転生令嬢はもっとゆめかわいいをお望み

しおだだ

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「クロフォード家?…ああそういえば、奥方が流産してから隠りきりという話を聞いたことがあったな」


レイラは父にハンナから聞いた話を報告していた。


「でもそれでどうしようか?クロフォード家の位を返上させる?私はもう貴族位を剥奪するのはごめんだよ」

「そうですよね……」


いくらモンタールド侯爵でも、そう何回も他家の貴族位を奪っていたら顰蹙だ。


「貴族の生活が重荷だからと簡単に手放せるものでもないんだよ。一度受け取った褒賞を返すことも、もらった褒賞に文句を言うことも、国王陛下に対する反逆に値するからね」

だからこそいままでなにも言えなかったんだろうけど、と父は言う。


「レイラはどうしたい?」

「わたくしは…」


レイラは考える。

ハンナは、両親らが心得もわからないまま貴族になってしまったのが不幸のはじまりだと思っているようだった。
でもレイラだったら、貴族の誇りも、令嬢としての矜持も、淑女としての嗜みも伝えることができる。ブノワトのような私利私欲に走ることもなく。


あら、わたくし結構適任じゃない?


「ハンナが了承してくれればですけど――」


「うん。私の出る幕はないね。ルチアーノくんとよく話をして、自分たちの思う通りにやりなさい。もちろん、困ったときには手を貸すけどね」



***
「ハンナと和解したって?」


顔を見るなり、アドリアンは挨拶もなくそう言った。


「さすがお耳がはやいですね」

「やだな、ルチアーノから報告を受けたんだ」


レイラはちらりと王子を見上げる。
彼は今日ももちろん夜色だ。なんだか空色の王子様が懐かしくなる。

レイラの後をアドリアンが追いかける形で朝のカフェテリアを訪れると。


「あら」


むっすりと不機嫌顔のルチアーノと口を尖らせたハンナが、別々のテーブルに背中合わせで座っていた。
周囲はちらちらと二人を気にしていて、そこへレイラとアドリアンが現れたものだからざわりと大きくどよめいた。

そうだろう。先日なにやら揉めていた4人が勢揃いしているのだ。


レイラは構わず歩を進める。


「おはよう、ルチアーノ様」

「レイラおはよう。どうしてアドリアンと一緒なんだ?」

「ご挨拶だな、ルチアーノ」


「おはよう、ハンナ。やっと来てくれたのね」

「おはよう。ええ、レイラに会いに」

「現金なものだね、ハンナ嬢」


レイラがにこりと微笑むと、ルチアーノは訝しげに、ハンナは逆にぱあっと顔を輝かせる。
王子の皮肉は聞き流しましょう。


ルチアーノの話によると、サルヴァティーニ家の馬車とクロフォード家の馬車は、登校時間が重なることがよくあるらしい。入学当初からルチアーノとハンナがよく一緒にいたのは、単に偶然によるものだったとか。


「毎朝いつも同じ時間に会うとか、結構ド定番だと思うけど……」

「レイラ?」

「ううん、なんでもないわ」


レイラが疑わなくても、ルチアーノとハンナの間に流れる空気はぎすぎすとげとげしている。


「ルチアーノ様のご尊顔なんて見たくて見てるわけじゃないのよ」

「なっ、こっちこそ!」


身分差があるため周囲を気にして小声で言い争っているが、その様子はなんだか兄妹の喧嘩のよう。


「ふふっ」

伸ばした指先でハンナの桃色の髪を撫でると、すぐに抗議の声が上がった。

「レイラ、なんでハンナの頭を撫でるんだ!」

…ああもう、おかしいんだから。
思わず笑ってしまう。


それからすぐにエマとイリスがやって来た。
彼女たちは、諍うルチアーノとハンナ、そしてそれをにこにこと眺めているレイラを見て目を丸くする。


「ちょっと、なにがどうなってるの…?」


その疑問は至極まっとうなものだ、とアドリアンは腕を組んで頷いた。


「…先日の件はささいな釦の掛け違いよ。きちんと話をして誤解も解いたし、謝罪も受けたわ。それ以上もそれ以下もないの」


レイラの言葉に、最後にやってきたリーサが頷く。


「そうね。こういったことは下手に外野を巻き込むと余計にややこしくなるもの。『なかったこと』にするのが一番かもね」


「迷惑をかけてごめんなさい」


ハンナは彼女たちにも謝った。アドリアンにも。

しょんぼりとした顔がうさぎみたいでかわいらしい、とレイラはくすりと笑った。


「ハンナ、わたくしから提案があるのだけど」

「え?」

「ブノワトが頼まれていたあなたの淑女教育、わたくしに任せてくれないかしら?」


レイラの言葉に、エマたちが「え、どういうこと?」と疑問を浮かべる。


「それからあなたたちにもお願いがあって」


レイラはそんなエマたちにも問いかけた。


「わたくしのお茶会にハンナも誘っていいかしら?」


「え…?それは、レイラの主催ですもの」

「ええ。レイラが招待したいなら、」

「いいんじゃないかしら?」


レイラが主催するお茶会だ。いつも決まったメンバーではあるが、本来誰を誘おうがレイラの自由である。

友人たちが困惑しながらも頷いたのを見て、レイラは「ありがとう」と微笑んだ。


「ハンナ、わたくしのお茶会に来てくれないかしら?」

「えっと、でも…。わたし、作法なんてまったくわからないし」

「それを教えるのよ。わたくしの個人的なお茶会なら不安も少ないでしょう?」


レイラはハンナの両手をとり正面から微笑む。美しい、だが有無を言わさぬ強い視線で。


「…もちろん、そのお茶会にはぼくも誘ってもらえるんだろう?」

「オレも行きたーい!」


横から割り込んできたルチアーノとアドリアンの言葉に、レイラはやれやれと頷いた。


「……仕方ないわね」


し、仕方ないだって!?とルチアーノは衝撃を受けている。…やだ、なんかごめんなさい。
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