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2.少女
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マサルと一緒に少女のもとへと駆け寄った。周りには野次馬の輪ができつつあった。
少女をよく見てみるとうちの制服のようだった。
くたびれた中年男性が鼻から血を出しながら喚き散らしている。
「この子娘にやられたんだ! こんなに血が…どうしてくれるんだっあぁ?!」
キーンとするような大声で中年男性は叫んだ。
少女は答えずに泣いているようだ。制服に付いている血もこの男性のものらしい。
「あんたが痴漢してたんじゃないの! あたしゃ見てたんだからね!!」
野次馬の中から中年オバサンの怒号が響く。
「うるせぇババア! んなもん証拠になるか!!!」
「まぁまぁ、オジサン落ち着きなよ」
柔らかく言いつつ逃走経路を塞ぐように立つマサル。
「私らも見たよ!」
「その子が嫌がった時に鞄が当たってたよね」
周りの野次馬からも目撃証言が続々と出てくる。
「大人しくしてようかオジサン」
マサルがオヤジの肩に手を回す。
「口は笑っているのに目が笑ってないな…」
「俺はいつもこんな顔やで?」
「そ、そうなんだ。とりあえず駅員さんに渡さないと」
「がぁぁぁ!! 小僧ども! 許さんぞ!!」
「はいはい、加減するのは苦手なんや。暴れるな!!」
急に大声を出すマサルに思わずオヤジ共々ビクッとなってしまった。
駅員が来るまで時間でいうと5分足らずだったのだろうが、こういう時は長く感じてしまう。ボクシングの1ラウンド3分が短いと思っていた事を反省した。
駅員さんが来るとオヤジと少女は連れていかれてしまった。
去り際に顔を覆った手の隙間から少女がこちらを見ているような気がしたが、気のせいだろう。
「…。」
「あぁー、疲れた。なんか緊張して汗やばいんやけど」
「え、マサル落ち着いて見えたけど」
「俺、本当にアガリ症なんよ。コウはな、話しやすいからな。」
「タケルとはどうやって仲良くなったの?同じ中学じゃないんでしょ?」
不意に自分のことを言われ思わずタケルの話題を出す。
「タケルはなぁ、変わってるよな。ゲーム屋で新作見てたら話しかけてきたんよ。そのまま自然な流れで友達になってた。お互い制服着てたから同じ学校ってわかってたのかなあいつ」
「タケルすげーな。コミュ力の塊かよ!友達多そう」
つい最近の事なのだが、自分とタケルとの出会いをふと思い出した。
「それがな、意外とそうでもないらしいんや。深入りしないのがポリシーとかなんとか」
やっぱり変わってる、と思いながらタケルと合流しようと探してたその時
『電車出るから先に帰るわ。また明日な』
グループチャットに表示されたメッセージを見てマサルが溜息をついたのだった。
翌日、後ろの席のタケルが話しかけてきた。
「今季のアニメ面白いのが多くてさ、OPの曲もいいんだよな。」
眠そうにタケルがしているのでこちらまで眠くなってくる。
「おはよう。そうなの? CD買ったら貸してな。てか昨日の駅凄かったぞ痴漢」
「朝マサルから聞いたわ。一時の性欲で人生終わるとか怖い怖い、おっとおはよ」
タケルはそう言いつつも、興味無さげである。
そういえばどうなったかな被害者の女の子。うちの学校だったよな確か。でも顔とか全然わからなかったな。
元気でやってるといいなと勝手に親のような気分でいるのだった。
お昼休みにマサルがお弁当箱を持ってやって来た。
いつにも増してニコニコして見える。やっぱり昨日はマサルなりに緊張していたのだろうか。
「お昼食べに来た。席貸してな~」
恐らく空いているだろう椅子に座りながら仲良く3人でランチタイム。
スマホゲームの話で盛り上がる。
「俺は家庭用ゲーム機のが好きだ!!」
タケルが珍しく感情的に言う。
「まぁまぁ、人それぞれだしな。ちなみにスマホゲーだとこれとかオススメだよ」
自分のスマホを差し出す。微課金したアプリゲームのデータを開いた。
「ほんとやな、俺も入れようかな」
「お、なにこれ。面白そうじゃん!」
マサルが入れるというので、タケルも気になり始めたようだ。
「少女育成バトルゲーかぁ、男は皆育成好きだろ」
「えっそれはどうだろ…」
「タケル怖えーわ!」
「変な意味はないぞ!」
盛り上がっているところに、予鈴が鳴った。昼休み終了の合図みたいなものだ。
僕は先に席を立ち、午後からの辛い勉学に立ち向かう為のお供としての乳飲料を自販機まで買いに行くことにした。
僕は結構甘党なので自販機をよく利用する。プリンを液体にしたようなジュースを購入した時は、タケルが珍しく目を見開いて驚嘆していた。
そのジュースを買う人がいるんだな、初めて見たよと小声で呟いていた。
僕はそんな皮肉めいた呟きを気にすることもなく、むしろこのジュースの美味しさを知らないなんてもったいないねという気持ちと、タケルもこれを飲んでみたらいいのにというサブリミナルメッセージを半強制的に行っているのだった。
自販機エリアまで辿り着き、今日は何にしようかなと心踊っていると
「そこの少年よ」
自販機エリアの外側から少女が覗き込んでいる。
「どうかしました?」
「その様子だと君も分かってないか。先日はどうもありがとう。」
高校生にしては幼い声、黒髪ロングで前髪は左右に流している。人形みたいというよくある形容詞が当てはまるような。
「何の事か覚えがないんだけど、人違いじゃない?」
そう言うと少女は覗き込んでいた体を起こし僕の前に制服姿で(当たり前だが)現れた。
あれ、なんかこの子…
「君は察しが悪いんだな。と言っても小原くんも同じようなリアクションだったかな」
なんか僕より背が高い?!
僕よりというより学年の中でも5本の指に入りそうだ。そして小原ってマサルか?とすると
「もしかして、痴漢の子?」
「痴漢の子とか言うな! 私が痴漢したみたいだろ? まぁ、あの時助けてくれてありがとう」
この時、この少女と長い付き合いになるとはまだ僕は思っていないのであった。
少女をよく見てみるとうちの制服のようだった。
くたびれた中年男性が鼻から血を出しながら喚き散らしている。
「この子娘にやられたんだ! こんなに血が…どうしてくれるんだっあぁ?!」
キーンとするような大声で中年男性は叫んだ。
少女は答えずに泣いているようだ。制服に付いている血もこの男性のものらしい。
「あんたが痴漢してたんじゃないの! あたしゃ見てたんだからね!!」
野次馬の中から中年オバサンの怒号が響く。
「うるせぇババア! んなもん証拠になるか!!!」
「まぁまぁ、オジサン落ち着きなよ」
柔らかく言いつつ逃走経路を塞ぐように立つマサル。
「私らも見たよ!」
「その子が嫌がった時に鞄が当たってたよね」
周りの野次馬からも目撃証言が続々と出てくる。
「大人しくしてようかオジサン」
マサルがオヤジの肩に手を回す。
「口は笑っているのに目が笑ってないな…」
「俺はいつもこんな顔やで?」
「そ、そうなんだ。とりあえず駅員さんに渡さないと」
「がぁぁぁ!! 小僧ども! 許さんぞ!!」
「はいはい、加減するのは苦手なんや。暴れるな!!」
急に大声を出すマサルに思わずオヤジ共々ビクッとなってしまった。
駅員が来るまで時間でいうと5分足らずだったのだろうが、こういう時は長く感じてしまう。ボクシングの1ラウンド3分が短いと思っていた事を反省した。
駅員さんが来るとオヤジと少女は連れていかれてしまった。
去り際に顔を覆った手の隙間から少女がこちらを見ているような気がしたが、気のせいだろう。
「…。」
「あぁー、疲れた。なんか緊張して汗やばいんやけど」
「え、マサル落ち着いて見えたけど」
「俺、本当にアガリ症なんよ。コウはな、話しやすいからな。」
「タケルとはどうやって仲良くなったの?同じ中学じゃないんでしょ?」
不意に自分のことを言われ思わずタケルの話題を出す。
「タケルはなぁ、変わってるよな。ゲーム屋で新作見てたら話しかけてきたんよ。そのまま自然な流れで友達になってた。お互い制服着てたから同じ学校ってわかってたのかなあいつ」
「タケルすげーな。コミュ力の塊かよ!友達多そう」
つい最近の事なのだが、自分とタケルとの出会いをふと思い出した。
「それがな、意外とそうでもないらしいんや。深入りしないのがポリシーとかなんとか」
やっぱり変わってる、と思いながらタケルと合流しようと探してたその時
『電車出るから先に帰るわ。また明日な』
グループチャットに表示されたメッセージを見てマサルが溜息をついたのだった。
翌日、後ろの席のタケルが話しかけてきた。
「今季のアニメ面白いのが多くてさ、OPの曲もいいんだよな。」
眠そうにタケルがしているのでこちらまで眠くなってくる。
「おはよう。そうなの? CD買ったら貸してな。てか昨日の駅凄かったぞ痴漢」
「朝マサルから聞いたわ。一時の性欲で人生終わるとか怖い怖い、おっとおはよ」
タケルはそう言いつつも、興味無さげである。
そういえばどうなったかな被害者の女の子。うちの学校だったよな確か。でも顔とか全然わからなかったな。
元気でやってるといいなと勝手に親のような気分でいるのだった。
お昼休みにマサルがお弁当箱を持ってやって来た。
いつにも増してニコニコして見える。やっぱり昨日はマサルなりに緊張していたのだろうか。
「お昼食べに来た。席貸してな~」
恐らく空いているだろう椅子に座りながら仲良く3人でランチタイム。
スマホゲームの話で盛り上がる。
「俺は家庭用ゲーム機のが好きだ!!」
タケルが珍しく感情的に言う。
「まぁまぁ、人それぞれだしな。ちなみにスマホゲーだとこれとかオススメだよ」
自分のスマホを差し出す。微課金したアプリゲームのデータを開いた。
「ほんとやな、俺も入れようかな」
「お、なにこれ。面白そうじゃん!」
マサルが入れるというので、タケルも気になり始めたようだ。
「少女育成バトルゲーかぁ、男は皆育成好きだろ」
「えっそれはどうだろ…」
「タケル怖えーわ!」
「変な意味はないぞ!」
盛り上がっているところに、予鈴が鳴った。昼休み終了の合図みたいなものだ。
僕は先に席を立ち、午後からの辛い勉学に立ち向かう為のお供としての乳飲料を自販機まで買いに行くことにした。
僕は結構甘党なので自販機をよく利用する。プリンを液体にしたようなジュースを購入した時は、タケルが珍しく目を見開いて驚嘆していた。
そのジュースを買う人がいるんだな、初めて見たよと小声で呟いていた。
僕はそんな皮肉めいた呟きを気にすることもなく、むしろこのジュースの美味しさを知らないなんてもったいないねという気持ちと、タケルもこれを飲んでみたらいいのにというサブリミナルメッセージを半強制的に行っているのだった。
自販機エリアまで辿り着き、今日は何にしようかなと心踊っていると
「そこの少年よ」
自販機エリアの外側から少女が覗き込んでいる。
「どうかしました?」
「その様子だと君も分かってないか。先日はどうもありがとう。」
高校生にしては幼い声、黒髪ロングで前髪は左右に流している。人形みたいというよくある形容詞が当てはまるような。
「何の事か覚えがないんだけど、人違いじゃない?」
そう言うと少女は覗き込んでいた体を起こし僕の前に制服姿で(当たり前だが)現れた。
あれ、なんかこの子…
「君は察しが悪いんだな。と言っても小原くんも同じようなリアクションだったかな」
なんか僕より背が高い?!
僕よりというより学年の中でも5本の指に入りそうだ。そして小原ってマサルか?とすると
「もしかして、痴漢の子?」
「痴漢の子とか言うな! 私が痴漢したみたいだろ? まぁ、あの時助けてくれてありがとう」
この時、この少女と長い付き合いになるとはまだ僕は思っていないのであった。
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