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◇◇◇
28 レイラパピヨン
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「おはようございます、お嬢様」
「おはよう、マリー」
侍女のマリーがレイラの部屋を訪れると、部屋の主はすでに目覚めていた。
ゆったりとベッドから降りるレイラはお気に入りのルームウェア姿で、無防備にさらけ出されたみずみずしく艶かしい長い脚に、マリーですら目のやり場に困る。
ここ数年でレイラはますます美しくなった。
目鼻立ちがはっきりとしてかわいらしかった少女は、女性らしさを伴うにつれて、かぐわしいほど華やかになった。
完璧なスタイルをもつ主人を前にして、マリーは自分の薄くて細い肢体を見下ろす。
「…………」
「マリー?どうかした?」
「いえ!なんでもございません。今日のお召し物はいかがいたしましょうか?」
蒸しタオルで顔を拭ったレイラがきょとんとこちらを見ていて、マリーは慌てて首を横に振った。
レイラのワードローブには普通の御令嬢が持たないような服がたくさんある。
ワンピースやドレス以外にも、スカートやブラウス、カットソー、男性が着るようなズボンやジャケットなど。
それらはレイラの所有するブランドの試作品や、レイラが独特の感性で職人たちやロイドに仕立ててもらった服たちだ。
「うーん、そうね。今日は特に予定もないし、楽な格好にしようかしら」
そう言ってレイラは、白いドレスシャツと柔らかい素材のシフォンスカートを選ぶ。
マリーはレイラの着替えを手伝い、装いに合わせて髪を整えた。
「お嬢様、今日もお美しいです」
「ありがとうマリー」
ダイニングに向かうと、弟のトマとその従者であるノアと顔をあわせた。
「おはようトマ。おはようノア。」
「おはよう、レイラ」
「おはようございます」
ダイニングの定位置に腰を下ろせば、すぐに朝食の用意がはじまる。
トマもいつもの席に座り、レイラを見た。
「レイラ、それこの間の?」
自身の首を指差すトマに頷く。
「そうよ、この前あなたにもらった真珠のネックレス。どう?」
「うん、よく似合ってる」
「かわいいデザインだけど、姉と同じものをリーサに渡すのはおすすめしないわよ」
「えっ!?わかってるよ…」
大きな一粒パールのネックレスはとてもかわいいけれど、トマが誰を想って選んだのかなんて姉にはお見通し。
「わたくしになんて渡してないで、直接リーサに渡せばいいじゃない」
トマから渡されるものはいつも適当で、包装されていないことも多いのに、わざわざ箱になんて入っていたらすぐわかる。
「だってレイラのセンスは間違いないだろ?」
「ありがとうと言いたいところだけど、いつからトマはそんなにヘタレになったのかしら?」
「んんっ!?げほげほっ!」
トマはタイミングよく水を口に含んだところで、盛大にむせた。レイラはやれやれとそんな弟を眺める。
トマとリーサは相変わらずレイラ主催のゆめかわお茶会で仲良くしているが、でもそれだけ。
焦れったいなと臍を噛むのは外野ばかり。
リーサだってきっといくつも婚約話があるだろうに、いまだ相手を決めていないんだから、トマさえ望めばとんとん拍子だろう。
「おや、何の話だい?」
ちょうどそこへ父と母が揃って現れる。
「おはようございます、お父様、お母様」
「おはようレイラ、トマ」
「いまね、トマにいつになったらリーサに求婚するの?って話をしていたのよ」
「ちょ、そんな話じゃなかっただろ!?」
「ははは。それは私も気になるな」
「まあまあ、トマもタイミングをみているのよね?」
「そう!そうです、母様!」
「うふふ、待たせ過ぎて逃げられないようにね?」
「ぐっ!?」
母の言葉は見事トマに被弾した。
全員揃ったところで和やかに朝食がはじまる。
「トマ、今日は私の視察に付き合う予定だったよね?運河のほうに行くから準備しておいて」
「わかりました。ノア、よろしく」
「了解しました」
「レイラは紡績の報告書が届いているから、ロイドくんと確認しておいてくれる?必要分の発注もしておいて」
「わかりました」
「わたくしは午後からマダムのアフタヌーンティーに参加するわ」
「お母様、それなら新作のバッグを持っていってくれないかしら?」
「ありがとう。レイラパピヨンはマダムたちの間でも評判なのよ。また羨ましがられちゃうわね」
食事をしながら予定の確認と指示が飛ぶ。
家族が揃うのがこの時間帯だけの日も多いため、重要な日課だ。
食事が終われば慌ただしく解散となる。
自室に戻ったレイラはひと心地ついた後、そこから昼過ぎまで家庭教師の授業を受ける。いまではずいぶん科目も減り、残るは教養や令嬢としての嗜みくらい。授業といっても雑談で終わる内容もある。
少し遅めの昼食を取ってからレイラは中庭に出る。
日課であるラズベリーの木への水やりだ。
ラズベリーはいまでは大変大きくなり、庭師によって花壇の一角で株分けされた。それらがますます威勢よく育っている。
収穫期にはジャム屋でも開けるんじゃないか、と料理長が嘯くくらい。
嘘か真実か、ラズベリーの実がつく頃には、毎年モンタールド侯爵家主催でガーデンパーティーが開かれる。もちろんラズベリーを使ったメニューがどっさり並ぶのだ。
水やりをしながら、レイラはふと中庭に置かれた白いベンチやサンルームを眺めた。
もちろんガーデンパーティーにはルチアーノも参加する。けれど、いまとなっては彼とはそういったイベントでしか顔を合わせなくなっていた。
「おはよう、マリー」
侍女のマリーがレイラの部屋を訪れると、部屋の主はすでに目覚めていた。
ゆったりとベッドから降りるレイラはお気に入りのルームウェア姿で、無防備にさらけ出されたみずみずしく艶かしい長い脚に、マリーですら目のやり場に困る。
ここ数年でレイラはますます美しくなった。
目鼻立ちがはっきりとしてかわいらしかった少女は、女性らしさを伴うにつれて、かぐわしいほど華やかになった。
完璧なスタイルをもつ主人を前にして、マリーは自分の薄くて細い肢体を見下ろす。
「…………」
「マリー?どうかした?」
「いえ!なんでもございません。今日のお召し物はいかがいたしましょうか?」
蒸しタオルで顔を拭ったレイラがきょとんとこちらを見ていて、マリーは慌てて首を横に振った。
レイラのワードローブには普通の御令嬢が持たないような服がたくさんある。
ワンピースやドレス以外にも、スカートやブラウス、カットソー、男性が着るようなズボンやジャケットなど。
それらはレイラの所有するブランドの試作品や、レイラが独特の感性で職人たちやロイドに仕立ててもらった服たちだ。
「うーん、そうね。今日は特に予定もないし、楽な格好にしようかしら」
そう言ってレイラは、白いドレスシャツと柔らかい素材のシフォンスカートを選ぶ。
マリーはレイラの着替えを手伝い、装いに合わせて髪を整えた。
「お嬢様、今日もお美しいです」
「ありがとうマリー」
ダイニングに向かうと、弟のトマとその従者であるノアと顔をあわせた。
「おはようトマ。おはようノア。」
「おはよう、レイラ」
「おはようございます」
ダイニングの定位置に腰を下ろせば、すぐに朝食の用意がはじまる。
トマもいつもの席に座り、レイラを見た。
「レイラ、それこの間の?」
自身の首を指差すトマに頷く。
「そうよ、この前あなたにもらった真珠のネックレス。どう?」
「うん、よく似合ってる」
「かわいいデザインだけど、姉と同じものをリーサに渡すのはおすすめしないわよ」
「えっ!?わかってるよ…」
大きな一粒パールのネックレスはとてもかわいいけれど、トマが誰を想って選んだのかなんて姉にはお見通し。
「わたくしになんて渡してないで、直接リーサに渡せばいいじゃない」
トマから渡されるものはいつも適当で、包装されていないことも多いのに、わざわざ箱になんて入っていたらすぐわかる。
「だってレイラのセンスは間違いないだろ?」
「ありがとうと言いたいところだけど、いつからトマはそんなにヘタレになったのかしら?」
「んんっ!?げほげほっ!」
トマはタイミングよく水を口に含んだところで、盛大にむせた。レイラはやれやれとそんな弟を眺める。
トマとリーサは相変わらずレイラ主催のゆめかわお茶会で仲良くしているが、でもそれだけ。
焦れったいなと臍を噛むのは外野ばかり。
リーサだってきっといくつも婚約話があるだろうに、いまだ相手を決めていないんだから、トマさえ望めばとんとん拍子だろう。
「おや、何の話だい?」
ちょうどそこへ父と母が揃って現れる。
「おはようございます、お父様、お母様」
「おはようレイラ、トマ」
「いまね、トマにいつになったらリーサに求婚するの?って話をしていたのよ」
「ちょ、そんな話じゃなかっただろ!?」
「ははは。それは私も気になるな」
「まあまあ、トマもタイミングをみているのよね?」
「そう!そうです、母様!」
「うふふ、待たせ過ぎて逃げられないようにね?」
「ぐっ!?」
母の言葉は見事トマに被弾した。
全員揃ったところで和やかに朝食がはじまる。
「トマ、今日は私の視察に付き合う予定だったよね?運河のほうに行くから準備しておいて」
「わかりました。ノア、よろしく」
「了解しました」
「レイラは紡績の報告書が届いているから、ロイドくんと確認しておいてくれる?必要分の発注もしておいて」
「わかりました」
「わたくしは午後からマダムのアフタヌーンティーに参加するわ」
「お母様、それなら新作のバッグを持っていってくれないかしら?」
「ありがとう。レイラパピヨンはマダムたちの間でも評判なのよ。また羨ましがられちゃうわね」
食事をしながら予定の確認と指示が飛ぶ。
家族が揃うのがこの時間帯だけの日も多いため、重要な日課だ。
食事が終われば慌ただしく解散となる。
自室に戻ったレイラはひと心地ついた後、そこから昼過ぎまで家庭教師の授業を受ける。いまではずいぶん科目も減り、残るは教養や令嬢としての嗜みくらい。授業といっても雑談で終わる内容もある。
少し遅めの昼食を取ってからレイラは中庭に出る。
日課であるラズベリーの木への水やりだ。
ラズベリーはいまでは大変大きくなり、庭師によって花壇の一角で株分けされた。それらがますます威勢よく育っている。
収穫期にはジャム屋でも開けるんじゃないか、と料理長が嘯くくらい。
嘘か真実か、ラズベリーの実がつく頃には、毎年モンタールド侯爵家主催でガーデンパーティーが開かれる。もちろんラズベリーを使ったメニューがどっさり並ぶのだ。
水やりをしながら、レイラはふと中庭に置かれた白いベンチやサンルームを眺めた。
もちろんガーデンパーティーにはルチアーノも参加する。けれど、いまとなっては彼とはそういったイベントでしか顔を合わせなくなっていた。
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