勇者への片想いで闇堕ちして死んだら逆行してたので自分の恋は諦めます

冨士原のもち

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番外1 第二話


「アイク?どうしたんだ」
「……おかえり、ファルン」

 夕方、宿に戻ったファルンが見たのはアイクがベッドにうつ伏せで横たわっている姿だった。履いたままの靴の汚れがつかないように気は遣ったのか脛から下はベッドの枠からはみ出している。「ふて寝してます」と張り紙が貼られているかのような様相だ。ファルンがアイクの横に座るとアイクが起き上がったので、そんな有り様になっている理由を聞いた。
 
「なるほど、それでガイに怒られてへこんでるのか」
「別に、ガイが怒るのなんて良くあることだし」
「いつもと違うと分かっているから、そんな風になっているんだろう」
 
(アイクがこんなにへこんでいるのって前世含めて初めて見たかもな)

 前世と今世での違いは多々あるが、ファルンにとってもアイクにとっても実は一番大きな違いはガイの存在だ。前世でガイを含む村の他の子供達とは、仲が悪いとまではいかないが一定の距離があった。特に元々村で生まれたファルンと違って、アイクはファルンを通しての当たり障りのない関わりしかしてこなかった。
 それが今世ではガイは幼い頃からファルンとアイクを気にかけて関わってくれていた。当時から前世の記憶があったファルンと違い、前世の記憶がなく本当に子供だったアイクにとってはガイは一番の友だちだろう。ガイに対してアイクの態度が雑なのは信頼して甘えているからだ。村にいた頃アイクが自分よりもガイを頼っているように感じて、当時のファルンは嫉妬する気持ちを必死に見ないふりするくらいだったのだから。
 
「ちょっと下世話なことも聞いたけど、俺そんな悪いこと言ったかな?」

 ベッドに座ったアイクは不貞腐れたように足を揺らす。その子供っぽい態度にファルンは苦笑いがこぼれた。割と何事にも執着のないアイクがいじけて拗ねているのは微笑ましいのだが、今回はファルンも同罪なのでそんな余裕ではいられない。

「実はさ、私もさっき魔道士と偶然会って話したんだけど……」






 ファルンは街の病人に治癒魔法を施してから宿に帰っている途中、一人プラプラしている魔導士を見かけた。店を冷やかしている様子の魔導士に近づいてファルンは声を掛けた。

「何してるんだ?買い出し?」
「あ、神官さん。あれ?お仕事帰り?熱心だね~」

 魔導士は肩を竦めて呆れたような仕草をするがその声音は優しいので揶揄い半分に労わってくれているのが分かる。相変わらずフードで顔が隠れている割に感情表現が分かりやすくて感心する。ファルンは頷いて返事をしながら魔道士が覗いていた店の商品を見る。

「あ、そのお菓子って……」
「そういえば僕はこれ食べてなかったなって思い出して」

 魔道士と出会ってすぐ、二人で市場に行ったときに魔導士が買ってくれた雲みたいなお菓子だ。アイクの好物だからと持って帰って渡したことを思い出す。

「じゃあ、あの時のお返しに奢るよ」
「え~、いいの?ありがとう」
 
 購入した菓子とファルンは自分用に軽食も買って人気の少ない落ち着いた場所を探す。近くに河原があったので、そこに座り二人で小さな川を見ながらそれぞれ手元の食べ物を口に運ぶ。ファルンはそんなにおしゃべりではないし、魔導士も言いたいことははっきり言うが話したいことがないのに場をつなぐためだけに世間話をするタイプではない。互いに沈黙は苦にならないので居心地がいい。
 だが、ふと朝の話題を思い出してファルンはソワソワと落ち着かない気持ちになった。治癒の仕事ですっかり忘れていたが、このタイミングで偶然に魔導士と会ったのは運命かもしれない。ガイがいると照れて遮られてしまうようなことでも、魔導士なら教えてくれるかもしれないとファルンは考えた。

「ねえ、僕になにか聞きたいことでもあるの?」

 ちらちらと魔導士を見ていると、向こうから話を振られた。どうやらいつもと違うファルンの様子に気付いたようだ。改まって聞くには恥じらいもあったが、せっかく水を向けてくれたので思い切って聞いてみる。

「その、二人の話が聞きたいなって」

 二人というのが誰とのことを指すのか分かったのだろう。ほんのちょっと間をおいてから魔導士はニヤニヤと笑い始めた。

「え~、何が聞きたいの?夜の話?神官さんのえっち」
「え、いや、そんなつもりじゃ」

 そんなつもりじゃない、わけではないのでファルンは頬が熱くなるのを感じた。

「もう、勇者さんと神官さんは毎晩お楽しみなんだもんねぇ。しっとりしちゃって、見たらわかるんだから。このこの~」
「そんな、見てわかるわけないだろ!?」

 ニヤニヤしているがこれは嘘なのか本当なのか、前夜の影響が翌日にも見てわかるのだろうかとファルンは慌てる。いつもの魔導士ならここから無邪気な追撃がくるところなのだが、ファルンが視線をやると魔道士はファルンではなくどこか遠くを見ていた。
 
「魔導士?どうかしたか?」
「神官さんの期待に添えなくて残念だけど、僕らはヤってないよ。ガイにはさ、ちょっとハードルが高いと思って」
「ハードル……って」
「えー、何想像したの?ハードなプレイが好みなの?」
「なっ!」

 いつになく緩急をつけてくる魔導士のからかいに顔を赤くしながらもうこの話はやめてしまおうかと思ったファルンだが、魔導士がなんとなくいつもと違う気がして問うてみる。

「……魔導士、なにかを誤魔化そうとしてないか?」

 ファルンの言葉に魔導士は少しだけ考えるような間を取ったが、すぐにあっけらかんと衝撃の言葉を言い放った。

「んー、まあすぐ分かることだから言っちゃうけど、ついさっきガイと別れた」
「……え!?なんで」
「ガイは優しくて面倒見がいいだろ?流されて人生を決めちゃうのは良くないじゃん?」

(流されて……って、ガイが魔導士と付き合っていることか?)

 ガイは面倒見の良さに付随して控えめなところがある。なんだかんだ言いながら自分のことより他の人を優先するし、気を遣われると余計に気を遣ってしまう性格だ。だからなのか、ガイの母親からはじまりアイクや魔導士のようなマイペースでグイグイいくタイプがガイの周りには多い。けれどそれでガイが割りを食っているというわけではなく、逆にそういう相手の方が自分の意見もはっきり言えているように見える。ガイは押しの強い人といると方が飾らずいられて楽なのだろうとファルンは思っていた。
 確かにガイは優しいし流されやすいところはある。交際が始まるまでの魔導士の押しが強かったのはファルンも認めるところではあるが……

「なに?納得いってなさそうだね」
「そんならしくない理由では納得はできないだろう」

 そもそもの話、仮に本当にガイが流されてなんとなく付き合っているのだとしても魔導士は流されたってなんだってガイが手に入るならそんなことは気にしない性格だろう。

「うーん、神官さん言ってたじゃん。人間と聖獣では摂理が違うって。ここ最近、神官さんの言ってたことって本当だなぁって思い返してた」
「ちょ、待って何の話だ?」
「お菓子、ありがとう。王都に戻ったらまた教会に籠ることになるからさ。いい思い出になったよ」

 出会った当初にそんな話をした記憶があるが、なぜそれが今話題に出てくるのか分からない。驚くファルンを尻目に魔導士は食べ終わった菓子の棒をフラフラ振りながら立ち上がった。

「あの頃はうじうじしてるファルンの気持ちがわからなかったんだけどさ。ごめんねー。大事になるほど一歩が出ないものなんだね」

 へらっと謝って去っていく魔導士にファルンは何も言えなかった。結局魔導士がなぜガイと別れようと思ったのかはよく分からないままだ。だが、魔導士の最後の言葉を聞いて踏み込んだことが聞けなかった。魔導士の事情は知らないが、ファルンには愛するがゆえに臆病になる気持ちは痛いほどに分かるのだから。





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