勇者への片想いで闇堕ちして死んだら逆行してたので自分の恋は諦めます

冨士原のもち

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番外1 第一話


 目が覚めると同時にファルンは手のひらに温かさを感じて寝返りを打ちながら温もりの主を見る。目線を向けると同じベッドで寝ているアイクがファルンの手を握っていた。
 
「おはようファルン」

 寝覚めに愛しい相手の顔が見れて幸せだが、ずっと寝顔を見られていたのかもしれないと思うと恥ずかしい。

「アイク、いつから起きてたんだ?」
「んー、ちょっと前から」
「本当に?」
「えー、信用ないなぁ」

 二人で寝転がったまま見つめあって笑う。アイクの言う『ちょっと』がどれくらいのことか分からないが、おそらく結構前から起きていたのではないだろうか。昨夜の影響で心地よい疲労を感じる体を毛布にくるんだまま昇りきった朝日の中まどろみの時間を過ごす。
 現在、勇者一行の四人は王都を目指していた。魔王を倒したことを報告しないといけないからなのだが、魔王討伐の噂はもう国中を駆け回っているようなので形式上のことだ。勇者一行を讃えて王都も各地もお祭り騒ぎだが、当人たちはのんびりと旅行を楽しんでいる。勇者一行というと聞くと雄々しいが、内情は前世からの想いが叶ったファルンとアイク、魔王討伐前に魔道士の猛アプローチを受けて交際を始めていたガイと魔道士のカップル二組なのだ。その雰囲気は推して知るべしである。
 そんな旅は魔王もいなくなったのでほとんど魔物もおらずスムーズに進み、あと数日で王都につくだろう。昨日は王都直前の街に宿泊した。勇者一行であることはこの街では隠していた。基本的に自分たちで勇者だとは名乗っていない。それでも行きの道で勇者だと顔バレしている街や村だと、ぜひにと言われて魔王討伐のお祝いとして歓待を避けられない。毎回それでは疲れてしまうのであまり名誉には興味がないメンツが揃っていることもあり、自分たちから喧伝することはない。そんなわけで、昨日はカップル二組に別れて各々恋人としての時間を過ごしていた。

「そういえばさ、ガイと魔導士って、こういう時ってどんな雰囲気なんだろう」

 後朝のまどろみの中、ふと思いついたようにアイクが呟いた。その疑問に、ファルンは少し考えてから同調した。

「……それは、確かにちょっと気になるね」
 
 しばらくはお互いしか見えない状態だったファルンとアイクだったが最近やっと落ち着きを見せ始めていた。ここまでの街々で度々あったことなのだが、勇者一行とバレて歓迎の宴を受けている時に街の美女がアイクに近づくとファルンは「やっぱりアイクにはああいう女性の方が合うのでは」と後ろ向きになっていた。だが、そんなファルンの嫉妬がアイクにはとても嬉しいらしく毎回それを喜んでいてその夜は大変盛り上がる。流石に何回もそれを繰り返していたら、ファルンにも愛されている自信というものが少しずつ溜まってきた。自分たちが幸せですぐそばにもカップルが居るのだから、ちょっとくらい気になるのが人情だ。
 ちなみにこれは余談だが、勇者一行が各地で歓迎されているのは若い男四人が宴で乱痴気騒ぎを一切しない品行方正さも評判だからだったりする。四人とも目の前に愛する人がいるので酒や女に溺れる暇がないだけなのだが。

(色々話を聞いてもらったけど、逆にあの二人からはよく考えたらあんまり聞いてないな)

 面倒見のいい幼馴染と彼を愛してやまない魔道士(本性:聖獣)を思い浮かべてファルンは二人のいる向かいの部屋に想いを馳せる。

「ガイは恋バナ好きだし、自分から言わないだけで惚気たかったかもだね」

 ファルンはガイが母や妹に影響を受けて恋バナ好きなのだと思っていた。

「そうそう!それに俺達の話は散々聞いてきたんだからさ、俺達だって多少は出歯亀しても良くない?」

 ガイがアイクのこの言葉を知ったら「聞きたくて聞いてたわけじゃない!」と言いそうではあるのだが、この場にはいないので二人を止めるものはいない。アイクは村にいた時に自分が勝手に相談して巻き込んでいたという自覚があったがガイの話を聞きたいという好奇心が勝った。
 ファルンもアイクも、話しながらどんどんワクワクしてきた。友達のこういう話は下世話ではあるが面白いのが世の常だ。普段のアイクはファルンにしか興味がないし、ファルンも友人の恋路を興味本位に詮索はしないのだが、この時は変にテンションが上がっていた。
 ファルンもアイクも長年の想いが実り、その実感が湧いてきたこのタイミングで気分が高揚してハイになっていたのだ。




ーーーーー 
 
 その日の昼過ぎ、アイクが宿を出て遅めの昼食でもと考えているとちょうど何処かから戻ってきたガイと鉢合わせた。
 
「あれ?ファルンは一緒じゃないのか?」
「あ、ガイ!ファルンは仕事だって」

 ファルンは治癒魔法が必要な住人がいると聞いて朝食の後に一人で出かけて行った。アイクも一緒に行こうかと思ったのだが、万が一勇者とバレて人が集まってきたら病人に迷惑がかかるだろうと言われて留守番になった。ファルンも勇者一行だと知られてしまう可能性はあるのだが、神官(正確にはまだ見習いだが)という役職と本人は無自覚だが高潔な雰囲気があるので一見気さくなアイク相手とは違ってあまり人が無作法に集ってこないのだ。そんなファルンが自分の前でだけは乱れるのがとてもクるのだが……

「ガイ、今から昼?一緒に食べないか」
「……ああ、そう言えば食べてなかった」

 一瞬ピンクに流れかけた思考を目の前に戻して、ガイを食事に誘う。ちょうど今朝、ファルンとまどろみながらガイたちについて話したばかりだ。こんなベストタイミングに二人きりで話すチャンスが来るなんて、これは例の件を聞くしかないとアイクは気持ちが前のめりになる。

「ねえ、ガイと魔導士は夜ってどんな感じなの?どっちが上?」

 アイクはあえて、ガイが口にスープを入れたタイミングで問いかけた。ガイはけっこう照れ屋なのでこういう時は初手でペースを乱してから聞いた方がいい。長い付き合いの中でアイクが学んだガイの攻略法だ。驚いて吹き出すガイを想像していたのだが、アイクの想定に反してガイは慌てた様子はなく眉を顰めて目線をそらした。

「……そんなこと、アイクに言う必要ないだろ」

 予想外の反応にアイクは戸惑った。ガイがこんなに不機嫌なのは珍しい。ぷんぷんと腹を立てていることはよくある。たいていアイクか魔導士が何かした時だ。だから、この話題を振ったら「昼メシ時にそんな話をするなよな!」と声を荒げるだろうとは思っていたのだが……
 なぜか分からないがどうやら間が悪かったらしい。本当にガイを怒らせたいわけではないので、アイクは健全で楽しい未来の話題に話を変えることにした。

「えー、じゃあ、王都についてからどうする予定?」
「どうって?」
「ガイと魔道士も一緒に村に帰るだろ?」

 これからどうするつもりにしろ、一旦故郷には帰るだろう。それなら、ガイも恋人を両親に紹介したいだろうと問いかけるが、ただの確認の意味であって返答はイエスしか想定していなかった。無言のままのガイの表情に気付かず、アイクは伝えたいことのために話を続ける。

「王都についた後のことなんだけどさ。ファルンは神官になって各地を回りたいって言ってて、神官は同性愛禁止だけど今回の功績でなんとかならないか教会を説得しようかと思ってるんだ。それが決着ついてから村には帰ろうと思ってるんだけど」

 ガイたちがアイクたちと一緒に村に帰るつもりなら時間がかかるけど待ってくれるか?と確認をしようとしたのだが、その言葉を口に出す前にガイは無言のまま荒々しく席を立った。

「え、ガイ?どうした?」
「うるさいな!ほっといてくれ!」

 肩を尖らせて立ち去るガイの後ろ姿を見て、アイクは面食らって見送るしかできなかった。



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