良しとして、さっさと話を終わらせた魔導士とともに買い出しに移る。
魔導士は初めて買い物をするようで、それからは一苦労だった。お金は持っているのに使い方が分からないらしくファルンがイチから教えたり、詐欺まがいの商品を掴まさせられそうになって止めたりと大変だった。結局ファルンは魔導士から目を離すのが不安で、買いたかった新しい本は購入できなかった。
「あ、これこれ!さっき言ってた面白そうなやつ。雲みたいだけどお菓子なんだね」
輪のようになっている市場だったため、買い物を進めていると自然に宿付近に戻ってきたようだ。魔導士は当初に気になっていると言っていた屋台を見つけたようで指を差す。
「あれは……」
「神官さん、あのお菓子が好きなの?」
「私じゃなくて、アイクが昔すごく美味しいって喜んでいて」
このお菓子は数年前から都会で流行り出したものだ。変わった見た目でファルンは面白そうだと買ってみたのだ。アイクは興味はなさそうだったのだがファルンに付き合って食べたら味と食感を気に入ったらしく、アイクはその後も見かける度に買っていた。そんな懐かしい思い出に、ファルンは自然と頬が緩む。
「神官さんは勇者さんのことが好きなんだ?」
「いや、別に」
魔導士の言葉に、ファルンはバツが悪くて屋台から視線を逸らす。懐かしい思い出を回想している時にアイクへの想いが顔に出ていたのだろうかと恥ずかしくなった。そんなファルンを魔導士はからかう気満々のようでニヤニヤと見ていた。
「ははーん、さっきのは自分の恋が上手くいかないから僕に絡んでたんだな?」
「そんなことはない」
「神官さんも気楽に行こうよー。偉い神官でもこっそり買春したり同性と付き合ったりしてるやついるよ?」
「知ってるさ」
ファルンは前世で一時だが中央にいたこともあるのでそういう裏事情も知っている。偉い人たちは案外ゆるゆるなのだ。地方にいる父のような神官の方が、よっぽど敬虔だったりする。
「すっごい真面目だなー。僕の予想では、勇者さんも君が好きだよ?両想いじゃん!」
「そんなことないし、それにアイクは私にはもったいないよ」
ガイにも魔導士にも言われるのだから、もしかしたらアイクはファルンのことを憎からず想ってくれているのかもしれない。だが、アイクにはファルンなんかよりもっと心の綺麗な人を好きになるべきだと、ファルンは改めて自分で自分に釘をさす。
「えー、お似合いだと思うけど」
「やめてくれ、そんなこと言うのは。私は嫉妬で大きな過ちを犯すような卑しい人間だ」
「なになに?嫉妬の悪魔と取引でもした?」
その言葉を聞いた瞬間、ファルンは足が竦んで立ち止まってしまった。ファルンは魔導士のその言葉がただ揶揄うための冗談だとわかっていたが、真実に近いことを言われてザッと自分の血の気が引いていくのが分かった。急激にファルンの顔色が変わったのを見て、魔導士は自身の頬をかく。
「えーっと、なんか地雷だった?ごめんね」
「いや、大丈夫だ」
返事はするものの先ほどまでとは様子が違ったままのファルンに、魔導士は困ったような顔をしている。ファルンはそれに気付いているのだが、なかなか気持ちを立て直せないでいた。
すると、魔導士はなぜか急に地面にあぐらをかいて座る。予想外の動きにファルンは驚いて魔導士を見る。
「え、ちょっと、急にどうしたんだ?」
「よし、お詫びにこの魔導士様が占ってあげよう!」
「は?」
魔導士は地面に座ったまま両手を重ね合わせ、ゆっくり上下に開くと手の間の空間がパチパチと光っていた。近くを通った子供が声を上げて驚いているが、ファルンはこれがただの小規模な雷魔法だとわかった。
「神官さんはもっと欲張りになった方が、幸せになるぞ!」
バン!と雷を放電させながら告げる魔導士は、顔は見えないがなんとなくドヤ顔をしているようだ。占いはそれっぽい雰囲気はあったが、タネを知っているとただの子供騙しだ。それに聖獣が占いができるなんて聞いたことがない。
(……慰めてくれようとしたのかな?)
ファルンは急な占い師ごっこに驚いたのと、魔導士の心遣いが嬉しくて、ふんわりと気分が持ち上がった。
「そういうわけだから、このお菓子は買って行こう!」
魔導士はファルンが止める前にお金を支払ってしまった。お金も魔導士が出しているので、無駄遣いだと責めることもできない。はいっと渡されたお菓子の袋をファルンは仕方なく受け取った。
「魔導士!遅かったじゃないか。ファルン、変なとこに連れ込まれてないか?」
「ガイ、僕のこと心配してくれたんだ。ありがとう」
「お前じゃなくて、ファルンを心配してたんだ!」
帰ってきて早々に二人が言い合いを始めたので、ファルンは避けるようにして荷物を置く。ガイは基本的に面倒見がいいので、そのうちにこの浮世離れした仲間に絆されていくのかもしれない。魔導士はその真っ直ぐな気持ちのままに、欲しいものを手に入れていくのだろうか。
ファルンは二人を見ながら自分にない魔導士の在り方を少しだけ羨ましく思った。
「ファルン、お疲れ様」
アイクが労りの声をかけながらファルンの肩に手を置いた。いつもと変わらぬアイクの優しい声に、ドキッとしてしまったのは直前まで魔導士と話していたのがアイクのことだったからだろうか。
(欲張りに……か。私はアイクが幸せになるのを見れたらそれでいいんだけどな)
「彼、やっぱり思ってる通りだったよ」
「へーそれは心強いな。あれ?それは?」
ファルンが魔導士の正体をガイに気付かれないように声を顰めて伝えると、アイクは軽い調子で喜んでから関心はすぐにファルンの買ってきたものに移ったようだ。
ファルンは少し迷ったけれど、魔導士が買ったお菓子をアイクに手渡す。ここで渡さなければ魔道士が何か言ってくるかもしれないと思ったのだ。話をややこしくするくらいなら素直に渡したほうがいい。
「アイクにあげるよ。このお菓子好きだったろ?」
「え、うん。ありがとう」
アイクは受け取ったお菓子を一口食べて、ファルンに向かって「おいしいね!」と笑顔を見せた。そして、以前食べた時と同じように一気に食べてしまった。
(アイクが喜んでくれたし、買って良かったかな)
魔導士へ心の中で感謝をしたファルンだったが、一つ大切なことを忘れていた。このお菓子は、前世で一緒に大会に出た時にファルンが食べたいと言って買ったものだ。アイクは今世では、今日この時までこのお菓子を食べたことがなかった。
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