転生令嬢はもっとゆめかわいいをお望み

しおだだ

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レイラとブノワトの間に火花が散る。


「なんなの、あなた!よくモンタールド邸に顔が出せたわね!?」

「あら、私には招待状があるのよ?」

「それはハンナに渡したものよ!」

「だから、ハンナのものはわたしのものって言ったじゃない」


ふんと高飛車に笑うブノワトに、レイラはぐっと拳を握る。


「…ブノワトは本当に相手の怒りを煽るのがうまいです」

マリーは不快そう眉を寄せて、隣に立つロイドの袖をきゅうと握る。


「ノア、どうしてブノワトを屋敷にいれたんだ?」

「申し訳ございません。招待状があると表で騒ぐので、致し方なく」

「レイラのパーティーが台無しになる前にお引き取り願おう」

「御意」

トマとノアの間で話が進む。


「来たわねえ、ブノワト」

「ハンナはどうしてるかしら?レイラに会えなくて泣いてそうね、あの子なら」

エマとリーサが冷ややかにブノワトを見る。


この時点で、周囲の貴族たちはすでにクロフォード家の娘から興味を失っていた。同世代の少年少女たちはなにやら関り合いがあるようだが、社交界の利点になるような相手ではないと評価されている。

侯爵らは客たちの興味をさりげなく自分たちの方へと誘導している。


「止めなくていいのか?ルチアーノ」

「いや…どちらかというと、なにかある前にお前をここから引き離しておく方が先決かと思っているよ、王子殿下」

ルチアーノは周囲に目を光らせながら「何しにきたんだ、彼女は」とぼやく。

「案外なにも考えていないんじゃないかな」

「は?」


アドリアンは思う。

ブノワトはきっとただ令嬢生活を体験したいだけ。美しいドレスを着て、華やかな者に囲まれ、美味いものを楽しみ、好きなものを愛おしむ。取って代われるのなら、レイラでもハンナでも、それは誰でもいい。

彼女は令嬢に憧れを持つただの『少女』だ。


「アドリアン、お前ブノワトと知り合いか?」

「いいや?…でも」

そういう子だったなあと思って。


アドリアンの言葉にルチアーノは眉を顰めた。


「新しいお客が来たっていうのに誰も挨拶に来ないじゃない。あなたのパーティーもたかが知れているわね」

「なにを言ってるのよ。招待客はみんなクロフォード家より上位の貴族よ。まずはあなたから全員に挨拶するのが筋よ」

「まあ!ハンナはあなたの友人でしょう?友情に身分差を持ち出すの?」

「ハンナは大切な友達だけど、あなたは違うでしょう、ブノワト。それに友人といえど家格の差は理解しておいてもらわないと困るわ。特に公の場ではね」


レイラはきつく目を細める。

今日のパーティーでは、ハンナに社交界を実地で体験してもらうのと同時に、彼女の名誉を挽回することが目的だった。なのにこれではご破算だ。それどころかクロフォード家の名にも傷がつく。


「わたくしの誕生日なのにお祝いひとつ言えないなんて、ひどい礼儀知らずよね。ここはあなたのいる場所ではないわ。帰りなさい」

「あら、私まだ侯爵家のお菓子を堪能していないの。特別なんでしょう?ハンナが言っていたわ」

「いい加減、恥というものを知りなさいよ」

「なによ、私は侯爵家の蝋印の招待状を持っているんだから!」

「ああもう!その招待状はケーキバイキングの整理券とはわけが違うの!」


レイラはうんざりしていた。


「あなた、クロフォード家の養女になる話が出ているのでしょう?」

「まあ、あなたの耳にまで届いているのね」


うきうきと目を輝かせるブノワトに、レイラは頭を抱える。


「…そのままだったらクロフォード家まで没落するわね」

「私の実家の爵位を剥奪したのはあなたよ、レイラ!」

「だから違うわよ。最後は王宮の判断よ」


レイラは手をあげて人を呼んだ。

駆けつけたのはマリーだ。レイラの肩口からブノワトを睨む。


「お呼びでしょうか、お嬢様」

「この迷惑なお客様にいくつかお菓子を包んでくれる?」

そしてレイラはブノワトに言った。

「いい?持たせてあげるからもう黙って帰ってちょうだい」

「ふふ、わかったわ」

ブノワトは勝ち誇ったいやらしい顔でマリーを見る。ああもう、胸がむかむかするったら。


あれもこれもとうるさいブノワトをあしらい、レイラは次にノアを呼ぶ。

「お客様がお帰りよ」

「馬車の用意はできています」

「上出来だわ」

レイラははやく帰れとブノワトを追い立てる。

上機嫌なブノワトはいやにゆったりと歩いていて、その後ろ姿だけは無駄に優美で本当にいやになる。


見送る視線の中にイリスとマルセルのものがあった。

「まるで物乞いね」

イリスの非難の言葉に頷きかけたマルセルは、ん?と目を細めて遠くを見た。


「レイラ!」


ブノワトを追い返して、ほうと息をついたレイラの元へルチアーノがやってくる。


「ああルチアーノ様…。やっとブノワトが帰ったわ。あら?アドリアン殿下は?」

「ブノワトがなにか騒ぎを起こすんじゃないかと思って、移動してもらった。護衛の兵士たちと一緒だよ」

「そう、ありがとう」


もしアドリアンになにかあったら一大事だ。
ほっと胸を撫で下ろした、そのとき。


「きゃあああああ!!」


屋敷の外から鋭い悲鳴が響き渡った。
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