転生令嬢はもっとゆめかわいいをお望み

しおだだ

文字の大きさ
28 / 31

28

しおりを挟む
「冷えるようでしたらこちらをどうぞ」


トマの侍従であるノアが、ハンナにそっとブランケットを差し出す。

この日のために特別に用意したそれはドレスと同じラズベリー色でフードもついている。


「あ、ありがとう…?」


受け取ったはいいが、ハンナは見慣れない形に首を傾げるばかり。ノアは表情を緩めた。


「少々失礼致します」


ふぁさ、と肌触りのいいケットをハンナの肩にかけて、スマートな手つきでするすると首元でリボンを結んでしまう。


「はい、出来ました」


ノアがにこりと微笑んで、ラズベリー色の赤ずきんちゃんは、ぽんっと顔を真っ赤に染めた。


「あああ、ありっ、ありがとう、ございます…!!」

「どういたしまして」


―――殿下、さっそく破れたり。


ノアは本当に伏兵だわ、とレイラは合掌した。


「レイラ。だんだん陽も陰ってきたし、わたくしも寒くなってきたわ」


同じように肩からブランケットを羽織ったエマが身を竦ませて言う。


「ごめんなさいね。このあと催しが控えているから、あと少しだけ我慢してちょうだい。マリー、エマに温かい飲み物を」

「はい、お嬢様」


マリーがエマに新しい飲み物を差し出すと、彼女はもう違うところに意識を持っていかれていた。

「催しってなにかしら、わくわくしちゃう!」


太陽が低くなってきて、すこしずつ風が冷たくなっていく。まだ本格的な寒さでなくとも、ずっと外にいるとじわじわと冷えて、全員ブランケットを使い身を寄せて暖をとる。


「レイラ、なにがはじまるの?」


リーサの問いかけにいたずらに笑う。


「すぐにわかるわ」


茜色の空に闇がすこしずつ侵食してきて、絶妙なグラデーションが広がる。

美しい光景に、ほうと誰ともなくため息が漏れる。


「マジックアワーよ」


日没前の一瞬の薄明の時間。
空には細い三日月も煌めき、幻想的だ。


「レイラ嬢、たしかにこの瞬間はとても美しいが、催しと言うには…」


マルセルの言葉を遮ったのは、イリスの小さな歓声だった。


「わあ…!マルセル様、ほら!」


イリスに腕を引かれてマルセルが見たのは、小さな小花がぽつんぽつんと光を纏っていくところだった。


「これは……?」

「綺光石よ」


マジックアワーはほんの一時だ。
闇色が深まるにつれ、足元の小さな光が広がっていく。

レイラはふふんと満足げ。


「ハンナのお父様がさっそく送ってくれたものを事前に仕込んでおいたの。小さなものだったけれど、量が量だけになかなかね」


昼間よく晴れて陽射しがたっぷりあったのもよかったのだろう。


「すごい、素敵…!」

「きれいね!!」

「…まるで夢みたいだわ」


光を覗き込むリーサに、ステップで喜びを体現するエマ、うっとりしすぎて呆然としているハンナ。

イリスはマルセルの手を引いて、光る小花の間を歩いている。


「あんなに喜んでもらえるとうれしいわね。パンのように石を撒いた甲斐があったわ」

レイラは嬉しそうに言った。


「レイラはパンを撒いたことがあったのか」

「あら、例えよ例え」


実は準備の段階で、弟のトマもいっしょに石を撒いていた。

そのときのトマは不満だらけだったが、リーサが喜んでいる姿を見るとなんだかくすぐったくなる。…オレも手伝ったんだよ、なんて。


「見事だな…。父王はなぜレイラが綺光石を求めたのか疑問に思っていて、正直オレも同感だったんだが、この景色を見たら考えが変わったよ」

「だろう?レイラは素晴らしいんだ」


腕を組んで光を見つめるアドリアンの隣に、ルチアーノが並ぶ。レイラを称えるルチアーノは誇らしげだ。


トマと話していたレイラが、うふふとうれしそうにルチアーノに近づいていく。


「ルチアーノ様」

「レイラ、本当に素敵だ」

「ええ。わたくしもこんなに光るなんて思ってませんでした。嬉しい誤算ね」

「いや」


ルチアーノの腕がレイラの腰を引き寄せる。


「違う、レイラが素晴らしいと言っている」

「まあ…!」


レイラは驚きでまあるく口を開ける。
くすくすと嬉しそうに笑って、そのままルチアーノと光の中を並んで歩く。とても楽しそうに。


「…………」


その後ろ姿をトマは黙って眺めていた。


「お姉ちゃん取られちゃって、怒ってる?」

「ロイドさん」


そんなトマに背後から声をかけてきたのは、ロイドだった。彼の一歩後ろには手を繋いだマリーがいる。


「違いますよ、そんなんじゃなくて…」


トマは思った。
子供の頃、打算もなにもなく、ただ純粋にレイラを想って協力するのが好意だと思っていた。

そして自分もそうしたいと思っていたが、根本的にレイラの趣味がよく理解できなかったのだ。…それはいまもだが。

姉であるレイラへ親愛の情から、できることはしてやりたいと思うが、理想の通りできていたかと言うと疑問が残る。トマはいつもレイラのアイディアに否定から入ってしまうから。


けれどルチアーノはどうだろう。

レイラへの愛情をきちんと認めたルチアーノは、いまではレイラから逃げず、きちんと肯定して応援している。

そしてそれはレイラの奇抜なアイディアだけでなく、レイラ自身を支えている。


「…レイラ、ルチアーノ様といてよかったなと思って」


「まあ!」

ロイドが叫ぶ。

「まあまあまあ!!」


「トマ様……!」

その後ろではマリーまでもが感激に打ち震えている。


「やったわね、ルチアーノ様!やっとトマ様に認めてもらえたわよ!」


「ええ!?」


ロイドが遠くにいるルチアーノへ大声で呼び掛けて、驚きの声を上げたのはトマだ。


「はあ!?なに言ってるんだよ、オレは最初から認めていたぜ!?ルチアーノ様、ずっとレイラの婚約者だろ!?」

「それは対外的にでしょう?お嬢様の弟であるトマ様は、内心では姉を取られたくないと思っていたはず。違う?」

「そんなことないよ!」


トマにもちゃんと婚約者がいるのだ。
以前にリーサにも勘違いされてしまったが、誤解はちゃんと解いている。トマは弟としてレイラを気にかけていて、それ以上ではない。当然だ。


「ふふ、姉弟だものね。でも、お嬢様風にいうと、それってシスコンって言うらしいわよ」

「っもういいよ!レイラのことはルチアーノ様に任せる!!」


煽られてついにトマが吠えた。
言質取ったりと笑うロイドに悔しくなる。


「…くそ、ロイドさんは意地悪だな」

「姉の幸せを望むなら、まずは弟が姉離れしないと。そろそろお邪魔虫は不要よ」


そしてロイドはちらりとマリーを見た。

マリーは喜び勇んでレイラの元に駆け寄り、トマの様子を告げている。


「……あの侍女にも主離れしてほしいけれど」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした

エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ 女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。 過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。 公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。 けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。 これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。 イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん) ※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。 ※他サイトにも投稿しています。

転生した子供部屋悪役令嬢は、悠々快適溺愛ライフを満喫したい!

木風
恋愛
婚約者に裏切られ、成金伯爵令嬢の仕掛けに嵌められた私は、あっけなく「悪役令嬢」として婚約を破棄された。 胸に広がるのは、悔しさと戸惑いと、まるで物語の中に迷い込んだような不思議な感覚。 けれど、この身に宿るのは、かつて過労に倒れた29歳の女医の記憶。 勉強も社交も面倒で、ただ静かに部屋に籠もっていたかったのに…… 『神に愛された強運チート』という名の不思議な加護が、私を思いもよらぬ未来へと連れ出していく。 子供部屋の安らぎを夢見たはずが、待っていたのは次期国王……王太子殿下のまなざし。 逃れられない運命と、抗いようのない溺愛に、私の物語は静かに色を変えていく。 時に笑い、時に泣き、時に振り回されながらも、私は今日を生きている。 これは、婚約破棄から始まる、転生令嬢のちぐはぐで胸の騒がしい物語。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、Wednesday (Xアカウント:@wednesday1029)さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎子供部屋悪役令嬢 / 木風 Wednesday

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

婚約破棄された悪役令嬢の心の声が面白かったので求婚してみた

夕景あき
恋愛
人の心の声が聞こえるカイルは、孤独の闇に閉じこもっていた。唯一の救いは、心の声まで真摯で温かい異母兄、第一王子の存在だけだった。 そんなカイルが、外交(婚約者探し)という名目で三国交流会へ向かうと、目の前で隣国の第二王子による公開婚約破棄が発生する。 婚約破棄された令嬢グレースは、表情一つ変えない高潔な令嬢。しかし、カイルがその心の声を聞き取ると、思いも寄らない内容が聞こえてきたのだった。

処理中です...