転生令嬢はもっとゆめかわいいをお望み

しおだだ

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31 結婚式

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リンゴンと祝福の鐘が鳴り響き、色鮮やかなフラワーシャワーが飛び交う。


「おめでとう!」

「お幸せに!」

「二人ともとても素敵!」


花嫁と花婿に向けて溢れる、たくさんの祝福。

レイラは目を潤ませた。


「本当に、すごくきれいよ」


「…ありがとうございます」


純白のウェディングドレス姿の少女も微笑みながら眦を拭う。シナモンベージュの肩上内巻きボブがかわいらしいレイラの侍女、マリーだ。

彼女の隣に立つのは白いタキシードを着た美青年。
背が高く、ゆめかわいい藤色のロングヘアが印象的な彼の名は、ロイド・デル・テスタ。レイラのブランドの共同経営者でもある。


今日はレイラの大切な侍女とその恋人の結婚式だ。レイラは花嫁付添人として参列している。


マリーのウェディングドレスは透明のビーズで刺繍が施されており、動く度にきらきらと七色の光を反射する。ロイドのタキシードもまた同様。

もちろんレイラパピヨンのデザインである。
ロイドといっしょに、いかにマリーを美しく引き立てるか、悩みに悩み抜いて考えた。


パピヨンの全力プロデュースは、新郎新婦の衣装だけではなく、結婚式全体に及ぶ。けれどレイラが奮闘しなくとも、この式は素晴らしいものになっただろう。


娘マリーの結婚式にあわせて、普段は侯爵領を管理している男爵も王都の屋敷まで飛んできた。

著名な芸術筋と名高いデル・テスタ家からは、宮廷音楽家を務めるロイドの祖父が楽団を率いてやってきた。華やかで壮麗な生演奏だ。

同じく宮廷画家を務めるロイドの父は、一心不乱に式の様子を絵に残していて、写実的、いや写真にも劣らないリアルすぎる絵を何枚も描いている。

ロイドの母は妖艶な踊り子だった。
艶かしいダンスを披露したと思ったら、オーセンティックなダンスを完璧に踊る。そのギャップがすごい。


モンタールド侯爵は結婚立会人を務めた。
侯爵の前で二人は結婚誓約書に署名して、晴れて夫婦となったのだ。


「うふふ。マリーかわいい、ロイド様も素敵」

「ロイド様、ついに念願かなったわね」

「いいなぁ。わたくしもはやく結婚したいわ」

「ほんと、羨ましい…」


エマ、リーサ、イリス、そして悩ましげにため息をつくハンナも、全員ブライズメイドとしてお揃いのスイートなシャーベットカラーのドレスを着ている。

それは特別にしあわせな日のしあわせな光景。

レイラは目を細めた。


「レイラ」


呼び掛けられて振り返ると、天鵞絨色の髪の婚約者が佇んでいる。


「ルチアーノ様」


差し出された手に手を重ねようとして、「あら」と彼の胸元に気付く。


「見覚えがあるわ、このチェーン飾り」


ルチアーノの琥珀色の瞳に似た、黄水晶のちいさな星がついた懐中時計のチェーン飾り。


「ぼくも覚えがあるな、そのネックレス」


レイラの首元で光るのは、彼女の瞳の色と同じブルーサファイアのちいさな星のネックレス。


「やっとつけてくれたのね!」


レイラはうれしくなって彼に飛びつく。


「やっと宝石箱から出してくれたんだね」


ルチアーノもなんなく彼女を受け止めた。


うふふと微笑み合うカップルに「今日の主役はマリーとロイド様よ」なんて冷やかしの声がかかる。


「わたくしも婚約者様としあわせになるわ」


振り返ったレイラは、ルチアーノの首に両腕を回したまま、とてもうれしそうに微笑んだ。



***
『七色のパピヨン』

架空の国を舞台にした、ある乙女ゲームのタイトルだ。ヒロインは桃色の髪の少女で、5人のカラフルな攻略対象とそれぞれの恋愛を楽しむ。

ゲーム内でどの攻略ルートでも共通して登場するのが、レイラ・モンタールドという当て馬令嬢。

5人のヒーローたちはそれぞれ婚約者がいたりするのに、ライバルキャラとして立ちはだかるのは必ずレイラだ。
弟と仲が良すぎる姉だったり、婚約者がいるのに攻略対象といい感じになったり。

けれどレイラはいつもヒロインには勝てない。

そして最後はこう言うのだ。
『やっぱりわたくしも婚約者様と幸せになりますわ』――と。


「でもさ、それを言えない相手が唯一いるんだよね」

「………?」


ゲームの中でもレイラの婚約者はルチアーノだった。ではルチアーノルートのラストはどうだっただろうか。
ルチアーノはヒロインを選んで、レイラは捨てられる。その後のことは語られない。別な形で幸せになるかもしれないし、ならないかもしれない。

バッドエンドのないぬるい恋愛ゲームといわれたが、唯一、ルチアーノルートだけがレイラにとってのバッドエンドだ。

もちろん他のルートでも浮気心のあったレイラが幸せになるのかは確かではない。けれどそんなものは些末なことだ。

幸せになりたいと思う相手がいるのか、いないのか、それが重要だ。


―――そう、特に彼女の父親にとっては。


「かわいい娘と婚約させてやったのに、心変わりされちゃあ許せないよね」

「どうしたんですか、侯爵」


モンタールド侯爵の突然の呟きに黒い商人と呼ばれる男は首を傾げた。


「ん?選ばなかったらただじゃおかないよなって話」


モンタールド侯爵はにこりと微笑む。


「……っ?!」


ルチアーノは突然の寒気にぶるりと背を震わせた。


「どうしたの、ルチアーノ様?」

「えっと、なんか、悪寒が…?」



おしまい
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