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IFルート 絶望的な運命に立ち向かうダークファンタジー
IF早過ぎたラグナロク15話 主神2
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玉座の間で待ち構えていたのは、フレイアだった。
ここ何日か姿を見せず、消息が分からなかったので心配していたのだが、こうして無事に現れたということが何よりも嬉しい。彼女がいなくなって以来、神々の行方不明が相次ぐこの世界に、俺はただ1柱取り残されたような気分だったからだ。
「お帰りなさいませ、オーディン様」
優雅に頭を下げる彼女の姿は、以前と変わらない。純白の衣装をまとい、その流れるような緑の長髪がしっとりと揺れる。透き通るような肌と、柔らかな微笑み。俺の知っているフレイアだ。
「どこに行っていたのだ?」
問いかける声が、我ながら少し強い調子になってしまう。だが、フレイアは涼しい顔で答える。
「敵を追って、少し遠くまで行ってまいりました」
何でもないことのように言うが、消えた神々の中でも強者は多い。いったいどれほど遠くまで出向いていたのか気になるが、彼女が無事ならそれで良いと思える。
「倒せたのか?」
「はい、『私の敵』はきちんと仕留めました。ご安心を」
少しだけ強調された“私の敵”という言葉が耳に残る。それでも、いつもの柔らかな笑顔で答えられると、俺には疑う理由がない。フレイアの微笑みを見ると、胸の奥から安堵が広がる。
「おお、さすがフレイアだ。良くやった」
素直に称えると、彼女ははにかんだ笑みを浮かべる。いつもなら、それで俺の心はすっかり満たされる。だが――
「……しかし、敵を倒しても、いなくなった神々は帰ってこないな」
残された者はもう数えるほどしかいないのだ。俺の口から出たその嘆きに、フレイアは柔らかく答える。
「また、ここから始めれば良いのです。私達は生きているのですから」
そう言って優しく微笑む彼女を見て、やはり俺の隣にいるのはフレイアしかいないと改めて感じる。この世界がどれだけ荒廃しようとも、彼女がいれば何とか再建できる。
けれど、そこでふと気づく。フレイアの視線が、俺の愛槍――グングニル――にじっと注がれているのだ。いつもなら武器などにあまり興味を示さないはずなのに、なぜか目を奪われている。
「グングニルが気になるのか? 見慣れているだろう?」
俺が声をかけると、彼女ははっとしたように顔を上げ、言い訳めいた口調で口を開いた。
「……いえ、素晴らしい槍だと改めて思いまして」
その言葉に、俺は少し首をひねる。フレイアが武器の良さなど口にするのは珍しい。もっとも、この槍は必中の神槍として有名で、俺が最も誇りに思う武具だ。彼女が改めて評価してくれるなら、むしろ嬉しいことかもしれない。
「グングニルは俺の一番の自慢だからな。見惚れてしまうのもわかるぞ」
まるで我が子を褒められたかのように、俺は誇らしい気分になる。ここまで自信満々に語るのは久しぶりだ。彼女はほとんど興味を示したことのない武器の話に、深く頷いているように見える。
「その槍を私に見せてもらえませんか?」
彼女はすっと手を伸ばす。俺は何の警戒心もなく、快く槍を渡してやった。疑う必要はないだろう。
フレイアは両手でそれを受け取るが、見た目の優雅さとは裏腹に、さすがにこの大きく重い槍は扱いづらいようだ。
「重っ! ……ちなみに、この槍は私にも使えるでしょうか?」
顔をしかめる仕草さえ絵になってしまうのがフレイアの美しさではあるが、そんな彼女に槍は似合わない、と俺は思う。やや苦笑して答える。
「無理だな。所有者以外には使用できないようになっている。つまり、俺以外に扱うことはできないのだ」
そう説明すると、彼女は一瞬がっかりしたように見えた。わずかに妖しげな光を帯びた目――見間違いだと思いたいが、次の一言で胸が少しざわつく。
「オーディン様が誰かに殺された場合はどうなるのでしょう?」
「……殺した者に所有権が移るだろうな」
縁起でもない話だと思いつつ、事実なので曖昧にできない。俺が答えるや否や、フレイアは満面の笑みを浮かべたあと、「それは良かった……じゃなくて、そうならないといいですね」 と付け足す。
さすがに奇妙だ、と思わなくもない。が、彼女は疲れているのかもしれないし、聞き違いだったのかもしれない。そう自分に言い聞かせるようにして、俺は大きく胸を張った。
「当然だ。俺は無敵だからな」
彼女も俺を褒めるときは、「オーディン様は最強の戦士」と言ってくれる。だからこそ、今ここで俺が深く考える必要はない――そう思ってしまう自分がいる。
「オーディン様、折り入って相談が」
急に深刻そうな表情で切り出すフレイア。これは、ただごとではないかもしれない。
「ほう、何だ?」
余程のことだろうと身構える俺に、彼女は神妙な顔で続けた。
「ここでは何ですから、玉座でお話しましょう。主神たるもの、立ち話などされては威厳を損ねますからね」
細かい気配りができるのもフレイアの長所だ。
彼女はなぜかグングニルを床に置き、俺を玉座の方へ促す。
「おい、俺の槍をもっと大事に扱ってくれ」
少し焦って注意するが、彼女は聞こえていないかのように笑顔を保つ。
「オーディン様、早く、早く」
まるでベッドへ誘うときのしぐさと声色。2柱でいられる喜びが胸を熱くする。他に誰もいない静かな城の中、俺が彼女を求めてしまうのは当然かもしれない。
俺はどかっと玉座に腰を下ろす。フレイアが隣で微笑む姿を想像するだけで、心臓が高鳴ってくる。だが、彼女の瞳にはどこか冷たい光があり、ほんの少しだけ不安が胸をかすめる。
「目を閉じてください。全て私にお任せください」
甘く囁かれると、その疑問も霧散してしまう。彼女は普段からこうして俺を虜にしてきたのだし、それは決して悪いことじゃない――そう思い、目を閉じる。
だが、閉じる直前、フレイアの手に剣らしき武器が見えた気がした。彼女がこんな武器をどこで手に入れたのか……疑念がわく。
「……フレイア、その剣はどこで手に入れたのだ? 見かけぬ形をしているが……」
問いかけつつ、俺はこっそり薄目を開けて彼女の動きを盗み見る。そして、瞬時に背筋が凍りつく。
剣を振りかぶり、俺を襲おうとしている——それは、見慣れたフレイアの姿でありながら、まるで別人のような殺気をまとっていた。
「何をする!?」
叫ぶより早く、俺は玉座から転がるように飛び降りる。だが、その一瞬の回避では少し手遅れだった。
左腕が斬り飛ばされる鋭い感触。想像を絶する激痛が神経を焼き、俺は床を転げながら息を呑む。かつて幾多の戦場で戦ってきたが、これほどの傷は初めてだ。
「フレイア、血迷ったか!?」
痛みに耐えつつ立ち上がり、斬られた左腕の傷口を押さえる。そこには、先ほどまで優しく微笑んでいたはずのフレイアが、恐るべき冷酷な表情を浮かべていた。
「あら、避けたの? 苦しまずに死なせてあげようと思ったのに」
その口調はフレイアの穏やかさとはまるで違い、まるで牙をむき出しにした猛獣のようだ。俺は戦慄を覚えつつ叫ぶ。
「貴様、フレイアではないな?」
すると、彼女の唇が妖しい笑みを描き、身体の輪郭がゆらりと歪む。
「ふふふ、あなたで最後だし、少しだけ遊んであげましょうか」
次の瞬間、フレイアの姿が剥がれ落ちるように散り、小柄な黒髪の女へと変わる。彼女が着ている民族衣装は見覚えがなかった。
「何者だ? やはり魔族なのか?」
俺は焦燥と痛みに苛まれながら周囲を見回す。グングニルの槍は入口付近に置かれたまま。そこまで20歩もないかもしれないが、俺は左腕を失い、血が止まらない状態だ。到達するのは難しい。
「……あなた、本当に3級神に興味がないのね。前に謁見したでしょう? ノルンと一緒に。3級神のエリカよ」
エリカ? まるで記憶にない名だ。俺は3級神の名前など覚えていない。
だが、そもそもこんな邪悪な女神がいるはずがない——そう思うが、彼女はあくまで不敵な笑みを湛えている。
「貴様のような女神がいるか! 魔族め、卑怯だぞ!」
声を張りながら、少しずつ槍の方へじりじりと近づく。彼女も気づいたのか、剣のような武器を構えてこちらににじり寄ってくる。
「命のやり取りに、卑怯も何もないでしょう? 勝てばいいのよ、勝てば」
その言葉にゾッとする。フレイアが言うはずもない冷酷な理屈が、エリカの口から漏れ出す。
しかし、こちらは武器なし。正面からやり合うのは無謀だ。それでも、俺は戦士としての本能に賭ける。
「今だ!」
大声で威嚇し、全速力で槍に向かって駆ける。血が滴り落ちる床を滑るように蹴り、痛む体を無理やり動かす。敵も一瞬怯んだようだが、すぐに追ってくる。
俺の足は敵よりも長い。走力では勝てるはず——そう思った瞬間、首筋に嫌な寒気。斬られる、と直感し、無理やり上半身を沈めると、かろうじて斬撃を避けることができた。
(危ないところだった!)
息をつきながら、さらに数歩駆ける。手を伸ばせば、グングニルはもうすぐそこだ。これで逆転できる——そう思った瞬間、敵の姿がなぜか目の前に現れる。
「残念でしたー」
楽しげな声とともに、俺の腹に剣のような武器が突き刺さる。激痛に意識が遠のきそうになった。
「ば、ばかな……」
瞬間移動。フレイアの能力だったものを、この魔族が使うというのか。体の奥が凍りそうな恐怖を感じるが、ここで負けるわけにはいかない。
「なめるな!」
右腕だけを頼りに、渾身の力で敵の身体を殴り飛ばす。剣は腹に刺さったままだが、それでも敵と距離をあけることに成功した。
荒い呼吸を整えながら、俺は床に転がっているグングニルを拾い上げる。右腕のみで投げるのは辛いが、これは必中の神槍。当てるのは槍自体がやってくれる。
「くらえっ! グングニル!」
声を絞り出して放たれた槍は正確に敵を狙う。エリカは瞬間移動を繰り返し避けようとするが、その度に槍はその後を追っていった。その攻防を無数に繰り返した後、彼女は残念そうな声を上げる。
「はあ、仕方ない……我慢するしかないようね……」
俺の10歩前に出現し、彼女は諦めたように棒立ちになる。そして、グングニルはその腹を容赦なく深々と貫いた。立ったまま、大量の黒い血が床を濡らし、ついにエリカの動きは止まる。
「やったか?」
ここ何日か姿を見せず、消息が分からなかったので心配していたのだが、こうして無事に現れたということが何よりも嬉しい。彼女がいなくなって以来、神々の行方不明が相次ぐこの世界に、俺はただ1柱取り残されたような気分だったからだ。
「お帰りなさいませ、オーディン様」
優雅に頭を下げる彼女の姿は、以前と変わらない。純白の衣装をまとい、その流れるような緑の長髪がしっとりと揺れる。透き通るような肌と、柔らかな微笑み。俺の知っているフレイアだ。
「どこに行っていたのだ?」
問いかける声が、我ながら少し強い調子になってしまう。だが、フレイアは涼しい顔で答える。
「敵を追って、少し遠くまで行ってまいりました」
何でもないことのように言うが、消えた神々の中でも強者は多い。いったいどれほど遠くまで出向いていたのか気になるが、彼女が無事ならそれで良いと思える。
「倒せたのか?」
「はい、『私の敵』はきちんと仕留めました。ご安心を」
少しだけ強調された“私の敵”という言葉が耳に残る。それでも、いつもの柔らかな笑顔で答えられると、俺には疑う理由がない。フレイアの微笑みを見ると、胸の奥から安堵が広がる。
「おお、さすがフレイアだ。良くやった」
素直に称えると、彼女ははにかんだ笑みを浮かべる。いつもなら、それで俺の心はすっかり満たされる。だが――
「……しかし、敵を倒しても、いなくなった神々は帰ってこないな」
残された者はもう数えるほどしかいないのだ。俺の口から出たその嘆きに、フレイアは柔らかく答える。
「また、ここから始めれば良いのです。私達は生きているのですから」
そう言って優しく微笑む彼女を見て、やはり俺の隣にいるのはフレイアしかいないと改めて感じる。この世界がどれだけ荒廃しようとも、彼女がいれば何とか再建できる。
けれど、そこでふと気づく。フレイアの視線が、俺の愛槍――グングニル――にじっと注がれているのだ。いつもなら武器などにあまり興味を示さないはずなのに、なぜか目を奪われている。
「グングニルが気になるのか? 見慣れているだろう?」
俺が声をかけると、彼女ははっとしたように顔を上げ、言い訳めいた口調で口を開いた。
「……いえ、素晴らしい槍だと改めて思いまして」
その言葉に、俺は少し首をひねる。フレイアが武器の良さなど口にするのは珍しい。もっとも、この槍は必中の神槍として有名で、俺が最も誇りに思う武具だ。彼女が改めて評価してくれるなら、むしろ嬉しいことかもしれない。
「グングニルは俺の一番の自慢だからな。見惚れてしまうのもわかるぞ」
まるで我が子を褒められたかのように、俺は誇らしい気分になる。ここまで自信満々に語るのは久しぶりだ。彼女はほとんど興味を示したことのない武器の話に、深く頷いているように見える。
「その槍を私に見せてもらえませんか?」
彼女はすっと手を伸ばす。俺は何の警戒心もなく、快く槍を渡してやった。疑う必要はないだろう。
フレイアは両手でそれを受け取るが、見た目の優雅さとは裏腹に、さすがにこの大きく重い槍は扱いづらいようだ。
「重っ! ……ちなみに、この槍は私にも使えるでしょうか?」
顔をしかめる仕草さえ絵になってしまうのがフレイアの美しさではあるが、そんな彼女に槍は似合わない、と俺は思う。やや苦笑して答える。
「無理だな。所有者以外には使用できないようになっている。つまり、俺以外に扱うことはできないのだ」
そう説明すると、彼女は一瞬がっかりしたように見えた。わずかに妖しげな光を帯びた目――見間違いだと思いたいが、次の一言で胸が少しざわつく。
「オーディン様が誰かに殺された場合はどうなるのでしょう?」
「……殺した者に所有権が移るだろうな」
縁起でもない話だと思いつつ、事実なので曖昧にできない。俺が答えるや否や、フレイアは満面の笑みを浮かべたあと、「それは良かった……じゃなくて、そうならないといいですね」 と付け足す。
さすがに奇妙だ、と思わなくもない。が、彼女は疲れているのかもしれないし、聞き違いだったのかもしれない。そう自分に言い聞かせるようにして、俺は大きく胸を張った。
「当然だ。俺は無敵だからな」
彼女も俺を褒めるときは、「オーディン様は最強の戦士」と言ってくれる。だからこそ、今ここで俺が深く考える必要はない――そう思ってしまう自分がいる。
「オーディン様、折り入って相談が」
急に深刻そうな表情で切り出すフレイア。これは、ただごとではないかもしれない。
「ほう、何だ?」
余程のことだろうと身構える俺に、彼女は神妙な顔で続けた。
「ここでは何ですから、玉座でお話しましょう。主神たるもの、立ち話などされては威厳を損ねますからね」
細かい気配りができるのもフレイアの長所だ。
彼女はなぜかグングニルを床に置き、俺を玉座の方へ促す。
「おい、俺の槍をもっと大事に扱ってくれ」
少し焦って注意するが、彼女は聞こえていないかのように笑顔を保つ。
「オーディン様、早く、早く」
まるでベッドへ誘うときのしぐさと声色。2柱でいられる喜びが胸を熱くする。他に誰もいない静かな城の中、俺が彼女を求めてしまうのは当然かもしれない。
俺はどかっと玉座に腰を下ろす。フレイアが隣で微笑む姿を想像するだけで、心臓が高鳴ってくる。だが、彼女の瞳にはどこか冷たい光があり、ほんの少しだけ不安が胸をかすめる。
「目を閉じてください。全て私にお任せください」
甘く囁かれると、その疑問も霧散してしまう。彼女は普段からこうして俺を虜にしてきたのだし、それは決して悪いことじゃない――そう思い、目を閉じる。
だが、閉じる直前、フレイアの手に剣らしき武器が見えた気がした。彼女がこんな武器をどこで手に入れたのか……疑念がわく。
「……フレイア、その剣はどこで手に入れたのだ? 見かけぬ形をしているが……」
問いかけつつ、俺はこっそり薄目を開けて彼女の動きを盗み見る。そして、瞬時に背筋が凍りつく。
剣を振りかぶり、俺を襲おうとしている——それは、見慣れたフレイアの姿でありながら、まるで別人のような殺気をまとっていた。
「何をする!?」
叫ぶより早く、俺は玉座から転がるように飛び降りる。だが、その一瞬の回避では少し手遅れだった。
左腕が斬り飛ばされる鋭い感触。想像を絶する激痛が神経を焼き、俺は床を転げながら息を呑む。かつて幾多の戦場で戦ってきたが、これほどの傷は初めてだ。
「フレイア、血迷ったか!?」
痛みに耐えつつ立ち上がり、斬られた左腕の傷口を押さえる。そこには、先ほどまで優しく微笑んでいたはずのフレイアが、恐るべき冷酷な表情を浮かべていた。
「あら、避けたの? 苦しまずに死なせてあげようと思ったのに」
その口調はフレイアの穏やかさとはまるで違い、まるで牙をむき出しにした猛獣のようだ。俺は戦慄を覚えつつ叫ぶ。
「貴様、フレイアではないな?」
すると、彼女の唇が妖しい笑みを描き、身体の輪郭がゆらりと歪む。
「ふふふ、あなたで最後だし、少しだけ遊んであげましょうか」
次の瞬間、フレイアの姿が剥がれ落ちるように散り、小柄な黒髪の女へと変わる。彼女が着ている民族衣装は見覚えがなかった。
「何者だ? やはり魔族なのか?」
俺は焦燥と痛みに苛まれながら周囲を見回す。グングニルの槍は入口付近に置かれたまま。そこまで20歩もないかもしれないが、俺は左腕を失い、血が止まらない状態だ。到達するのは難しい。
「……あなた、本当に3級神に興味がないのね。前に謁見したでしょう? ノルンと一緒に。3級神のエリカよ」
エリカ? まるで記憶にない名だ。俺は3級神の名前など覚えていない。
だが、そもそもこんな邪悪な女神がいるはずがない——そう思うが、彼女はあくまで不敵な笑みを湛えている。
「貴様のような女神がいるか! 魔族め、卑怯だぞ!」
声を張りながら、少しずつ槍の方へじりじりと近づく。彼女も気づいたのか、剣のような武器を構えてこちらににじり寄ってくる。
「命のやり取りに、卑怯も何もないでしょう? 勝てばいいのよ、勝てば」
その言葉にゾッとする。フレイアが言うはずもない冷酷な理屈が、エリカの口から漏れ出す。
しかし、こちらは武器なし。正面からやり合うのは無謀だ。それでも、俺は戦士としての本能に賭ける。
「今だ!」
大声で威嚇し、全速力で槍に向かって駆ける。血が滴り落ちる床を滑るように蹴り、痛む体を無理やり動かす。敵も一瞬怯んだようだが、すぐに追ってくる。
俺の足は敵よりも長い。走力では勝てるはず——そう思った瞬間、首筋に嫌な寒気。斬られる、と直感し、無理やり上半身を沈めると、かろうじて斬撃を避けることができた。
(危ないところだった!)
息をつきながら、さらに数歩駆ける。手を伸ばせば、グングニルはもうすぐそこだ。これで逆転できる——そう思った瞬間、敵の姿がなぜか目の前に現れる。
「残念でしたー」
楽しげな声とともに、俺の腹に剣のような武器が突き刺さる。激痛に意識が遠のきそうになった。
「ば、ばかな……」
瞬間移動。フレイアの能力だったものを、この魔族が使うというのか。体の奥が凍りそうな恐怖を感じるが、ここで負けるわけにはいかない。
「なめるな!」
右腕だけを頼りに、渾身の力で敵の身体を殴り飛ばす。剣は腹に刺さったままだが、それでも敵と距離をあけることに成功した。
荒い呼吸を整えながら、俺は床に転がっているグングニルを拾い上げる。右腕のみで投げるのは辛いが、これは必中の神槍。当てるのは槍自体がやってくれる。
「くらえっ! グングニル!」
声を絞り出して放たれた槍は正確に敵を狙う。エリカは瞬間移動を繰り返し避けようとするが、その度に槍はその後を追っていった。その攻防を無数に繰り返した後、彼女は残念そうな声を上げる。
「はあ、仕方ない……我慢するしかないようね……」
俺の10歩前に出現し、彼女は諦めたように棒立ちになる。そして、グングニルはその腹を容赦なく深々と貫いた。立ったまま、大量の黒い血が床を濡らし、ついにエリカの動きは止まる。
「やったか?」
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