転生令嬢はゆめかわいいをお望み

しおだだ

文字の大きさ
28 / 59
◇◇◇

28 レイラパピヨン

しおりを挟む
「おはようございます、お嬢様」

「おはよう、マリー」


侍女のマリーがレイラの部屋を訪れると、部屋の主はすでに目覚めていた。

ゆったりとベッドから降りるレイラはお気に入りのルームウェア姿で、無防備にさらけ出されたみずみずしく艶かしい長い脚に、マリーですら目のやり場に困る。

ここ数年でレイラはますます美しくなった。

目鼻立ちがはっきりとしてかわいらしかった少女は、女性らしさを伴うにつれて、かぐわしいほど華やかになった。


完璧なスタイルをもつ主人を前にして、マリーは自分の薄くて細い肢体を見下ろす。


「…………」

「マリー?どうかした?」

「いえ!なんでもございません。今日のお召し物はいかがいたしましょうか?」


蒸しタオルで顔を拭ったレイラがきょとんとこちらを見ていて、マリーは慌てて首を横に振った。


レイラのワードローブには普通の御令嬢が持たないような服がたくさんある。

ワンピースやドレス以外にも、スカートやブラウス、カットソー、男性が着るようなズボンやジャケットなど。

それらはレイラの所有するブランドの試作品や、レイラが独特の感性で職人たちやロイドに仕立ててもらった服たちだ。


「うーん、そうね。今日は特に予定もないし、楽な格好にしようかしら」


そう言ってレイラは、白いドレスシャツと柔らかい素材のシフォンスカートを選ぶ。

マリーはレイラの着替えを手伝い、装いに合わせて髪を整えた。


「お嬢様、今日もお美しいです」

「ありがとうマリー」


ダイニングに向かうと、弟のトマとその従者であるノアと顔をあわせた。


「おはようトマ。おはようノア。」

「おはよう、レイラ」

「おはようございます」


ダイニングの定位置に腰を下ろせば、すぐに朝食の用意がはじまる。

トマもいつもの席に座り、レイラを見た。


「レイラ、それこの間の?」

自身の首を指差すトマに頷く。

「そうよ、この前あなたにもらった真珠のネックレス。どう?」

「うん、よく似合ってる」

「かわいいデザインだけど、姉と同じものをリーサに渡すのはおすすめしないわよ」

「えっ!?わかってるよ…」


大きな一粒パールのネックレスはとてもかわいいけれど、トマが誰を想って選んだのかなんて姉にはお見通し。


「わたくしになんて渡してないで、直接リーサに渡せばいいじゃない」


トマから渡されるものはいつも適当で、包装されていないことも多いのに、わざわざ箱になんて入っていたらすぐわかる。


「だってレイラのセンスは間違いないだろ?」

「ありがとうと言いたいところだけど、いつからトマはそんなにヘタレになったのかしら?」

「んんっ!?げほげほっ!」


トマはタイミングよく水を口に含んだところで、盛大にむせた。レイラはやれやれとそんな弟を眺める。


トマとリーサは相変わらずレイラ主催のゆめかわお茶会で仲良くしているが、でもそれだけ。
焦れったいなと臍を噛むのは外野ばかり。

リーサだってきっといくつも婚約話があるだろうに、いまだ相手を決めていないんだから、トマさえ望めばとんとん拍子だろう。


「おや、何の話だい?」


ちょうどそこへ父と母が揃って現れる。


「おはようございます、お父様、お母様」

「おはようレイラ、トマ」

「いまね、トマにいつになったらリーサに求婚するの?って話をしていたのよ」

「ちょ、そんな話じゃなかっただろ!?」

「ははは。それは私も気になるな」

「まあまあ、トマもタイミングをみているのよね?」

「そう!そうです、母様!」

「うふふ、待たせ過ぎて逃げられないようにね?」

「ぐっ!?」

母の言葉は見事トマに被弾した。


全員揃ったところで和やかに朝食がはじまる。


「トマ、今日は私の視察に付き合う予定だったよね?運河のほうに行くから準備しておいて」

「わかりました。ノア、よろしく」

「了解しました」


「レイラは紡績の報告書が届いているから、ロイドくんと確認しておいてくれる?必要分の発注もしておいて」

「わかりました」


「わたくしは午後からマダムのアフタヌーンティーに参加するわ」

「お母様、それなら新作のバッグを持っていってくれないかしら?」

「ありがとう。レイラパピヨンはマダムたちの間でも評判なのよ。また羨ましがられちゃうわね」


食事をしながら予定の確認と指示が飛ぶ。
家族が揃うのがこの時間帯だけの日も多いため、重要な日課だ。

食事が終われば慌ただしく解散となる。


自室に戻ったレイラはひと心地ついた後、そこから昼過ぎまで家庭教師の授業を受ける。いまではずいぶん科目も減り、残るは教養や令嬢としての嗜みくらい。授業といっても雑談で終わる内容もある。


少し遅めの昼食を取ってからレイラは中庭に出る。
日課であるラズベリーの木への水やりだ。


ラズベリーはいまでは大変大きくなり、庭師によって花壇の一角で株分けされた。それらがますます威勢よく育っている。

収穫期にはジャム屋でも開けるんじゃないか、と料理長が嘯くくらい。
嘘か真実か、ラズベリーの実がつく頃には、毎年モンタールド侯爵家主催でガーデンパーティーが開かれる。もちろんラズベリーを使ったメニューがどっさり並ぶのだ。


水やりをしながら、レイラはふと中庭に置かれた白いベンチやサンルームを眺めた。


もちろんガーデンパーティーにはルチアーノも参加する。けれど、いまとなっては彼とはそういったイベントでしか顔を合わせなくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

乙女ゲームのヒロインに転生したのに、ストーリーが始まる前になぜかウチの従者が全部終わらせてたんですが

侑子
恋愛
 十歳の時、自分が乙女ゲームのヒロインに転生していたと気づいたアリス。幼なじみで従者のジェイドと準備をしながら、ハッピーエンドを目指してゲームスタートの魔法学園入学までの日々を過ごす。  しかし、いざ入学してみれば、攻略対象たちはなぜか皆他の令嬢たちとラブラブで、アリスの入る隙間はこれっぽっちもない。 「どうして!? 一体どうしてなの~!?」  いつの間にか従者に外堀を埋められ、乙女ゲームが始まらないようにされていたヒロインのお話。

異世界召喚されました。親友は第一王子に惚れられて、ぽっちゃりな私は聖女として精霊王とイケメン達に愛される!?〜聖女の座は親友に譲ります〜

あいみ
恋愛
ーーーグランロッド国に召喚されてしまった|心音《ことね》と|友愛《ゆあ》。 イケメン王子カイザーに見初められた友愛は王宮で贅沢三昧。 一方心音は、一人寂しく部屋に閉じ込められる!? 天と地ほどの差の扱い。無下にされ笑われ蔑まれた心音はなんと精霊王シェイドの加護を受けていると判明。 だがしかし。カイザーは美しく可憐な友愛こそが本物の聖女だと言い張る。 心音は聖女の座に興味はなくシェイドの力をフル活用して、異世界で始まるのはぐうたら生活。 ぽっちゃり女子×イケメン多数 悪女×クズ男 物語が今……始まる

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

【完】チェンジリングなヒロインゲーム ~よくある悪役令嬢に転生したお話~

えとう蜜夏
恋愛
私は気がついてしまった……。ここがとある乙女ゲームの世界に似ていて、私がヒロインとライバル的な立場の侯爵令嬢だったことに。その上、ヒロインと取り違えられていたことが判明し、最終的には侯爵家を放逐されて元の家に戻される。但し、ヒロインの家は商業ギルドの元締めで新興であるけど大富豪なので、とりあえず私としては目指せ、放逐エンド! ……貴族より成金うはうはエンドだもんね。 (他サイトにも掲載しております。表示素材は忠藤いずる:三日月アルペジオ様より)  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

社畜の私は異世界でも社畜精神が残ったままだった

木嶋うめ香
恋愛
貴族学園の小さな部屋で、私は一人書類仕事に追われていた。 今日も寮には帰れそうにない、机の上には大量の未処理の書類。 せめて空腹を紛らわそうと、ビスケットを鞄から取り出し水を汲んでこようとして立ち上がった途端、視界が暗くなり倒れた。 床に倒れた反動で、頭を床にぶつける。 その衝撃で思い出した、私は前世ブラック企業に勤めていた社畜で、二十三連勤サービス残業付きの末、体調を崩し亡くなったアラサー営業職だった。 他サイトでもアップしています。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...